永劫回帰の黙示録(レヴェレーション)

真白 悟

文字の大きさ
61 / 86
終章 魔の終末

5.代償

しおりを挟む
 ルシフの目から赤い液体が流れて、彼の口元までの直線を描いた。それはまるで涙を流しているようでもあり、アンドロマリウスは少しだけ顔をこわばらせる。

「……っ糞、まさかお前がここまでやるとは思っても見なかった。まじで後悔してるぜ……。まさかこんな簡単に魔法を失うなんて」
 ルシフは彼女の剣によって切り裂かれた瞳を手で覆いながらその激痛に耐えた。しかし、失われた目は二度と元には戻らないだろう。それはルシフ自身も良くわかっている様子で、反対の目からは透明の液体がこぼれ落ちていた。
「不本意ですが、これで雌雄は決したでしょう。魔法が使えないあなたは、もはや普通の人間と何ら変わらない……いえ、失った目を考えればそれ以下でしょう」
 彼女は剣を引いて、その剣を消滅させた。

「まさか、今の剣は……いいや、そんなことはどうでもいい。それよりも、俺の目を一つ潰したぐらいで油断しすぎじゃないか?」
 剣を引いた彼女には、ルシフの脇から出てきたナイフを防ぐすべはなく、その短い刃は虚しくも彼女の胸を貫いた。

「ごふっ……!」

 口から鮮血を吐き出すアンドロマリウスだが、なぜだかその表情は穏やかだ。むしろ、それを受け入れているという印象を受けてもおかしくない。
「これじゃあ俺のほうが悪役のようだが、お前を倒せる最後のチャンスだ……悪いが俺はお前じゃないみんなをたすけなくちゃいけない」
 ルシフからは一切の後悔を感じられず、なおかつ涙を流し続けている。それを見て彼女は満足したのか、限界が来たのかそのまま後ろに倒れ始めた。
「……いいえ、私の仕事は終わりました。あな……た…………の魔を……はらっ、払えたのなら……」
 彼女は目を開いたままそれ以上何も口にすることは、ついにぞなかった。彼女の気持ちは最後まで、ルシフに届くことは永遠になくなったのだ。しかし、彼はそのことを知ることはなかった。だが、彼自身も彼女に少しは思うところがあったようで、その乾いた目をこれ以上乾かないように閉じた。

(俺にも守る物があるんだ……)

 彼は自分にそう言い聞かせ、自分の魔法で最後に見た未来の場所へと足をすすめるべくことをすすめる。
「おい、あんた達いつまで隠れているつもりだ? 流石に魔法が使えない俺だけじゃ、この人数は骨が折れる……よかったら手伝ってほしいのだが?」
 ルシフはずっと自分たちの戦いを影から観察していた男たちに声をかける。
「ようやく私達の出番ですか? 待ちくたびれましたよ」
 彼の呼びかけに、物陰から3人の魔術士たちが姿を表した。魔術士団長がルシフを追うように言いつけた3人組だ。

 3人を含めルシフ達は、戦闘態勢を取るが悪魔の配下達は一向にルシフ達を攻撃する素振りを見せない。見せないどころか、武器を捨てるものまでいる。その中でも格が違いそうな男がルシフたちのもとへと近づいて来た。
「なんだか勘違いをしているようだが、俺たちは悪魔のために動いているわけじゃない。アンドロマリウス様のためだけに動いていたんだ。つまり、今からは彼女の望みどおり、悪魔共を蹴散らすために戦うわけだ……」
 ルシフは突拍子もない言葉に少しだけ戸惑った。
「つまりどういうことだ?」
「お前たちとなんて戦っている暇はない」
 それだけを伝えると男たちは城の方角へ向けて、全速力で走っていってしまった。ルシフ達はそれを呆然と見つめているだけでなにも出来ない。

「って、え? どういうこと?」

 ルシフは魔術士団のメンバーの一人ある髭面の男に戸惑いながら尋ねるが、その男も意味がわからず、更にその部下であろう若い男に尋ねる。しかし、その男も状況を理解出来ず、そのさらに部下である小さな男に尋ねて、もちろん答えなど出るはずもない。

「……ちょっと、ちょっとちょっと!」

 一番下っ端の部下がそう言って言葉を濁した。ついでに空気まで濁ってしまい、みな無言のまま少しの時が流れた。
 少し経って、ようやくルシフは思い出したようにアリサの元へと向かい、すぐさまその小さな少女の体を抱え込んだ。
「アリサ! 無事か!?」
 ハムートの魂が封印されてしまったことにより、アリサは実質半分しか魂を体に宿していないことになる。つまり、彼女の体は今の状態では長く持たない。

「とにかく、アリサ様の命に別状はないということですね?」
 一番上の髭男がそうルシフに問いかける。
 一応ルシフは脈と呼吸を見たが問題なさそうだったため、男たちに問題ないとジェスチャーする。だがルシフも彼女が長く持たないかもしれないことには気がついていた。

(早くハムートの魂を取り返さないとな……)

 だが、ルシフには彼の魂に関する情報が何もない。だからこそ何をしたら取り戻せるかなんてことはまるでわからなかった。
「くそっ! 一体どうすれば……」
 このままではアリサが死んでしまう、その焦りからルシフは冷静を保つことが出来ていないようだ。しかしこのまま焦ったところで、なにか状況が好転するなんてことはありえない。だからこそ、ルシフにとっての状況は悪くなる一方だ。

「あのう……」
 リーダーの男が苛立っているルシフに、おどおどしながら声を掛けつつ歩み寄る。ルシフは本当うに気が立っており、男を鋭い眼光で睨みつけた。
「なんだ?」
「アリサ様、目が覚めたみたいですけど……」
「……へ?」
 ルシフは間の抜けた返事ととともにアリサの方に目をやり、彼女がその目を自分の方にやっていることに気がついた。
「ルシフさん……なんとなく夢がかなったみたいで嬉しいけど、恥ずかしから勘弁してほしいんだけど……」
 みるみる赤くなる彼女の頬に、ルシフもつられて赤くなった。
「これはその……あれだ! 別にお前を心配したわけじゃないんだからなっ!?」
「いや、人の名前をあれだけ叫んでおきながら、それはないとおもうんだけど」
「叫んでない!」
 そう大声で叫ぶと、ルシフはようやく冷静さを取り戻し、本来の目的とハムートの魂についてアリサと団員たちに話した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...