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寂しい夜
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先生も帰り、両親も帰り、点滴とかその他もろもろを終えた僕は、ひとり静かな夜を迎える。
別に幽霊が怖い、なんていう歳でもないので、ただゆっくりと出来ていいな、なんてことを考えていた。
「それにしても、静かだ」
患者も寝静まって、夜も更けてきた。
そりゃ静かな筈だ。
なのに全くというほど眠れない。眠りたいと思えば思うほど、どんどん目が覚めていくぐらいだ。
だけど娯楽もない。テレビはあるが、ほかの患者に迷惑なのでつけられない。
入院というのは、とてつもなく退屈らしい。退屈なのに、眠れないから。眠れないから退屈……永劫に続く連鎖、それをいま味わっているのかもしれない。
そんな時、ドアの向こうに人影が見えた。
――こんな時間だ。お見舞いというわけでもないだろう。
たぶん、看護師の方が見回っているんだろうと思い、僕は布団を深くかぶる。目を覆い隠して、状況が見えないようにひたすらに布団を抑える。
ドアがゆっくりと開き、ドアの向こうから、人が中へ入ってくる足音が聞こえた。
カツン、カツンと、音はどんどん近づいてくる。
看護師に違いない。
だけど、僕は布団から手が離せない。
怖いからではない。ただ、起きていると看護師に怒られるかもしれないからだ。
それでも、足音はどんどん僕の方へと向かってくる。ゆっくりと、それでいて確実に。
「――」
足音の主は、声にならない声で何かをつぶやいては、ゆっくりと近づいてくる。
ちょうど、僕のベットに隣接する患者の前ぐらいで、足音が止まった時、「違う……あなたじゃない」という言葉が聞こえてきた。
途端に恐ろしくなり、僕は必死に瞼を閉じて、布団を握る力を強めた。
それでも、足音はどんどん近づいてくる。
カツン、カツンと、確実に……
そして、僕の前で止まり、再びなにかをつぶやいた。
「間違いない……」と。
恐怖はピークを迎え、僕の心臓はドクドクと心拍を早める。
しかし、予想外にも、なにも起こらなかった。
それで、僕は気になって布団をゆっくりと話し、外の様子を伺った。
……誰もいない。全ては幻聴だったようだ。
僕はホッと息を吐き、再び布団を被る。
「ここにいたのね」
今度は耳元で声が聞こえた。
僕は驚きのあまり飛び上がり、声の方を見る。
――そこにいたのは、綾錦だった。
「なにしてるんだ……お前は」
「お見舞いです」
一体なにをお見舞いしてくれるつもりだ……
まあ、幽霊じゃなくてよかった。幽霊なんていないけど。
別に幽霊が怖い、なんていう歳でもないので、ただゆっくりと出来ていいな、なんてことを考えていた。
「それにしても、静かだ」
患者も寝静まって、夜も更けてきた。
そりゃ静かな筈だ。
なのに全くというほど眠れない。眠りたいと思えば思うほど、どんどん目が覚めていくぐらいだ。
だけど娯楽もない。テレビはあるが、ほかの患者に迷惑なのでつけられない。
入院というのは、とてつもなく退屈らしい。退屈なのに、眠れないから。眠れないから退屈……永劫に続く連鎖、それをいま味わっているのかもしれない。
そんな時、ドアの向こうに人影が見えた。
――こんな時間だ。お見舞いというわけでもないだろう。
たぶん、看護師の方が見回っているんだろうと思い、僕は布団を深くかぶる。目を覆い隠して、状況が見えないようにひたすらに布団を抑える。
ドアがゆっくりと開き、ドアの向こうから、人が中へ入ってくる足音が聞こえた。
カツン、カツンと、音はどんどん近づいてくる。
看護師に違いない。
だけど、僕は布団から手が離せない。
怖いからではない。ただ、起きていると看護師に怒られるかもしれないからだ。
それでも、足音はどんどん僕の方へと向かってくる。ゆっくりと、それでいて確実に。
「――」
足音の主は、声にならない声で何かをつぶやいては、ゆっくりと近づいてくる。
ちょうど、僕のベットに隣接する患者の前ぐらいで、足音が止まった時、「違う……あなたじゃない」という言葉が聞こえてきた。
途端に恐ろしくなり、僕は必死に瞼を閉じて、布団を握る力を強めた。
それでも、足音はどんどん近づいてくる。
カツン、カツンと、確実に……
そして、僕の前で止まり、再びなにかをつぶやいた。
「間違いない……」と。
恐怖はピークを迎え、僕の心臓はドクドクと心拍を早める。
しかし、予想外にも、なにも起こらなかった。
それで、僕は気になって布団をゆっくりと話し、外の様子を伺った。
……誰もいない。全ては幻聴だったようだ。
僕はホッと息を吐き、再び布団を被る。
「ここにいたのね」
今度は耳元で声が聞こえた。
僕は驚きのあまり飛び上がり、声の方を見る。
――そこにいたのは、綾錦だった。
「なにしてるんだ……お前は」
「お見舞いです」
一体なにをお見舞いしてくれるつもりだ……
まあ、幽霊じゃなくてよかった。幽霊なんていないけど。
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