永劫回帰の黙示録(レヴェレーション)

真白 悟

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終章 魔の終末

14.城

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「それにしても、この城、城壁が壊されていた割には中は無事なんだな……」
 ルシフは城の中が小綺麗なことを不審に感じていた。いくらただの人間である兵士と悪魔の戦いが一方的であったとしても、悪魔が手加減でもしない限りはここまできれいな状態で保たれてはいまいだろう。
 それにはアリサも同意見だった。
「確かに侵入された形跡すら無いね……まるで誰かに消されたみたいだ」
 二人は同時に、王国騎士団であった男のことを思い出した。あの男であれば、きっと人間ぐらいなら跡形もなく消滅させられるだろう。城の内状がきれいな事もあったが、死体が見当たらないことからもそう思わせられた。

 そんな調子で、どんどん二人は奥へと進むが、人っ子一人……いや死体の一つすら見つけることは出来なかった。むしろ本当に襲撃などなかったのかもしれない。
 絨毯はきらびやかな赤を保ち、シミひとつ見当たらないし、壁紙の白さと言えば灯を反射するほどだ。窓に至ってはホコリ一つついていない。敵の侵入を許したとは信じられないというのが現実だ。
 だからこそ、誰一人兵士や給仕のものが見当たらないのが二人の不安感をつのらせた。

「この城はいつもこうなのか?」
 あまりにも不自然な状況に、思わずルシフがアリサに尋ねる。
「いや、たまにしか来なかったけど人が全くいないなんてことはなかったよ……でも掃除はいつものように行き届いている。まるでさっきまで人が掃除していたようだね……」
 アリサは自分がおかしなことを言っているとは思っていたが、この状況下においては率直な意見を述べているつもりだ。ルシフもそれには同意する。――まさにアリサの言うとおりだ。

 どれだけ奥に進もうが、部屋に入っていこうがどこも同じだった。だからだろうか、謁見の間までは本当に短い時間で到達する。
「ドアの向こうから声が聞こえる……もしかしたらジゼルと悪魔かも知れないな」
 ルシフの言葉に、アリサは緊張する。
「この魔法の反応はきっと団長だ。早く加勢にいかないとっ!」
 アリサはそう言うと、ルシフが静止するのも間に合わずドアを勢い良く開けた。

――そこに広がった光景は、先程までの城の印象を裏返すものだと言っても過言ではないかもしれない。
 惨状だった。これこそ地獄絵図というものだろうか、部屋の中には血が溢れて、よくよく見ればドアの下から血がにじみ出ている。まるで市民が弾圧された後であるかのように死体がそこらかしこに散らばっている。それこそ街で見た景色が日常と言われても違和感が無いほどおびただしい。
 王はきっとこの光景を目撃したからこそ、先程の傷心だったのだろう。むしろこの光景の後であったのならば、いくらルシフと言えど王を責めることは出来なかっただろう。

「この臭い……本当に人間なのか……」
 ルシフは寂しそうにそうつぶやいて、死体の一部の腕を握った。その腕には獣の刻印が刻まれている。それをみて、ルシフは正義がわからなくなた。
 アリサはその光景に耐え切れず、嘔吐している。聖者とは言えど、まだまだ経験の浅い少女にとっては絶望してもおかしくないものだ。
「…………どうしてっ!」
 嗚咽まじりに、言葉にならない言葉をアリサは吐き捨てる。

 ルシフは部屋の片隅で手を地面につく、アリサの背中を撫でる。――彼女は連れてくるべきではなかった。そんな言葉がルシフの頭にこだまする。
「俺のせいだ……お前は部屋の外で待っていろ」
「ううん、僕が自分の意思でついてきたんだ……もう逃げないよ」
 彼女の目には強い意志が見受けられ、ルシフはそれ以上止めることはやめた。彼女は今成長しようとしているのだと、出来るだけ自分を納得させるようにルシフは心でそう思った。
 ようやく少しだけ冷静さを取り戻し、部屋の中にいた二人の姿が目に入る。ルシフは愚か、アリサから見てもかなり高度な戦いを繰り広げていた。

 その二人とは、ジゼルとファウストだ。ジゼルはともかく、老体のファウストはその体つきからは想像もつかない動きで、ジゼルの剣を躱しては反撃を繰り出し、その反撃をジゼルが受け流す。ただそれだけの動きであったとしてもかなりのものだ。

「どうして味方を殺した!?」

 ジゼルが吠えた。
 それをあざ笑うかのように、ファウストは近くにあった死体を蹴り飛ばす。
「味方だと? このゴミのような連中が崇高な聖者の味方だと本気で思っているのか? 儂はこいつらとは違う。こいつらのように、たった一人の男のゴミのような計画に乗ったりはせんよ」
 その様子とファウストの言葉に、ジゼルは冷静さを失って突っ込む。怒りで我を失った剣を交わすのは簡単だ。いくら老体であったとしてもたやすく交わすことが出来、そこからのカウンターで価値は決まる……はずだった。
 ファウストの剣はジゼルの首先で、何か硬いものに弾かれる。凄まじい鉄と鉄がぶつかる音と、その摩擦による火花が散った。
「まだ死ぬにはなやいぜ! ……ジズっ!」
 とっさにルシフが剣で防いでいた。

「ゴミがまた増えたか……それとも、お前も儂と同じで悪魔から聖者にジョブチェンジでもするというのか? ずっと永劫回帰なんていう馬鹿なものを信じていたお前ごときが!!」
 二人の再会を切り裂くかのように、ファウストは剣を振る。剣の鍛錬を最近はサボってなかったとはいえ、ルシフに比べると相手は長年剣を振り続けた強者だ。それだけでルシフが押される理由としては十分だった。
「くそ、本当に爺さんなのかよ!」
 ルシフには、ファウストが老人には到底思えなかった。一度手合わせしたことがあるアリサよりもハムートよりも、剣の腕に関しては数段上だ。だがダンダリオンと比べれば数段劣るぐらいの実力であるが、そんな老人がこの世にいていいはずがない。
 そんなことを考えているうちにも、ファウストによってルシフは壁際まで詰められていた。
「前も言っただろう? 剣を振っている時に考え事をしちゃだめだって!」
 ファウストの背後からアリサが飛び出す。今にもファウストの頭を切り裂かんばかりの勢いだ。

「聖者ともあろうものが、この儂の邪魔をしようとは情けない。まさか儂以外の聖者を絶滅させることになるとは……」

 ファウストは全く後ろに視線を送ることもなく、腰につけていたもう一本の剣を左手で素早く取り出し、頭上から落ちてきた剣撃を防ぐ。ルシフは決めるなら今しかないと、両手で剣を横に振りがら空きな腹部を狙うが、ファウストが右手に持っていた剣で悠々と受けきった。
「なん……だと……」
 最大の隙ですら、致命傷は愚かかすり傷一つ付けることが出来ず、ルシフは意気消沈した。
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