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「私の話より、魔法の話よ。あなたは自分がどこの国の人間かも覚えてないのかしら?」
シアはたやすい感じでそんな質問を投げかけてくるが、それは僕にとってはかなりシビアな質問だ。
まさか真実を口にすることなどできるはずないし、そもそも真実を口にしたところで信じてもらえるとは到底思えない。信じてもらえたとしても、僕みたいな気味が悪い出自の人間を会社に置きたいと思うだろうか。いいや僕ならいの一番に追い出す。厄介ごとの種になりかねないからだ。ここはやっぱり記憶喪失で通すべきだろうか……だけど嘘ばっか吐くのも心苦しい。
そんな風に考え事をする僕を見てシアはまた大きなため息を吐いた。
「まあ、その見た目からして南のどこかの国だと思うけど……南の国には火の神聖魔法を使う人が多いって聞くけど、純粋魔法のほうは骨が折れるわね」
「火の魔法……えっと、どうしてその……じゅん、すい魔法は骨が折れるんだ?」
そもそも純粋とか神聖とか言われてもよくわからない。もっとわかりやすく説明してもらいたいものだ。
シアは「それも覚えてないのね」と、少しだけ困った表情をすると説明を続ける。
「純粋魔法は人間が作りだしたと言われる魔法で、効果は非自然的で扱いが難しい魔法のことよ。種類は膨大で、遺伝で引き継がれるから両親が分からなければどんな魔法が使えるのかが分からない……だから記憶喪失で知り合いさえいないあなたにとってはどんな魔法かを思い出すことも難しい……反対に神聖魔法は国ごとにその特性が分かりやすいことと、その種類の少なさから出自すらわからなくても簡単にどの魔法の才があるかを確かめる方法が確立されているのよ」
「なるほどな」
わかりやすいようでわかりにくい説明だ。
たぶん魔法について知っていれば理解できるんだろうけど、僕はまるで魔法のことを知らない。つまり説明してくれるのはありがたいが、のれんに腕押しだ。
「意味が分からないって顔ね」
そう呆れた表情でシアが言う。
どうやら顔に出てしまったらしい。
「もっと初歩的なことから教えてくれるとありがたいな」
出来るだけ社長に手間を取らせないつもりだったが、知らないことを知らないままにしておくことも出来ない。シアもそう考えていたらしく、面倒くさそうにはするもののすらすらと説明をし始める。
「水を出したり、火を出したりするような自然を操る神のごとき力は神より人間が与えられた力とされている。だから人はその力に神聖さを見いだして神聖魔法と呼ぶのよ。元が自然であるが故にその力は強大だけど、それ故に単純。種類も少なくて文献にまとめるのが簡単だからこそ、ルーツが分からなくても本を読めば何とかなる。それが神聖魔法よ。それに比べると、純粋魔法は呪われた力。神に反旗を翻した悪魔たちが神に対抗したいという純粋な気持ちから生まれた魔法。神を倒せるのは神が造り出した自然的な力ではなく、神の知らない非自然的な力。そう信じて悪魔たちが自ら作り出した魔法。悪魔と人間が交わることで遺伝的に引き継がれてきた。遺伝的に引き継がれているからこそ、そこには個性が生まれて無数に魔法が存在している。だからこそ、どんな魔法が使えるのかを知るためには魔法の使い手のルーツが重要になる」
まるで教科書の様な説明だ。
だけど最初の説明よりかははるかに分かりやすかった。なるほど、つまり神聖魔法は種族の魔法で、純粋魔法は個人の魔法という事か。
「じゃあ、僕は火の魔法が使えるってことか?」
「私の見立てではね……でも神聖魔法は聖者の血に近い者じゃないとまともに使えないわ。あなたが火の聖者に近しい、南方諸国の王族か貴族とか、それに近しい人間じゃないとね」
「なるほど、つまり貴族は聖者の血が濃い人間ってことか……」
シアの説明は難しい言葉を使わない限りはわかりやすい。
それにしても、聖者なんて呼ばれていても自分の親族に近しい物ばかりを支配者に立てるなんて、所詮は俗物という事か。わかりやすい支配体系だ。それが崩壊しかかっているというのなら、たぶん近代化の流れがやってきているという事だろう。なんて、僕は政治とか歴史を全くしらないから、本当はそこに関連性があるのかは全く分からないけど。たぶんそうなんだろう。興味もないけど。
だけどそれなら1つわかったこともある。
「なら僕の神聖魔法は使えそうにないな」
僕みたいなみすぼらしい見た目をした貴族がいるはずはない。貴族が外国で浮浪者なんてやっているなんてことがあり得るだろうか、いいやありえない。
「それは早計だと思うけど……でも否定は出来ないわね」
シアはそう言って困った表情をすると、続けて「貴族は数が少ないものね」とこぼした。
そう言えばシアは貴族の影響力が年々弱まってきている的なことを言っていた。それはつまり、聖者の血を濃く受け継いでいる貴族が減ってきているという事なのかもしれない。考えても見れば当然の話かもしれないが、聖者の血を濃く受け継ぐものどうして子をなそうとしても限界がある。そりゃそうだ。どれだけ努力を重ねても、時代が進むにつれて先祖の血は薄まって行くのは止められない。常に近親で子をなし続けるにもいかないからだろう。
「貴族の神聖魔法も弱まってきているってことだな?」
「まあ、聖者様ほどの魔法を使える人物はもはや存在しないでしょうね」
「君はどうなんだ?」
僕の質問にシアは少しだけ迷った風な顔をして言葉を詰まらせた。
何か答えにくい質問をしただろうか。別段、難しい質問をしたつもりはないが。
僕が何かを言おうと口を開くと同時に、シアが質問の答えを口にした。
「私も……たぶん遠く及ばないわ」
「そうか」
なんだか含みを持たせた口ぶりだが、これ以上踏み込んだ質問をするべきではないだろう。さっきのシアの様子から、きっとこの件についてはあまり聞かれたくないのだと思う。彼女に嫌われるような真似をするつもりはない。そもそも、彼女の魔法にそれほど興味もないし。面倒事はごめんだ。
そんなことで貴重な食料源を失うわけにはいかない。
シアはたやすい感じでそんな質問を投げかけてくるが、それは僕にとってはかなりシビアな質問だ。
まさか真実を口にすることなどできるはずないし、そもそも真実を口にしたところで信じてもらえるとは到底思えない。信じてもらえたとしても、僕みたいな気味が悪い出自の人間を会社に置きたいと思うだろうか。いいや僕ならいの一番に追い出す。厄介ごとの種になりかねないからだ。ここはやっぱり記憶喪失で通すべきだろうか……だけど嘘ばっか吐くのも心苦しい。
そんな風に考え事をする僕を見てシアはまた大きなため息を吐いた。
「まあ、その見た目からして南のどこかの国だと思うけど……南の国には火の神聖魔法を使う人が多いって聞くけど、純粋魔法のほうは骨が折れるわね」
「火の魔法……えっと、どうしてその……じゅん、すい魔法は骨が折れるんだ?」
そもそも純粋とか神聖とか言われてもよくわからない。もっとわかりやすく説明してもらいたいものだ。
シアは「それも覚えてないのね」と、少しだけ困った表情をすると説明を続ける。
「純粋魔法は人間が作りだしたと言われる魔法で、効果は非自然的で扱いが難しい魔法のことよ。種類は膨大で、遺伝で引き継がれるから両親が分からなければどんな魔法が使えるのかが分からない……だから記憶喪失で知り合いさえいないあなたにとってはどんな魔法かを思い出すことも難しい……反対に神聖魔法は国ごとにその特性が分かりやすいことと、その種類の少なさから出自すらわからなくても簡単にどの魔法の才があるかを確かめる方法が確立されているのよ」
「なるほどな」
わかりやすいようでわかりにくい説明だ。
たぶん魔法について知っていれば理解できるんだろうけど、僕はまるで魔法のことを知らない。つまり説明してくれるのはありがたいが、のれんに腕押しだ。
「意味が分からないって顔ね」
そう呆れた表情でシアが言う。
どうやら顔に出てしまったらしい。
「もっと初歩的なことから教えてくれるとありがたいな」
出来るだけ社長に手間を取らせないつもりだったが、知らないことを知らないままにしておくことも出来ない。シアもそう考えていたらしく、面倒くさそうにはするもののすらすらと説明をし始める。
「水を出したり、火を出したりするような自然を操る神のごとき力は神より人間が与えられた力とされている。だから人はその力に神聖さを見いだして神聖魔法と呼ぶのよ。元が自然であるが故にその力は強大だけど、それ故に単純。種類も少なくて文献にまとめるのが簡単だからこそ、ルーツが分からなくても本を読めば何とかなる。それが神聖魔法よ。それに比べると、純粋魔法は呪われた力。神に反旗を翻した悪魔たちが神に対抗したいという純粋な気持ちから生まれた魔法。神を倒せるのは神が造り出した自然的な力ではなく、神の知らない非自然的な力。そう信じて悪魔たちが自ら作り出した魔法。悪魔と人間が交わることで遺伝的に引き継がれてきた。遺伝的に引き継がれているからこそ、そこには個性が生まれて無数に魔法が存在している。だからこそ、どんな魔法が使えるのかを知るためには魔法の使い手のルーツが重要になる」
まるで教科書の様な説明だ。
だけど最初の説明よりかははるかに分かりやすかった。なるほど、つまり神聖魔法は種族の魔法で、純粋魔法は個人の魔法という事か。
「じゃあ、僕は火の魔法が使えるってことか?」
「私の見立てではね……でも神聖魔法は聖者の血に近い者じゃないとまともに使えないわ。あなたが火の聖者に近しい、南方諸国の王族か貴族とか、それに近しい人間じゃないとね」
「なるほど、つまり貴族は聖者の血が濃い人間ってことか……」
シアの説明は難しい言葉を使わない限りはわかりやすい。
それにしても、聖者なんて呼ばれていても自分の親族に近しい物ばかりを支配者に立てるなんて、所詮は俗物という事か。わかりやすい支配体系だ。それが崩壊しかかっているというのなら、たぶん近代化の流れがやってきているという事だろう。なんて、僕は政治とか歴史を全くしらないから、本当はそこに関連性があるのかは全く分からないけど。たぶんそうなんだろう。興味もないけど。
だけどそれなら1つわかったこともある。
「なら僕の神聖魔法は使えそうにないな」
僕みたいなみすぼらしい見た目をした貴族がいるはずはない。貴族が外国で浮浪者なんてやっているなんてことがあり得るだろうか、いいやありえない。
「それは早計だと思うけど……でも否定は出来ないわね」
シアはそう言って困った表情をすると、続けて「貴族は数が少ないものね」とこぼした。
そう言えばシアは貴族の影響力が年々弱まってきている的なことを言っていた。それはつまり、聖者の血を濃く受け継いでいる貴族が減ってきているという事なのかもしれない。考えても見れば当然の話かもしれないが、聖者の血を濃く受け継ぐものどうして子をなそうとしても限界がある。そりゃそうだ。どれだけ努力を重ねても、時代が進むにつれて先祖の血は薄まって行くのは止められない。常に近親で子をなし続けるにもいかないからだろう。
「貴族の神聖魔法も弱まってきているってことだな?」
「まあ、聖者様ほどの魔法を使える人物はもはや存在しないでしょうね」
「君はどうなんだ?」
僕の質問にシアは少しだけ迷った風な顔をして言葉を詰まらせた。
何か答えにくい質問をしただろうか。別段、難しい質問をしたつもりはないが。
僕が何かを言おうと口を開くと同時に、シアが質問の答えを口にした。
「私も……たぶん遠く及ばないわ」
「そうか」
なんだか含みを持たせた口ぶりだが、これ以上踏み込んだ質問をするべきではないだろう。さっきのシアの様子から、きっとこの件についてはあまり聞かれたくないのだと思う。彼女に嫌われるような真似をするつもりはない。そもそも、彼女の魔法にそれほど興味もないし。面倒事はごめんだ。
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