ショートショート

真白 悟

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コメディ

最終決戦

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「ようやくここまできたか……」

 長い旅を終えて、私たちはここまでやってきた。
 珍妙な旅ではあったが、現代社会に対するアンチテーゼとでも言うべきだろうか……ともかく、それも終わりだ。

「ようやく来たか……勇者よ」

 物々しい雰囲気のなかで、王座に腰をかけている男が声を発した。
 緊張が走るなかで、はっきりとしておきたいことがある。

「あの……」

「どうした?    勇者?」

「ですから――」

「言いたいことがあるなら、はっきり言うのだ! 勇者っ!」

「私のこと勇者って呼ぶのやめてもらっていいですか!?」

 恥ずかしいからやめて欲しい。本当に……勇者風旅番組だかなんだかしらないけど、私はただの女子高生だ。
 目の前に座っている男も、雰囲気はあるけれど、魔王と呼ぶには程遠い。

「いや、俺だってやりたくないけど、仕事なんだから仕方ないだろう!?  おっと、勇者よ最後だから、一瞬で終わらせてやろう」

 男は一瞬だけ素に戻ったかと思うと、すぐさま元に戻る。

――どんだけまじなんだよ。

 ともかく、男言う通り最後までだ。一瞬で終わらせよう。
 私はお供に連れてきた三びきの動物を見る。
 猫にゴリラにフクロウ、どいつもこいつも言うことは聞かないし、ゴリラに至っては恐ろしくて近づくことすらできない。

「はあはあ、魔王……もうこりごりだ。最初こそ簡単に大金が稼げると浮かれたけど、こんなことなら引き受けるんじゃなかった!」

 私の後ろからはテレビのスタッフがついて周り、状況を全国生中継している。
 それだけならまだしも、いく先々で人はめっちゃ不自然に優しく、かえって気を使う。
 気疲れするし、スタッフはいちいち人の家に不法侵入させて、タンスを漁らせたりする。
 こんな生活は、もうこりごりだ。

「さあ! かかってこい!」

 魔王はやる気だ。
 だけど私はやる気がない。ゴリラも私と同じだ。猫とフクロウはやる気に満ち溢れている。とは言っても、魔王と戦いたいと思ってるわけじゃない。
 遊びたいと思っているようだ。
 外は夜で、夜行性の生物はこれから活動を始める。

――面倒くさい、出来る限り早く終わらせたい気持ちはわかるが、やる気が出ない。

 どうしたもんかなぁ……そもそも、私が本気で戦っても勝てるはずないし、動物達が手伝ってくれるはずがない。
 お手上げだ。
 早くこんな茶番終わってくれないかな。

「行きますよ……?」

「ああ、私を倒してみよ」

 女子高生がどうやったら大人の男に勝てるのか……いやそもそも、どうしてこんな茶番をしているのか意味がわからない。

『――世界はつまらないので、勇者が魔王を倒すまでを中継しましょう!』

 いつだか、テレビで見た光景を思い出す。
 どっかの会社の女社長がそんな意味不明なことを言っていた。いや、それ自体は面白いと思ったし、見てみたいと思わなかったといえば嘘になる。
 だけど、こんな見切り発車だとは思わなかった。

 いや、見切り発車じゃなくても、企画としても意味不明すぎる。

 とにかく、終わらせるためには何としても魔王役の人を倒さないと……それでこの番組も終わる。
 予算を湯水のように使い、素人を勇者として旅させる意味不明な番組を。

 私は、魔王の方めがけて全力で走り出す。倒す算段などないが、なんとかなるなるだろう。
 そう思っていた時が私にもありました。
いきなり走り出した私は、足がもつれて地面に倒れる。
 それをみたフクロウは、驚いて飛び去ろうとした。しかし、飛んでいく方角が悪かった。
 フクロウは、魔王の頭に勢いよくぶつかる。

「ぐはっ! さすが勇者だ。フクロウに指示を出して攻撃させるとは……予想外だったぞ」

 本当に予想外だったことだろう。フクロウに激突されること自体は……。そりゃそうだ。私だって予想外だった。
 よくアドリブであんなことを言えたと、魔王役の人には感心させられる。さすがプロだ。

 ともかく、珍妙な旅は、珍妙な最後を迎えることになった。

 その後、私よりもフクロウが勇者と呼ばれるようになったのはまあ、結果オーライと言える。

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