先生と僕

１０

理事長室

「――いい加減にしなさい！」
　理事長室の中から大きな声が外まで響いてくる。大人の男が発したものだ。

「お父さんこそいい加減にしてよッ！」
　今度は若い女性の怒鳴り声が、理事長室のドアを突き破らんばかりに聴こえてくる。
　どうやら説教とやらは熾烈を極めているようだ。

　子供など持ったことがない私だ。あまり生意気なことは言えないが……
「ちょっと、まずいんじゃないですか？」
　一応先輩に尋ねてみる。
　先輩はやれやれと首を振り、ドアノブに手をかけた。
「いつものことよ」
　どうやら彼女も苦労しているようだ。
　ともかく、開かれたドアの向こう側は無残にも散らかっていた。

　いつもきちんと手入れされていたツボは、その鮮やかな色合いをさらに際立たせるかの如く、破片となり散らばっているし、五十音順に並べられていた本は床にバラバラにひっくり返っている。
　まるで、戦争でも起きたかのような惨状だ。

「あなた達、いい加減にしなさい！」
　今までに聞いたことも無いような、張り上げられた声が私の右側から響いた。
　先輩が般若のごとく怒り狂っているらしい。
　昔から彼女は怒らせるとまずいといわれていたがあ、なるほどこういうことだったか。
　理事長も女生徒も怯えた表情をしている。

「あぁ……えっと、御三方、少し落ち着きましょうか？」
　なんて口にしてみたはいいが、本当に私なんかが口出ししていい状況なのだろうか？