先生と僕

真白 悟

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二度目はない

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「マジで痛い……」
 背中に走る激痛は、この世のものとは思えないほどに強烈だ。
 しかし、一年近く同じことを繰り返してきたわけだ……最近では体が痛みに慣れてきたのか、最初の頃よりは随分とマシだ。

「ごめんなさい……」
 あずさは、僕の背中に柔らかいお尻を、乗せたまま謝る。
「そう思ってるんなら、そろそろおりてくれないか?」
 お尻の感覚は……もったいないが、このままじゃ腰が砕ける。いや、もうすでに腰砕けだけどね。

「――本当にいつもごめんなさい」
「今日は1おっちょこちょいだ。二度目はないからな……」
 頭を下げるあずさに、僕は背中をさすりながら返事をする。
 先生はそれを笑って見ているだけだ。

「というか、誰がこんなところにバナナの皮を置いたのか……僕は覚えがないし」
「あたしも違います」

 あずさでもないとするなら、あとは一人しかいない。
 僕は先生の方を見る。

「なによ、私じゃないわよ」

 全力で首を振っている。
 おかしい、いやありえない。この部屋にはほかの誰も来るはずがない。
 意味不明なところには、誰も近づかないからだ。
 そんなことを考えている時に、あずさが席につくために歩き始めた。

「あ、危ないっ!」
 僕の注意も虚しく、あずさは自身が蹴り飛ばしたバナナの皮を再び蹴り飛ばした。
 再び、彼女の下敷きになった僕は背骨に大ダメージを受けた。

「勘弁してくれ!」
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