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11 魔法の言葉

146 努力と魔法

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「でもそれじゃあ、あなたは……いえ、僕はどうなるんです?」

 ケントニスのことは分からないが、僕はそれほど魔法の習得に時間をかけていない。
 もっとも最底辺である犬種には、何かに打ち込める時間もなければお金もない。いまは、リグダミスにもらった賃金のおかげでなんとかなっているだけだ。そんな僕が膨大な時間をかけるなんて考えることすらおこがましくある。

「それが『恩恵』というものだよ。天より与えられた才能と言い換えてもいい、確かにケン君の魔力は私よりも小さいし、魔力の扱い方は雑だわ。それでも、その欠点を補ってなお余るほどの膨大な才能を与えられた。努力は好きじゃないようだけどね」

『努力すれば私を超えられる』と、そう暗にケントニスは言っているような気がした。
 天賦の才をもつケントニスを超えられるほどの恩恵……それも『すべての武器の使い方がわかる』という恩恵のほんの一部である魔力の使い方だけ取ってみてそのレベルと評価されるなら、やはりこの力はかなりのチート能力だ。

 正直なところ、僕は確かに努力は好きじゃない。だけど全く努力をしていないというわけでもないはずだ。自分の努力を自分で評価するのは難しいが、前世の僕を考えればかなり努力していると自負している。しかし、それがケントニスの考える努力に達していないのだろう。
 言い訳するようだが、今まで努力をしてこなかった人間が普通の人間、いや獣人以上に努力をし続けるにはそれなりの時間が必要だ。なんて、そんな言い訳を頭の中に張り巡らせている時点で、僕は努力不足なのだろう。

「ど、努力します」

 僕は言い淀む。
 ケントニスの考える努力と言うものがどれほどのものかを考えただけで身震いがする。

「口ではそう言っても、本物の努力なんてそうそうできるものじゃないわよ……」

 まるで僕の心を見透かすように、ケントニスはため息を吐いて、そして続けてフォローするように「でもそれを口にできるのは良いことよ……」とつぶやいた。
 なんというか、説教をされている子供気分だ。ケントニスの口調は怒っている風でも、叱っている風でもないのになぜかそう感じてしまう。

「本物の努力ですか?」

 僕は怯えつつもその言葉の意味を知りたくて聞き返す。

「本物の努力なんて言えば崇高にも感じるかもしれないけど、時間すらも忘れて無我夢中で学ぶという事よ。ところで、どうしてそんなに怯えて――そうか、ごめんね。私の言葉の影響が出ているのね……でもこれはどうしようもないから。次の訓練ではプラスの感情は邪魔になるから」 

 ケントニスは怯える僕に対してしっかりと目を見据える。そのおかげか、少しだけ怯えは消えた。
 しかし、プラスの感情が邪魔になるとはどういう事だろう。

「魔法を使う上で、プラスの感情は重要なんじゃないですか?」
「プラスの感情が需要なのは、魔力を回復したり、魔力を体中に巡らせたりする時……私が今、口にした『魔法』は全くの別もの」

 そう言い切るケントニスはいつになく真剣な表情をしていた。
 
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