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10 伝説の魔法
138 伝説の魔法13
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魔力を吸い取る服の辛さというのは、それを着たことがある者にしかわからない。
だけど、どうやら着たことがあるすべての者がそれを理解できるわけじゃないってことを今思い知らされた。
「久しぶりに着てみたけど、やっぱり魔力の調整って楽しいね?」
目の前で僕と同じ服を着ているケントニスが、まるでつらそうなそぶりすら見せず、むしろ楽しそうに跳ね回っている。そこに僕はある種の絶望を見た。
僕は『努力の天才』という言葉が嫌いだった。だってそれは、努力しないやつらの言い訳に過ぎないのだから。才能があるにも関わらず、努力しない人間が嫌いだ。運命に身を委ねて自分では何も起こそうとしないからだ。そんな奴に限って人のことを見下している。もちろんこれは僕の思い込みに過ぎない。
それはさておき、僕にとっては辛いだけのものをいとも簡単に、それも楽しそうにやられたんじゃ僕の立つ瀬がない。
「どうしたの?」と、訊ねる彼女はやはりまるでつらそうなそぶりを見せない。
これじゃあ僕が情けない奴みたいだ。
「いや、俄然やる気が出てきましたよ……」
このまま情けない奴のままじゃいられない。僕だってやるときはやるんだってところをみせなくちゃ。
安定しない精神状態の中で、確固たる意志というのはそれだけでほんの少しだけとは言っても精神安定剤のような役割を担うらしい。さっきよりかは幾分か楽になったような気がする。
「ありゃ、これは失敗だったか……」
ケントニスが小声でつぶやいた。
「何か言いました?」
あまりにも小さな声だったから僕の耳には聞こえなかったが、ここにきて彼女が初めて後悔したような表情を見せた。しかしその表情もほんのわずかな時間が経つといつものものへと戻った
「何でもないよ! そんなことより訓練をしなくちゃ!」
「は、はあ……?」
なんだか勢いで誤魔化されているような気がするが、あまりしつこく聞きすぎると後が怖い。機嫌を損ねて八つ当たりしてくることはケントニスに限ってありえないことだが、刻まれた恐怖というものは時としてありもしない幻想を抱かせるものだ。
僕はありえない不安に脅かされている。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。今日の訓練で死ぬことはないから!」
何の慰めにもならない慰めの言葉が彼女の口から吐き出された。
僕はそれにただただ頷くことしかできない。
「ケン君さあ、いまその服を着て私が言うまでもなく魔力を流しているけど……どんな気分?」
その服とは、もちろん今僕が着せられている魔力を吸う服のことだ。そういえば、精神的にはかなり疲弊して魔力もそれほど回復していない状態だというのに昨日よりも遥かに楽だ。余計なことを考える余裕すらある。
「言われてみれば……ずいぶんと楽です」
「なるほど、それはよかった。最後は失敗しちゃったから、もしかしたらダメかと思ったよ!」
今度は先ほど見せた後悔の表情とは真逆で、なんだかとても嬉しそうな……息子がテストで満点を取った母親のような笑顔を彼女は僕に向けた。
そう言った本当の意味での嘘くさくない彼女の笑顔を見たのも初めてかもしれない。
「気づいていたと思うけど、今日は一番精神に来る方法でケン君を追い詰めていたの」
先ほどと口調が変わる。
彼女はたまにいつもの様な語尾が軽やかになるような口調から、真剣なものへと変わる。そしてそれは本気で戦う時や、誰かに本気で向き合う時にだけ見せるものだと僕は気が付いた。
「不安定な精神で魔力を調整するには、より高度な感情のコントロールが重要になる。それが出来なければ、私の魔法のすべてを……伝説の魔法を教えることは出来ないのよ。お気に入りの子が魔法の発動に失敗して無様に死んでいくのは嫌だからね」
続けざまにさらっと恐ろしいことをケントニスは口にした。
いつもの軽やかな冗談めいた口調でも僕はその言葉を信じただろうが、真剣な口調の彼女の言葉にはたぶん嘘や偽りは存在しない。そう確信させるほどに、彼女の眼はしっかりと僕を見据えてその先に起きるであろう何かを見つめている。
「無様に死ぬつもりはありませんよ」
僕は詰まることもなくそう答えた。
口調はいつもよりも遥かに恐ろしくとも、いつもよりはるかに彼女からは優しい感じがした。まるで慈しむような、女神の様な愛情が垣間見える。それほど付き合いは長くないのに、ふと油断したら家族のように感じてしまう程に慈愛に溢れている。
そう感じた瞬間に、体中から魔力が一気に放出されるのを感じた。強力な正の感情によって、魔力の放出量が安定しなくなったらしい。僕は思わず膝をつく。
「おっと、ごめんね! 今のは意地悪でやったんじゃないんだ!」
ついうっかりと言わんばかりに彼女はへらへらと笑う。
僕は何が何だかわからないが、ふとあることを思いだした。僕が信用できるのは、この世界でただ1人の肉親である『メリー』だけだと。そう強く心に念じると魔力の流れは再び一定に緩やかに戻った。
「感情を常にコントロールし続けるなんて到底無理ですね……」
「当たり前だよ! 感情のコントロールをそんな簡単にマスターできるなら、誰も苦労はしないよ! 社会にストレスなんて感じることだってなくなるんだからね!」
そう言われて思い出した。働いていた時はストレスが多すぎてストレスを感じないように感情を殺すことはあったけど、感情をコントロールしてすべてをポジティブに捉えることなんて到底できなかった。たぶんそれが出来る人間が、ありとあらゆる成功を収めるのかもしれない。
なんて、ビジネス書風にまとめてみたけど、ことはそんな単純な話でもない。
それはさておき、さっきの感情の変化については気になる。
「どうして突然魔力がコントロールできなくなったんですか?」
「そんなこと、自分で考えれば? ――なんて、少しは社会人の気持ちがわかったかな!?」
笑えないジョークだ。
だけど、どうやら着たことがあるすべての者がそれを理解できるわけじゃないってことを今思い知らされた。
「久しぶりに着てみたけど、やっぱり魔力の調整って楽しいね?」
目の前で僕と同じ服を着ているケントニスが、まるでつらそうなそぶりすら見せず、むしろ楽しそうに跳ね回っている。そこに僕はある種の絶望を見た。
僕は『努力の天才』という言葉が嫌いだった。だってそれは、努力しないやつらの言い訳に過ぎないのだから。才能があるにも関わらず、努力しない人間が嫌いだ。運命に身を委ねて自分では何も起こそうとしないからだ。そんな奴に限って人のことを見下している。もちろんこれは僕の思い込みに過ぎない。
それはさておき、僕にとっては辛いだけのものをいとも簡単に、それも楽しそうにやられたんじゃ僕の立つ瀬がない。
「どうしたの?」と、訊ねる彼女はやはりまるでつらそうなそぶりを見せない。
これじゃあ僕が情けない奴みたいだ。
「いや、俄然やる気が出てきましたよ……」
このまま情けない奴のままじゃいられない。僕だってやるときはやるんだってところをみせなくちゃ。
安定しない精神状態の中で、確固たる意志というのはそれだけでほんの少しだけとは言っても精神安定剤のような役割を担うらしい。さっきよりかは幾分か楽になったような気がする。
「ありゃ、これは失敗だったか……」
ケントニスが小声でつぶやいた。
「何か言いました?」
あまりにも小さな声だったから僕の耳には聞こえなかったが、ここにきて彼女が初めて後悔したような表情を見せた。しかしその表情もほんのわずかな時間が経つといつものものへと戻った
「何でもないよ! そんなことより訓練をしなくちゃ!」
「は、はあ……?」
なんだか勢いで誤魔化されているような気がするが、あまりしつこく聞きすぎると後が怖い。機嫌を損ねて八つ当たりしてくることはケントニスに限ってありえないことだが、刻まれた恐怖というものは時としてありもしない幻想を抱かせるものだ。
僕はありえない不安に脅かされている。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。今日の訓練で死ぬことはないから!」
何の慰めにもならない慰めの言葉が彼女の口から吐き出された。
僕はそれにただただ頷くことしかできない。
「ケン君さあ、いまその服を着て私が言うまでもなく魔力を流しているけど……どんな気分?」
その服とは、もちろん今僕が着せられている魔力を吸う服のことだ。そういえば、精神的にはかなり疲弊して魔力もそれほど回復していない状態だというのに昨日よりも遥かに楽だ。余計なことを考える余裕すらある。
「言われてみれば……ずいぶんと楽です」
「なるほど、それはよかった。最後は失敗しちゃったから、もしかしたらダメかと思ったよ!」
今度は先ほど見せた後悔の表情とは真逆で、なんだかとても嬉しそうな……息子がテストで満点を取った母親のような笑顔を彼女は僕に向けた。
そう言った本当の意味での嘘くさくない彼女の笑顔を見たのも初めてかもしれない。
「気づいていたと思うけど、今日は一番精神に来る方法でケン君を追い詰めていたの」
先ほどと口調が変わる。
彼女はたまにいつもの様な語尾が軽やかになるような口調から、真剣なものへと変わる。そしてそれは本気で戦う時や、誰かに本気で向き合う時にだけ見せるものだと僕は気が付いた。
「不安定な精神で魔力を調整するには、より高度な感情のコントロールが重要になる。それが出来なければ、私の魔法のすべてを……伝説の魔法を教えることは出来ないのよ。お気に入りの子が魔法の発動に失敗して無様に死んでいくのは嫌だからね」
続けざまにさらっと恐ろしいことをケントニスは口にした。
いつもの軽やかな冗談めいた口調でも僕はその言葉を信じただろうが、真剣な口調の彼女の言葉にはたぶん嘘や偽りは存在しない。そう確信させるほどに、彼女の眼はしっかりと僕を見据えてその先に起きるであろう何かを見つめている。
「無様に死ぬつもりはありませんよ」
僕は詰まることもなくそう答えた。
口調はいつもよりも遥かに恐ろしくとも、いつもよりはるかに彼女からは優しい感じがした。まるで慈しむような、女神の様な愛情が垣間見える。それほど付き合いは長くないのに、ふと油断したら家族のように感じてしまう程に慈愛に溢れている。
そう感じた瞬間に、体中から魔力が一気に放出されるのを感じた。強力な正の感情によって、魔力の放出量が安定しなくなったらしい。僕は思わず膝をつく。
「おっと、ごめんね! 今のは意地悪でやったんじゃないんだ!」
ついうっかりと言わんばかりに彼女はへらへらと笑う。
僕は何が何だかわからないが、ふとあることを思いだした。僕が信用できるのは、この世界でただ1人の肉親である『メリー』だけだと。そう強く心に念じると魔力の流れは再び一定に緩やかに戻った。
「感情を常にコントロールし続けるなんて到底無理ですね……」
「当たり前だよ! 感情のコントロールをそんな簡単にマスターできるなら、誰も苦労はしないよ! 社会にストレスなんて感じることだってなくなるんだからね!」
そう言われて思い出した。働いていた時はストレスが多すぎてストレスを感じないように感情を殺すことはあったけど、感情をコントロールしてすべてをポジティブに捉えることなんて到底できなかった。たぶんそれが出来る人間が、ありとあらゆる成功を収めるのかもしれない。
なんて、ビジネス書風にまとめてみたけど、ことはそんな単純な話でもない。
それはさておき、さっきの感情の変化については気になる。
「どうして突然魔力がコントロールできなくなったんですか?」
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