先生と僕

真白 悟

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是非

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「どこからそんな自信が……」

 恋次れんじが訝しげに僕を見つめる。

「そんなに見つめないでくださいよ」

 どんな瞳であっても、好意を持っている相手に見つめられるとほんの少しだけ嬉しい。それが懐疑的なものでなければもっと嬉しいのだけど。今置かれている僕の状況ではそれがいかに厳しいことであるかを思い知らされる。
 もちろん彼はいい人だし、たぶんそれほど僕を強く責めていない。

「……勝手に言ってろ。でも、変な噂を流すのをやめてくれたのはありがとうな」

 なんてことを口には出すが、彼の細かい表情から察するに、不満は依然として残っているらしい。ただそれが僕に向けられたものではないような気もする。どこか、今置かれた状況に対して不満を抱いているようなそんな感じだろうか。それも僕も勘違いかもしれないが、そんな風に感じる。

「なら勝手に言わせていただきます。まだそう判断するのは早計ですよ」

 僕は意味ありげに笑う。今現在、僕が噂を流しているという事実はない。だけど彼がそれを容易に信じてしまうのは問題だ。
 それが彼の良いところでもあり悪いところでもあるのだが、人を簡単に信用しすぎる。僕は先輩のそんなところが気に入っているんだけど、それだけは直してもらわないといずれ痛い目に遭う事だろう。

 ほんの少しだけ動揺する彼を見て、綾錦あかねがしらけたような表情をしているのが視界の端に入った。
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