永劫回帰の黙示録(レヴェレーション)

真白 悟

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終章 魔の終末

22.記憶

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「今日もまたあの地獄を味わうのはごめんだな……」
 ルシフは朝目覚めて、ベッドから起き上がるでもなく気だるそうにつぶやいた。それもそのはず、『働かざる男』はいやいやでも働かざるおえない状況に立たされているからだ。
 連日教会に押し寄せる街の住民たちは、ルシフの苦労も知らずその殆どが懺悔室を目当てとし、懺悔するわけでもなく様々な相談事を持ちかけてくる。もちろん、たった十数年程度しか生きていない男に全てを解決する能力があるはず無いのだが、それでもなお、街の住民たちは相談にやってきた。
「このままじゃ過労死してしまう……サボる場所を別の場所に移すか? いやいや、他に姿を見られずにサボれる場所なんて……」
 ルシフが考えてもその答えは出ない。何と言っても、街へと流れ着いた不法滞在者を街で働けるように街の会長がとりなしたことによって、街の人口は急激に増えていたからだ。
 もちろん、それにともなって治安が悪くなるなんてこともあったが、船乗りたちによってそれは回避されたらしいことをルシフは懺悔室の中でよく聞かされた。だが、そんなことは今のルシフにはどうでも良かった。とにかく動やったらサボれるのかだけを考えて、教会を飛び出した。

「くそ、どうしてこんなに人がいっぱいいるんだ!?」

 中央通りにあふれる、まるで祭りの為に街に訪れた観光客が溢れかえっているかのような人にルシフは底知れぬ疎外感すら感じた。まるで、自分の知らない街に来たようだと。
「とにかく、今日は絶対に懺悔室にはこもらないぞっ!」
 ルシフは決意を強め、いつもは行くことのない街の入口へと向かう。
「今日は街から少し離れたところにある湖で、ゆっくりしよう」
 そう思い彼は急ぎ足で、人混みの中をくぐり抜け、ようやく街の門までやってきた。――ルシフのき記憶が正しければ、門は壊れていたはずだが、特に何ら破損部位のないもんにルシフは首をかしげながらも街の外に出る。
 門番の男が「ルシフ、外は今危ないぞ!」なんて言う声が聞こえたが、ルシフはその制止を無視し、どんどん足を前にすすめる。
「どうなってるんだ、これは!?」
 ルシフの眼前に広がるのは気持ちよさそうな草原と、そこを闊歩する魔物の群れ、ルシフの想像では荒れ地に大きな湖があったはずだが、どれだけ目をこらせど、目にうつるのは緑の草花ばかりで、それ以外には本当に何もない。

「だから、今日は危ないって言ってるじゃないか……」

 突然の背後から声がかかると同時にルシフは振り向く。そこに立っていたのは、先ほどルシフに声を掛けた門番であり、ルシフの友達の一人だった男だ。当然ルシフはその男を覚えていながら、彼の名前が思い出せなかった。
「これはどういうことだ!?」
 ルシフは門番の男の襟ぐりを掴み上げ、問いかける。門番は苦しそうにもがきながら、ルシフの手を振り払って答える。
「……っ! いきなり何するんだよ……。まあいい、今は繁殖期で獣が餌を求めて草原に魔物も群れが溢れ出るって……お前も知ってるだろう?」
 突然の暴力も気に留めず、しっかりと説明してくれる男をルシフは睨んだ。
「そんな話じゃないっ!! ここは誰かの水魔法で荒れ地になっただろう!? 湖はどこへ言ったんだ!?」
「はあ? 荒れ地? 湖? お前は何を言ってるんだ? ……まさか引きこもりすぎて頭がおかしくなったとかじゃないのか!?」
 そういう男の目を見るに、冗談を言っていないと気がついたルシフは、「すまん……」と一言だけつ呟くと、そのまま草原へとかけだした。後ろから聞こえた「ルシフ、まて!」という声もものともせず、一心不乱に走り出した。どうしてだが、王都を訪れなければならないような気がしてならなくなったからだ。
 しかし、港町から王都まではかなり距離があり、人間が走っていける距離では到底無い。そのことはるルシフもよく理解していた。それでも、猪突猛進に走り続けた。

――それから少しして、ルシフはある不思議な感覚に囚われた。不安とは違う感情、どちらかと言えば安心感と言うべきか、それとも安らぎと言うべきか、とにかく全速力で走っている人間が感じることは無いものだろう。気のせいか先程より空が輝いている気すらした。
「明けの明星よ、ここはあなたが来ていい場所ではない。ロールを放棄せず街に帰るのだ」
 どこからか聞こえてきた声にルシフは、大切な声なような気がして立ち止まった。
「誰だ?」
 立ち止まったルシフはすぐに、声の主を探すがどこにも姿はない。それどころか、先程聞こえてきた声が幻聴であったかのようにその場は静まり返っている。
「私は神だ。なにも覚えていないあなたには酷かもしれないが、私との約束を違えることは赦さない。いいえ、本当は赦してやりたいが他の者の手前赦すことは出来ないのだ。……私を困らせないでくれ」
 神と名乗る声は、ルシフが思っていたよりも弱々しく言葉を口にした。
「そうか、あんたが神なのか……だったら話は早い。俺はおそらくだが、あんたの創った『永劫回帰』とやらで戻ってきたようだ。1年経ってようやく記憶が戻って来たところだ。あんたが神なら未来は知ってるんだろう?」
「もちろん、あなたがどういう結末を迎えるかは知っている。ですが人間たちのいう『永劫回帰』とやらは私が創ったシステムではない。そんなものは私を侮辱する為に、愚かな人間が作った罪だ。人類における2番目の大罪といえるだろう」
 ルシフは神の言葉に疑問を抱く。
「人間が作っただと? そんなものを人間が作れるはず無いだろう!?」
 それに対し神は言う。
「作ることなど簡単だ。そういう噂を流せばいいだけだからな」
「それじゃあ、俺がここにいる理由は……」
「あなたがここにいるのは、私の力だよ。記憶をなくしたあなたでも知っているだろうが、聖者にだけある特権を与えている。それが『永劫回帰』ならぬ『時間回帰』だ。私が与えた任務を果たせずに死んでしまった場合だけ過去に戻るようにしてある。非常に便利な力だが、いかんせん神である私ですらと解けないというのがネックだがな」
 神はそのネックをあまり気にしていないという風に笑う。しかし、その神の雰囲気からは後悔が垣間見える。だがルシフにとって重要な点は別にあった。
「ちょっと待て……『聖者』にはだと? 俺は聖者じゃないだろうが、俺はただの悪魔のなりそこないだ。そんな力を持っているはずがないだろう!?」
 荒ぶるルシフをよそに、神は質問で返す。
「どうしてそう思う? 私はそんなことをいった覚えはないが」
「この刻印だ!! この刻印は獣の刻印ってやつじゃないのか!?」


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