先生と僕

真白 悟

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名前

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「そういえば、俺あいつの名前すらしらねぇ……」
 僕の悪口を言っていた内の一人がそうこぼす。
 それは幾ら何でもひどすぎやしないだろうか? 陰口がどうこういってる場合じゃないぞ。

「馬鹿だな……確かこいつの名前は、恋次れんじ……いやオレンジだったっけ?」
 もう一人の方が肩を組んでくる。
 いや、さっきあんなことを考えた手前、人のことを言えないんだけど、僕もお前達の名前は知らないし、なにより――
「――僕は柑橘系の果物じゃない!」
「冗談だよ。ちなみに、もちろん俺の名前は知ってるよな?」
 彼は冗談めかしく笑いながら、僕の肩を何度か軽く叩いた。
 さっきも言った通り、僕は彼の名前を知らない。
 そりゃそうだ。なんてったってほとんど話したことすらないのだから。彼が僕の名前を知っていたことは驚きだが、よく考えてみれば僕は有名人だ。名前くらいは皆知っているだろう。
 だがそれでも、自分の名前を知っているクラスメイトの名前を知らないというのは、印象が悪い。何かヒントとかないだろうかと、必死で手がかりを探す。
 もちろん、そんなものはない。小学校ならいざ知らず、ここは高等学校だ。名前を荷物に書くこともない。――あるとしたら、答案とか提出物とかだろうが……あいにく見当たらない。
 こうなったら一か八かだ。

「田中……とか?」
 僕は勢いに任せて口にした。
 そういえば、少し前、先生が彼の名前を口にしていたことを覚えている。正確には覚えていないのだが、『なか』が付いていたはずだ。
 そうなると、日本の人口数的に比較的多い『田中』で狙い撃ちしかない。

 一瞬の静寂があったあと、クラスは歓声で包まれた。
 当たっていたのか、とも思ったがそうではないらしい。田中? が微妙そうな顔をしている。

「俺は中田だ」
 
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