永劫回帰の黙示録(レヴェレーション)

真白 悟

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終章 魔の終末

1.聖者の不在

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「アリサの未来を見てほしい? なんでですか? それが聖者の援護と何か関係でもあるんですか?」
 ルシフは自分の頭に浮かばない回答を求めた。だがその回答はすぐには帰っては来ない。ただ静寂の中で車輪が回る音と馬のいななきだけが虚しく響き渡るばかりだった。

 しばらくして、王都が近づいてきた頃だろうか特に窓があるわけでもないから外の景色などドアを開けなければ見ることが出来ないが、かれこれ丁度1時間ほどたった頃だったからおそらく王都が近いかもしれないとルシフは思った。だからこそ彼は固く閉じた口を開いたのだろう。

「――――アリサ様は私達魔術士団の直属のボスだ。だから俺たちが動くには彼女の許可が必要だということだ」

 ルシフはそれに対して何か返事をしたわけではないが、多分この上ないほど呆れた。本来の彼ならこの状況で上からの許可など必要としなかったはずだからだ。だからこそ、その言葉は彼ら魔法士団の成長と言ってもいいだろう。だが、それは今最も必要としない成長、いやむしろ劣化と言っても間違いではないだろう。
 何と言っても一番重要なのは街の住人が安全に暮らせることが魔法士団の一番の目的だ。ならば今こそそれを実行しようとするのは当たり前のはずだし、何よりそれが彼らのモットーだろう。
 そんな彼らを知っているからこそ、彼らが決して成長しないということを知っている。だから今回はあくまで成長したわけではなく、彼らはルシフに何か重要な秘密を隠していると考えるのが世の常とまでは言わないが、今回のルシフの役割と言っても過言ではない。

「何を考えているのかは知らないですが、まあいいでしょう。ですがここで魔法を使ってしまっていいのですか?」

 以前のルシフであったとするなら、例え命の恩人であっととしても一ミリたりとも気を使うなどすることはなかっただろう。こんな気持になれたのも彼女のおかげだろう。

「お前が俺たちのことを気遣うとは意外だな? 昔はもっとクズだったのに、今ではゴミだな……だが、俺たちを気遣う必要など皆無だ。お前が気を使うことはどれだけここに悪魔もどきを惹きつけられるかということだけだ……それ以外はどうでもいい」

 そんなくだらない本来の目的を知ってしまったからにはルシフは加減などできるわけもなく、いつもの様に手袋を外し魔力を集中させる。呪文を唱えると同時にありったけの魔力を放出した。おそらく魔法を使えたとしてももう一度が限度と言ったところだろうが、構わず魔力を放出し続けた。
 目からは光が溢れ出し、あたりを包み込む程の閃光が中を舞う。それが全てのきっかけになったのだ。

「このままではまずい……アリサは一体どれほど魔法を使ったんだ?」
「なるほど、向こうの悪魔もどきまではひきつけられなんだか……よしわかった。だったらお前とは共闘することになるな……」
 団長は明らかに不満げな表情でルシフに視線を向ける。
「もうそんな状況じゃない。1分以内にアリサのもとに向かわなければ手遅れになる!」
 それだけ告げるとルシフは全力で街の中心部へ走り出した。

「――――おいルシフ……! ……ちっ! 仕方ないそこのお前と、お前あとお前あいつの後を追え!」

 後ろから聞こえた声を気にするまでもなく、ルシフはアリサのもとで全力疾走する。ルシフが見た未来は非常に残酷極まりないものだった。それは永劫回帰という螺旋階段を永遠に登り続けるという地獄よりも遥かに地獄と言ったほうがいいのかもしれない。
 それだけにアリサの……いや、聖者の死は恐ろしいものだということを今はじめて知らしめられた。

 神とは一体どれほどまでに残酷な存在なのだろうか……想像もつかないがそれだけに悪魔よりも悪魔的な存在なのかもしれない。
 自分の使いに対してそこまで非常になれるのは、彼こそが絶対的な存在であると、純粋な存在であるということの現れだ。

「くそっ!」

 たった30秒の全力疾走はただの人間には出来ない苦行とも言えるものだった。気が付けばひたすらに無呼吸運動を続けていた。ルシフはそれほどまでに未来を変えなければならないという、いわゆる正義感が心をくすぐったというわけだ。
 ルシフは、結局のところ昔から何も変わらなかった。団長にもジゼルにも変わらないと言われてしまった。だからこそルシフは知り合いであるアリサよりも街の住人を気遣ってしまったのだろう。

「アリサっ!!」

 なんとか間に合った。アリサは悪魔であるアンドロマリウスとその仲間である正義の悪魔集団が瀕死のアリサを取り囲んでいた。中心にはアンドロマリウスとアリサ。アリサは地面に倒れ伏し、そこに剣を突き立てるアンドロマリウス。

「おや! そこにおられるのはもしや我が同胞ではありませんか……! ルシフさん久しぶりですねぇ!? もしかして私に会いに来てくださったのでしょうか? まあそんなことよりも見てください。今まさに、人の業を背負った少女を開放してあげるところです……まさか邪魔などしませんよね? 正義の使者さん……」
 短い間にありったけの言葉を詰め込んだそのセリフはルシフに向けられた過去の一つだった。

「うるせえ。マリウス! そんなことより、未来が変わったぞ! これでお前がアリサをあと10秒で殺す未来はなくなった!」

 ルシフの言葉に疑問を浮かべるかのようにぽかんとしている、その表情はおおよそ女性のもとは言い難いものだった。

「おやおや、一体なにをおっしゃっているのか理解しかねますね……もしかして、あなたほどの正義の使者ともあろうお方が私の正義を理解できないのでしょうか?」
 彼女の言葉には昔からイライラさせられることが多かった。いくら級友だったとはいえ、彼女と僕の正義は月とスッポン、大きさももちろん違うわけではあるが、何よりも交わることが決してないという意味ではその例えが最も合っているだろう。

――――だからこそ、

「俺はお前の正義が嫌いだ……」
 そんなルシフの言葉に浮かべるものは不気味な笑みのみだが、ゆっくりと後ろを振り向いた時には怒りにも似た表情であったような気もする。
「おやおやおや……。随分と嫌われたものですね、そんなにこちらの女性が大切なのですか……? 私の正義を邪魔するほどまでに……」

 ルシフと彼女の間柄がどこまで深いものなのかというと、深いように見えて浅い。ルシフと彼女はただ単にクラスメイトであったということだけで、友達という言葉すらおこがましいかもしれない。だが、ルシフが彼女を全く気にかけていなかったのかというとそいいうわけではない。
 なぜなら、彼女とは獣の刻印によって一緒にいじめられた中であったからだ。だが境遇が全く一緒だということは出来ないだろう。そこに彼女の正義と彼の正義の違いだろう。
 彼女にとっていじめとは悪ではなかった。ただそれだけのことなのだ。

「俺はお前の正義を認めるつもりはないし、俺に正義があるとは思わない。だからこそ、俺はお前の神の邪魔をする」

 ルシフの正義が人を救うことだとするなら、彼女の正義は神に救われることというべきだろう。つまり、彼女にとって神に否定された存在であるアリサは救われるべき対象。すなわち彼女に対して与えられるべき救いは本来あるべき姿『死』だけなのだろう。

「あくまで私の邪魔をするということですか? なら仕方ありませんね……ですが、私はあまり気が進みませんわ……例え今となっては敵になってしまったわけですが、元は同じ神を崇拝する程の中だったわけですから……殺すのは気が進みませんね…………」
「同じ神を崇拝した覚えはないが……だったら見逃してくれないか?」
 アンドロマリウスは少しだけ困った表情をしている。これなら後ひと押しで行けるかもしれないなどとルシフは淡い希望を抱いた。

「さて、どうしましょう? 殺さなくても構いませんか?」
 彼女は唐突に後ろを振り返り、誰かに指示を求めているようにも見えるが……一体誰に指示を仰いでいるのだろう。
…………おそらく、ルシフはここ最近でもっとも恐れおののいた。彼女の影から突如として現れた……いやその表現はおそらく間違いだろう、彼ははじめからそこにいたのだ。ただ、ルシフが気配を感じ取れなかっただけ、そしてその存在を認識した今でさえ本当にそこにいるのかは疑問だ。

 そのフードを被った老齢の男が口を開いた。

「――――構わん殺してしまえ! 明けの明星は必要ない!」
 その男は、ファウストは無情ににもそう吐き捨てた。

「ファウスト……だと……?」
 あっけにとられたルシフの口からこぼれ落ちた音をファウストは聞き逃さなかった。僕の声と同時に彼はフードを外してこちらに深々とお辞儀をする。

「これはこれは、ルシフ殿お久しぶりですな……君がこっち側に来てくれればどれほど楽だったか……まあ敵として君ほど厄介な存在はいない、今日ここであったのも運命だろう。一足先に過去で待っていてくれるかな? まあそのまま永遠に生まれることなどないのだがね……」

「まさか、あんたは騎士団員だとレヴィアから聞いていたのだが……」

 ルシフの言葉に安心したと言わんばかりの表情を見せつけるファウスト。それは彼が勝利を確信したときにのみ見せる表情であり、言わば癖のようなものだ。

「ほう、やはり聞いていたか……彼女にも随分とヒヤヒヤさせられたものだよ。彼女が君を探しに行ったと聞いた時には死すらも覚悟したが…………君はやはり儂のことなど老兵ぐらいにしか思っていなかったようだな? その思い上がりのお陰で助かった。」
「どういうことだ?」
「これ以上君とはなしている時間はない!」
 彼がそう言い放ったと同時にルシフは全身に悪寒が走った。あそこまで冷たい目を見るのは初めてだ。もしかするとそれこそが魂を喰らうものファウストの異名を持つ所以かも知れない。人を殺すことすらいとわないという目をしていた。
 
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