5 / 9
青春
先生
しおりを挟む
人は一日一日死に向かって生きている。
死が終わりというのであれば、今何かを成すことは全て無駄だと感じてしまう人もいるだろう。
だけど、それは終わってみるまでわからない。
わからないからこそ、人は頑張れるし、生き続ける内は努力し続けるのだろう。
「でも、夢なんてないんですよね」
そうだ。僕には目指すべき道というものがまるで見えていない。
何を残すべきかもわからないし、どうするべきかもわからない。
――それはつまらないことなのだろう。
「それでも、生きるためには働かないといけないし、そのために夢は必要だよ」
先生は当たり前のようにそう言った。
しかし、僕にとってそれは、あまりにも厳しい意見だ。
『夢』、それは言葉にするのは簡単だし、見るだけなら誰にでも出来ることだろう。
僕だって、そんなものを持っていた時期はあった。
だけど、『夢』というものはいつかは覚めるもので、永遠に覚めないなんてことはない。
「どうして夢が必要なんですか?」
「……君はやりたくもないことのために生きていけないだろう?」
「大人は夢なんて見てないです。見てるのは現実だけじゃないですか……」
僕は嫌な生徒だ。
大人を困らせる嫌な子供で、屁理屈ばかりのべる空気の読めないやつなのだろう。
だけど、それでも理解できないことに納得できない。
先生もそのことだけは理解してくれている。
理解しているといっても、面倒くさいと思っているに決まっている。その証拠に、先生は大きくため息をついた。
「現実を見ることが出来るのは、夢を見たものだけだよ。夢から覚めなきゃ現実なんて見れたものじゃない」
「言っている意味がわかりません」
哲学的なことを言う先生に、僕は理解が追いつかない。
「じゃあ、君は、夢ってなんだと思う?」
「寝てる時に見るやつでしょ?」
僕はわざと間違ってみせた。
こんな茶番に付き合わされている先生を怒らせて、早くこの時間を終わらせたかったからだ。
「……わかっているだろう?」
先生は僕の顔を覗き込んでいう。
そこに怒りの感情はなく、どちらかといえば心配があるみたいだ。
僕はそれでも、この面談を早く終わらせたいとだけ考えていた。
「夢は希望で、叶うことが少ない願いです」
「なるほど、たしかにそうだ。夢はあまり叶わないだろう……努力しても絶対に叶うとは限らない。つまらない世界だよね?」
「興味ないです」
「だろうね、だけど、夢がないなんてことはありえない……ただ覚めただけだろう?」
先生の言うとおりだ。
僕の夢は覚めてしまった。冷たく冷めた夢はもう二度と燃え上がることなどない。
――きっとこれからの人生は下らない。
新しい服がいつかは褪めるように、夢もいつかは覚める。
誰しも、夢を現実にすることは出来ないし、最高の目覚めを迎えることなど奇跡的だろう。
誰だって夢は諦めたくないし、諦めたとしても、長い人生のなかでずっと引きずることになる。
「覚めても、現実なんて見たくありませんけどね」
「わかるよ……私も夢を諦めた人間だからね。でも、だからこそ、君には夢を諦めて欲しくない」
「……っ!」
先生の言葉に頭がぐちゃぐちゃになる。
夢を見るのは楽しいことだ。だけど、同時に辛いことでもある。特に、長く見た夢から覚めた時、現実は容赦なく僕を襲うだろう。
だったら、最初から夢なんて見たくない。
僕は唇を噛み締めて、先生を睨みつける。
「夢なんて……意味ないじゃないですかっ!」
思わず怒鳴りつけてしまった。
僕のことを思って言ってくれてる、そんなことはわかっている。
それでも、僕は我慢できなかった。
「全て無駄だとわかって、それでも夢をみることに何の意味があるんですか!? 時間を浪費して、それからの人生後悔して過ごすんですか……?」
僕がそう言い切った時、先生はにこやかに笑っていた。
それが無性に腹にきた。
だけど、そんな僕を先生は穏やかな口調でなだめる。
「落ち着きなさい……人生には無駄なことしかないんだよ。夢に生きようが、現実を見ようがいずれにせよ、後悔することになるだろう。だからって、人生の先輩である私にも、どちらが正解だなんて言えはしない……私が後悔した道は歩いて欲しくない。ただそればかりを考え、エゴだとわかっていても、押し付けたくなる。だけど結局、どちらを選ぶか、それは自分でじっくり考えるべきなんだよ」
先生はにっこり笑い、僕の頭を撫でた。
――――懐かしい夢を見ていた気がする。
郷愁を感じる夢だ。帰りたくもない故郷の夢だが、不思議と不快感はない。
人生で最高の恩師が出てくる夢だったからだろう。
結局夢を叶えることは出来なかった。
だけど、先生には感謝している。きっと夢を追わず現実を見ていたら、僕は一生を後悔して生きていくことになったはずだ。
だけど、夢を追ってきたからこそ、夢を諦めた時も後悔はなく、最高の目覚めだった。
だからこそ、今日見た夢だって『最高』だったし、あの頃に帰りたいなんて思うこともなかった。
楽しいくも辛い時間は、終わった後も力になる。
だけど、つまらなくも、長い現実はどうだろう。体験していないからわからないけど、力にはならないかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は最高の朝に大きな欠伸をした。
「さて、教師の朝は早いことだし、さっさと準備をしよう」
死が終わりというのであれば、今何かを成すことは全て無駄だと感じてしまう人もいるだろう。
だけど、それは終わってみるまでわからない。
わからないからこそ、人は頑張れるし、生き続ける内は努力し続けるのだろう。
「でも、夢なんてないんですよね」
そうだ。僕には目指すべき道というものがまるで見えていない。
何を残すべきかもわからないし、どうするべきかもわからない。
――それはつまらないことなのだろう。
「それでも、生きるためには働かないといけないし、そのために夢は必要だよ」
先生は当たり前のようにそう言った。
しかし、僕にとってそれは、あまりにも厳しい意見だ。
『夢』、それは言葉にするのは簡単だし、見るだけなら誰にでも出来ることだろう。
僕だって、そんなものを持っていた時期はあった。
だけど、『夢』というものはいつかは覚めるもので、永遠に覚めないなんてことはない。
「どうして夢が必要なんですか?」
「……君はやりたくもないことのために生きていけないだろう?」
「大人は夢なんて見てないです。見てるのは現実だけじゃないですか……」
僕は嫌な生徒だ。
大人を困らせる嫌な子供で、屁理屈ばかりのべる空気の読めないやつなのだろう。
だけど、それでも理解できないことに納得できない。
先生もそのことだけは理解してくれている。
理解しているといっても、面倒くさいと思っているに決まっている。その証拠に、先生は大きくため息をついた。
「現実を見ることが出来るのは、夢を見たものだけだよ。夢から覚めなきゃ現実なんて見れたものじゃない」
「言っている意味がわかりません」
哲学的なことを言う先生に、僕は理解が追いつかない。
「じゃあ、君は、夢ってなんだと思う?」
「寝てる時に見るやつでしょ?」
僕はわざと間違ってみせた。
こんな茶番に付き合わされている先生を怒らせて、早くこの時間を終わらせたかったからだ。
「……わかっているだろう?」
先生は僕の顔を覗き込んでいう。
そこに怒りの感情はなく、どちらかといえば心配があるみたいだ。
僕はそれでも、この面談を早く終わらせたいとだけ考えていた。
「夢は希望で、叶うことが少ない願いです」
「なるほど、たしかにそうだ。夢はあまり叶わないだろう……努力しても絶対に叶うとは限らない。つまらない世界だよね?」
「興味ないです」
「だろうね、だけど、夢がないなんてことはありえない……ただ覚めただけだろう?」
先生の言うとおりだ。
僕の夢は覚めてしまった。冷たく冷めた夢はもう二度と燃え上がることなどない。
――きっとこれからの人生は下らない。
新しい服がいつかは褪めるように、夢もいつかは覚める。
誰しも、夢を現実にすることは出来ないし、最高の目覚めを迎えることなど奇跡的だろう。
誰だって夢は諦めたくないし、諦めたとしても、長い人生のなかでずっと引きずることになる。
「覚めても、現実なんて見たくありませんけどね」
「わかるよ……私も夢を諦めた人間だからね。でも、だからこそ、君には夢を諦めて欲しくない」
「……っ!」
先生の言葉に頭がぐちゃぐちゃになる。
夢を見るのは楽しいことだ。だけど、同時に辛いことでもある。特に、長く見た夢から覚めた時、現実は容赦なく僕を襲うだろう。
だったら、最初から夢なんて見たくない。
僕は唇を噛み締めて、先生を睨みつける。
「夢なんて……意味ないじゃないですかっ!」
思わず怒鳴りつけてしまった。
僕のことを思って言ってくれてる、そんなことはわかっている。
それでも、僕は我慢できなかった。
「全て無駄だとわかって、それでも夢をみることに何の意味があるんですか!? 時間を浪費して、それからの人生後悔して過ごすんですか……?」
僕がそう言い切った時、先生はにこやかに笑っていた。
それが無性に腹にきた。
だけど、そんな僕を先生は穏やかな口調でなだめる。
「落ち着きなさい……人生には無駄なことしかないんだよ。夢に生きようが、現実を見ようがいずれにせよ、後悔することになるだろう。だからって、人生の先輩である私にも、どちらが正解だなんて言えはしない……私が後悔した道は歩いて欲しくない。ただそればかりを考え、エゴだとわかっていても、押し付けたくなる。だけど結局、どちらを選ぶか、それは自分でじっくり考えるべきなんだよ」
先生はにっこり笑い、僕の頭を撫でた。
――――懐かしい夢を見ていた気がする。
郷愁を感じる夢だ。帰りたくもない故郷の夢だが、不思議と不快感はない。
人生で最高の恩師が出てくる夢だったからだろう。
結局夢を叶えることは出来なかった。
だけど、先生には感謝している。きっと夢を追わず現実を見ていたら、僕は一生を後悔して生きていくことになったはずだ。
だけど、夢を追ってきたからこそ、夢を諦めた時も後悔はなく、最高の目覚めだった。
だからこそ、今日見た夢だって『最高』だったし、あの頃に帰りたいなんて思うこともなかった。
楽しいくも辛い時間は、終わった後も力になる。
だけど、つまらなくも、長い現実はどうだろう。体験していないからわからないけど、力にはならないかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は最高の朝に大きな欠伸をした。
「さて、教師の朝は早いことだし、さっさと準備をしよう」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる