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10 伝説の魔法
135 伝説の魔法10
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◇
「体が痛い……」
1日寝れば治るなんて甘いことを考えていた。
僕の体は治るどころか、昨晩よりも痛いまである。それに加えて、かなりの空腹感が襲いくる。疲れて頭が働かないのに、体のあらゆる器官は正常に働いているらしい。
「腹減った」
思えば昨日の朝から何も食べていない。
10時間にほんの少しの休憩をはさんで、ほぼぶっ通しで修行していてご飯を食べる時間すらないままに眠りについた。あれだけ過激な修行をして何も食べていないのだから腹は減るに決まっている。
僕はベッドの横に置かれている時計を見た。時刻は6時丁度を指しているので、丸1日眠っていた場合を除き現在が朝の6時であることは間違いないだろう。どうやら12時間近く眠っていたらしい。疲労というのは恐ろしいものだ。
隣のベッドにメリーの姿はもうない。たぶん朝の仕込みを手伝っているのだろう。
最近は修行ばかりしていて仕事もロクにしていない僕とは大違いだ。メリーとイチゴも勇者としての特訓に励んでいるだろうに……僕はなんて体たらくなのだろう。
「くだらないこと考えてないで、さっさと起きよ」
ベッドから起き上がって気が付いたが、どうやら僕は服を着替えていたらしい。まるでそんな記憶はないのだけど、文字通り引きずりまわされて汚れていた服のまま布団に入っていたら大変なことになっていただろうから良しとしよう。
ケントニスはいつも朝の7時ぐらいにはやってくる。早く準備しておかないと、眠気眼で激しい訓練を受けることになるわけだ。命がいくつあっても足りない。
というより、今日に限っては朝食を抜いたら本気で死ぬ。
「――おはようございます」
ケントニスがいないことを注意深く確認してから店の方に入る。
ちょうどメリーが開店準備で机を拭いているところだった。そんな妹が僕の方を振り返って「おはよう」と返してくれる。
微笑ましい朝の日常ではあるものの、状況をよく整理して考えてみるとニートの兄を養う妹の図になる。しかも兄は職業訓練を恐れているわけだ。ケントニスとの訓練を職業訓練というレベルに収めればの話だが。
「ケン、昨日は災難だったな……」
声の方を振り返ってみると、厨房からイチゴがこちらを覗いていた。
「あんな服、誰が着るんですか?」
『僕以外に』という言葉が先につくが、一体誰に需要があると言うのだろうか。魔法使いは基本的に訓練を受けたりはしないし、そもそも殆どの獣人はそこまで魔力を重視していない。魔力の本当の使い方を知らないし、自然に扱える分で十分なわけだ。僕のような弱者とは違う。
イチゴもそのことをよく理解しているのだろう、なんとも苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「世界は広い。変なやつは山ほどいるってことだ」
確かにどこの世界にも変な奴はいるが……着ているだけで命の危険がある服を誰が好き好んで着るだろう。と思ったが、特殊性癖の人間なら迷わず着るかもしれない。僕が知っている世界なんてまだまだ狭いという事だ。どこにどんな奴がいるかなんてわからない。
一応はイチゴの言い分に納得する。意味深なイチゴの表情は僕の知らない何かを知っているからだろう。彼女も苦労しているのだ。
僕は「なるほど」と一言こぼして、それ以上はそのことには触れないようにした。
「ところで、ケントニスさんはまだ来られてないんですかね?」
ケントニスがいつも来店する時刻には早いが、もしかしたら僕のふがいなさを嘆いて早めに来ているかもしれないと思ったが、イチゴは大きく首を振った。
どうやらケントニスは出勤時間には忠実らしい。思えば修行を切り上げる時間も基本的に同じ時刻ぐらいだった気がする。
僕は外を行くスーツ姿の獣人たちを横目に、『世界中のブラック企業も彼女のあり方を見習えばいいのに』なんて ことを考える。
「あいつは昔からそうだ。必要以上に働かないし、根性論をすこぶる嫌っている……やりたくないことを必要以上にやっても成長しないってことを理解していたんだろうな」
昔を懐かしむ口調でイチゴは話す。
それで最強の魔法使いになれるんだから彼女の才能は僕が女神に押し付けられた恩恵よりも優れていたのだろう。そう考えると女神のチート能力とやらも底が知れる。
「まあ、あいつは魔法を勉強することを心の底から楽しんでいたからな……魔法に関することなら寝る時間も惜しんで率先して学んでいたよ」
「前言撤回……」
思わず僕はつぶやく。
イチゴはそれを聞いて『何言ってんだこいつ』みたいな表情をした。
しかし、誰にどう思われようと僕は僕が情けない。人の努力を『才能』という言葉で片付けようとしたのだから。どれほどの天才であったとしても結局のところ努力しなくては天才足りえないのだ。今の僕がそうだ。直接女神から才能を強引にとは言えど授けられたわけだ。それすなわち天賦の才だ。そんな才能に恵まれた僕が彼女の期待に応えられないのは、結局のところ努力不足という事に他ならない。
口では『妹のため』だとかほざいているが、家族のために努力することすら出来ないダメな人間なのだ。
「ケントニスさんは最初から強かったわけではないんですよね?」
「最初から強い獣人なんているはずがないだろう。むしろ奴は魔力量が通常より少ないんだ……相当苦労していた。まあ楽しんでもいたがな」
昔を懐かしむようにイチゴは笑う。
『努力する者は楽しむ者には勝てず』と言う言葉を思い出した。確か孔子の言葉だ。やりたくないことを嫌々やっている人より、好きなことを飽きることなくやり続けられる人のほうが身になりやすいということだろう。
僕はそのどちらでもない。努力すら一人では出来ない怠け者に過ぎなかった。
「体が痛い……」
1日寝れば治るなんて甘いことを考えていた。
僕の体は治るどころか、昨晩よりも痛いまである。それに加えて、かなりの空腹感が襲いくる。疲れて頭が働かないのに、体のあらゆる器官は正常に働いているらしい。
「腹減った」
思えば昨日の朝から何も食べていない。
10時間にほんの少しの休憩をはさんで、ほぼぶっ通しで修行していてご飯を食べる時間すらないままに眠りについた。あれだけ過激な修行をして何も食べていないのだから腹は減るに決まっている。
僕はベッドの横に置かれている時計を見た。時刻は6時丁度を指しているので、丸1日眠っていた場合を除き現在が朝の6時であることは間違いないだろう。どうやら12時間近く眠っていたらしい。疲労というのは恐ろしいものだ。
隣のベッドにメリーの姿はもうない。たぶん朝の仕込みを手伝っているのだろう。
最近は修行ばかりしていて仕事もロクにしていない僕とは大違いだ。メリーとイチゴも勇者としての特訓に励んでいるだろうに……僕はなんて体たらくなのだろう。
「くだらないこと考えてないで、さっさと起きよ」
ベッドから起き上がって気が付いたが、どうやら僕は服を着替えていたらしい。まるでそんな記憶はないのだけど、文字通り引きずりまわされて汚れていた服のまま布団に入っていたら大変なことになっていただろうから良しとしよう。
ケントニスはいつも朝の7時ぐらいにはやってくる。早く準備しておかないと、眠気眼で激しい訓練を受けることになるわけだ。命がいくつあっても足りない。
というより、今日に限っては朝食を抜いたら本気で死ぬ。
「――おはようございます」
ケントニスがいないことを注意深く確認してから店の方に入る。
ちょうどメリーが開店準備で机を拭いているところだった。そんな妹が僕の方を振り返って「おはよう」と返してくれる。
微笑ましい朝の日常ではあるものの、状況をよく整理して考えてみるとニートの兄を養う妹の図になる。しかも兄は職業訓練を恐れているわけだ。ケントニスとの訓練を職業訓練というレベルに収めればの話だが。
「ケン、昨日は災難だったな……」
声の方を振り返ってみると、厨房からイチゴがこちらを覗いていた。
「あんな服、誰が着るんですか?」
『僕以外に』という言葉が先につくが、一体誰に需要があると言うのだろうか。魔法使いは基本的に訓練を受けたりはしないし、そもそも殆どの獣人はそこまで魔力を重視していない。魔力の本当の使い方を知らないし、自然に扱える分で十分なわけだ。僕のような弱者とは違う。
イチゴもそのことをよく理解しているのだろう、なんとも苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「世界は広い。変なやつは山ほどいるってことだ」
確かにどこの世界にも変な奴はいるが……着ているだけで命の危険がある服を誰が好き好んで着るだろう。と思ったが、特殊性癖の人間なら迷わず着るかもしれない。僕が知っている世界なんてまだまだ狭いという事だ。どこにどんな奴がいるかなんてわからない。
一応はイチゴの言い分に納得する。意味深なイチゴの表情は僕の知らない何かを知っているからだろう。彼女も苦労しているのだ。
僕は「なるほど」と一言こぼして、それ以上はそのことには触れないようにした。
「ところで、ケントニスさんはまだ来られてないんですかね?」
ケントニスがいつも来店する時刻には早いが、もしかしたら僕のふがいなさを嘆いて早めに来ているかもしれないと思ったが、イチゴは大きく首を振った。
どうやらケントニスは出勤時間には忠実らしい。思えば修行を切り上げる時間も基本的に同じ時刻ぐらいだった気がする。
僕は外を行くスーツ姿の獣人たちを横目に、『世界中のブラック企業も彼女のあり方を見習えばいいのに』なんて ことを考える。
「あいつは昔からそうだ。必要以上に働かないし、根性論をすこぶる嫌っている……やりたくないことを必要以上にやっても成長しないってことを理解していたんだろうな」
昔を懐かしむ口調でイチゴは話す。
それで最強の魔法使いになれるんだから彼女の才能は僕が女神に押し付けられた恩恵よりも優れていたのだろう。そう考えると女神のチート能力とやらも底が知れる。
「まあ、あいつは魔法を勉強することを心の底から楽しんでいたからな……魔法に関することなら寝る時間も惜しんで率先して学んでいたよ」
「前言撤回……」
思わず僕はつぶやく。
イチゴはそれを聞いて『何言ってんだこいつ』みたいな表情をした。
しかし、誰にどう思われようと僕は僕が情けない。人の努力を『才能』という言葉で片付けようとしたのだから。どれほどの天才であったとしても結局のところ努力しなくては天才足りえないのだ。今の僕がそうだ。直接女神から才能を強引にとは言えど授けられたわけだ。それすなわち天賦の才だ。そんな才能に恵まれた僕が彼女の期待に応えられないのは、結局のところ努力不足という事に他ならない。
口では『妹のため』だとかほざいているが、家族のために努力することすら出来ないダメな人間なのだ。
「ケントニスさんは最初から強かったわけではないんですよね?」
「最初から強い獣人なんているはずがないだろう。むしろ奴は魔力量が通常より少ないんだ……相当苦労していた。まあ楽しんでもいたがな」
昔を懐かしむようにイチゴは笑う。
『努力する者は楽しむ者には勝てず』と言う言葉を思い出した。確か孔子の言葉だ。やりたくないことを嫌々やっている人より、好きなことを飽きることなくやり続けられる人のほうが身になりやすいということだろう。
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