永劫回帰の黙示録(レヴェレーション)

真白 悟

文字の大きさ
3 / 86
0章 始まり

1.刻印

しおりを挟む
 あるところに小さな港街があった。
 街には大きな通り中央通りが街の入口から港までの東西を分断ぶんだんしている。中央通りからはいくつかの通りが東に西に伸びていた。
 港はいつも漁業でにぎわい、信仰深い漁師達は朝早くから神に祈るため、中央通りにある小さな教会へと向かうことが日課になっている。
 港から教会へと向かう道には、屋台の準備じゅんびをしているのだろうか、いくつもの馬車が並んでいる。準備じゅんびをしている馬車からはいい香りがただよっていた。
 それからしばらく行くと、教会が見えた。道をはさんだ反対側には市場がある。市場には、今朝上がった新鮮な魚や土が少しついたままの野菜、香りの良い果物などが陳列ちんれつされている。そのためか、朝早くから遅くまでにぎわいを見せた。それは市場がある商業通りはもちろんだが、中央通りまで人だかりができているほどだった。
 住民達の多くは、健康的な生活を送っているようで、教会のミサには多くの人が訪れている。農業をしている人も多く、みな生き生きとしていた。
 だが、中には港に近い中央通りのにある酒場で朝から飲んでいるものや、港でいつぶれている者も多く見えた。
 

 そんな小さな街では、教会の神父の妻が産んだ子供の話題でもちきりだ。神父の子供であり、街で初めてけもの刻印こくいんを持っているから話題にならないわけがなかった。それを神父は、あまり心良くは思っていない。誰でもそうだろうが、自分の子供につく悪いうわさは気分が悪かった。
 それでも、市場や酒場、港にいたるまでどこでも神父の子供のうわさばかりで、漁師ですらウンザリしていた。それほどまでに神父からけもの刻印こくいん持ちが生まれることはめずらしいことなのだ。
 当の神父といえば、信心深くて街のみんなに慕われていたことや、決して贅沢ぜいたくをせず布の服で神父をしているものだったので、なおのことうわさは止まることを知らない。気にしないように努めていた神父は、小さな教会の一室で子供をあやしていた。そして同時に神を初めてうらんだ。
 
 (これはあんまりにも残酷ざんこくじゃないか…神よ…どうして私の子供にこんな試練しれんを与えるのですか…?)

 子供を産んで疲れて眠っている妻に気が付かれないように、心の中でつぶやいた。
 神父はとても疲れているようで、やつれた顔で子供の手の甲にある刻印こくいんながめていた。こんなものさえなければという苦悶くもんの表情を浮かべ部屋を出た。
 部屋を出て廊下ろうか玄関けんかんまでゆっくりと歩き家を出た。神父は今日が知り合いのためにミサを行う日だと思い出したのだ。
 外で深呼吸をして落ち着こうと考えたのだ。ドアの前で深呼吸をし、ゆっくりと息を吸い込んだ。それから眼前がんぜんの中央通り、そしてその先にわずかに見える市場を見て落ち着きを取り戻した。
 落ち着きを取り戻した神父は、家の横に咲いていたアサガオの香りを感じられるほどにはかいふくした。そうして、ゆっくりと礼拝堂れいはいどうへと向かった。
 
 神父はだれからどんな仕打ちを受けようが、ミサだけは絶対にサボらないと決めていた。いつものように小さな礼拝堂で祈りをささげる。集まった漁師たちのために祈るのだ。
 神父が十字を切ることによってミサは始まった。それから少しの間、祈りが捧げられた。

 祈りが終わると、小太りで身長の高い顔立ちのいい男が神父のもとへと駆け寄ってきた。その男は漁師の中でも『かしら』と呼ばれる男で、神父の子供に対するうわさのことを心配していたのだ。男は若くして薄くなってしまった自身の頭をなでながら、神父に申し訳なさそうにささいた。

 「あなたのお子さんのことは、なんというか…すみません、言葉が出てこねぇ…
 あなたは私達のために祈ってくれているというのに、私はあなたに恩を返すことすら出来ないのか...」

 彼は煮え切らない言葉を発しただけで黙り込んでしまった。神父はそれが自分に気を使ってのことだは気がつき有り難いと感じた。
 だが、なぐさめられてばかりいる自分を情けないとも感じた。自身が神の教えを説く立場であるにもかかわらず、なぜ神をうらんでばかりいるのかわからない。
 神父もまた、誰かに教えられることが多かった。
 このまま黙り込んだままでは心配をかけると思い、精一杯元気に振る舞った。

 「いえ、私は大丈夫です。確かに僕の子は刻印こくいんを持って生まれてしまった。だけど、なにがあろうが僕の息子だ。何をしようと僕だけはあいつを信じますよ。」

 神父の言葉を聞いて安心した頭は、それ以上は刻印こくあんのことにれなかった。ただ「おめでとう」とだけお祝いしてくれた。それにつられ、他の漁師たちも代わる代わる祝の言葉をくれた。
 それだけで神父の心は軽くなり、子供と向き合うための心の余裕よゆうが生まれた。息子が生まれてきたのが漁師達が海に出る直前でよかったと思う神父であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...