先生と僕

真白 悟

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久しぶりの

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「それで、何かアイデアはあるの?」
 椅子を立て直しながらあずさが言う。
 僕が口にするのも憚られたことを梓はいとも簡単に言ってのけた。流石だと言いたいところだが、甘いぞ梓。

「何言ってるのよ……それを考えるところから友情を深めていくんじゃない」

 彩錦あかねは当然のようにそう言ってのける。
 そう来ることはわかってはいたが理不尽な返しだ。発起人でありながら意見を出すことはまるでしない、まあ最初の物言いからそうだろうとは思ったが、さも『私は蚊帳の外です』という態度だ。
「知恵も貸さずに恩恵だけ受けるなんてことは許さないよ」
 今度は静かな声を梓が発した。確かに、何かを得るには何かを失う覚悟が必要だが、それが姉妹愛なんて言うのは重すぎる。それに気がついた彩錦はあわてて取り繕った。
「わかったわよ。でも、私はあくまで知恵を貸すだけだからね。問題は2人に解決してもらわなくちゃいけないから」
「わかったならいいわ。では恋次さん――」
 倒れた椅子を定位置に戻して立ち上がり様に言葉を発した梓は、おそらく思考に集中力をすべて持って行かれたのだろう。何もないところで躓いて思いっきり顔から地面にダイブしようとしていた。
 まるで条件反射のように僕の体は勝手に梓と地面の間に滑り込む。

「結局こうなるんだな……」

 僕はほんの少しだけ離れていた日常を思い出し、ほんの少しだけ懐かしいような厄介なことに巻き込まれたようなそんな気分だった。
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