先生と僕

真白 悟

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カバン

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「いや、いいんだ。もとはといえば、入院することが決まった時点で両親に勉強道具を持ってきてもらわなかった僕が悪いんだから……」
 わかっていたこととはいえ、これはかなり辛いことになりそうだ。
 ただでさえ時間がないというのに、一日を無駄にすることになる。
 え? 両親に電話すればいいって? ――残念、僕は携帯を持っていません。持っていたとしても、登録する連絡先がないからな。

「ごめんなさい」
 謝る必要などまるでないのに、あずさは深々と頭を下げる。
「大丈夫だって、それにあずさは何も悪くないだろう。それより……あれだ。明日のテストについて対策でもしよう。時間は有意義に使うべきだからな」
 内心焦ってはいるが、それを察せられることがないように気丈にふるまってみる。名目上は部長だ。部員を不安にさせることなんてあっちゃだめだからな。

「お姉ちゃんなら絶対に大丈夫だし、私ならそんな無駄なことに時間を使わず、もっと有意義なことに時間を使いますけどね?」
 彩錦あかねが横から茶々を入れてくる。
「いやそうは言ってもだ。もしかしたらってこともあるだろう? それに今出来うることで、一番有意義なのは部長として部員を護ること……いや待て、それはなんだ!?」
 僕は彩錦あかねの肩から下げられている物に気がついてしまった。
 そりゃそうだ。よく見れば気がつくに決まっている。いつも自分が肩から下げている物なのだから。

「ああ、これですか? 先輩のお母様から預かってきた物ですよ」
 肩から下げられていたカバンを指して、さも当然のごとくそう言い放った。
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