先生と僕

真白 悟

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自由

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「私は人の親になったことがないので、偉そうなことを言える立場ではありませんが……まずは理事長から説明をお願いします」
 私にとっても、今後の進退をかけた出来事の一つになるかもしれないし、一応はきちんと対応しておくのが吉だろう。
 なんといっても、先輩の夫と娘の喧嘩だ。後輩として何とかしてやりたいというのは本心だしな。

「いやはや、情けない話ではあるのだが、娘が私の学校をつまらない……と言うもんでな」
 それはあまりに不名誉なことだと、理事長は苦笑いした。

 だけど、娘の言葉は事実であり、この学校はつまらない。だけどそれはこの学校にだけ当てはまる話でもないだろう。学校なんてどこもつまらないし、楽しむためだけにくるようなところでもない。――勉学に励む場所だ。
「なんでそんなことを?」
 今度は娘の意見を聞いてみる。
「だってつまらないじゃない! 勉強は簡単だし、理屈的だし、自由がないもの」
 なんてことを言い始める。
 まあ、わからないこともない。学校、ひいては人生なんて、模範的に動き続ければレールに乗った電車のように進み続けるだけだ。ある日突然、なんらかの理由で脱線することもあるだろうが、そんなことは頻繁には起こらない。
 しかし、逆に挑戦し続ければ、どこまでだってハードに生きていくことも出来る。

「自由が欲しいなら、全てやめてしまうことだな」
 なんて助言してみる。
 先輩は私を睨んでいるし、模範的な回答とは言い難いだろう。――だけど、それこそが私が言って来たことだ。
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