先生と僕

５

ご機嫌取り

　あの後、二人が『あの話』について触れることはなかった。
　部活でも、教室でも普段通り僕と接してくる。それがかえって恐ろしい。

「本当になんなんですかね？」
「昨日も言わなかったかしら、職員室には来ないでって……」
　先生は昨日の一件以来、ちょっとだけ不機嫌だ。
　これには僕も少し反省している。調子に乗りすぎたと……
「僕と先生の仲じゃないですか」
「それはつまり、教師と生徒ってことね」
　確かに、表面上の言葉をとればそうなる。
「愛し合っている者同士ってことですよ……」
　僕は昨日みたいなことにならないように、小さな声で囁いた。

「はいはい、面白い、面白い」
　顔がまるで笑っていない。
　いつもなら、ちょっとぐらいはかわいらしい反応をしてくれるというのに、今日はかなり機嫌が悪いようだ。

「あ、そうだ。昨日言ってたあれ持ってきましたよ」
　僕は話をごまかすために、わきに挟んでいたファイルを取り出した。
　恋愛部の活動報告書だ。
「ああ、書いてきたのね。そうね、だったらまあ、昨日のことはチャラにしてあげる」
「なんやかんやで、優しいですよね」
「うるさい……」
　先生はファイルを開きながら、適当に僕の茶々入れに返答する。
「どうです？」
「……って１ページ!?」
　驚いてこちらを見ている先生だが、本当に書くことがないのだから仕方ないじゃないか。