境界線の知識者

篠崎流

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制限の威光

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1から始めた16ヶ月、一年半手前の頃幾つかの事が動く

まず驚きだったのが、ターニャの見た目の変化。外見上15歳くらいに加速度的に成長した事である「どういう事なんだ!?」とエミリアも驚いて云ったが、理由は単純である

「人魔や混ざり物は育ち方がいくつかのパターンがある、幼年期から青年期に人間の数倍の速度で育ち、安定するもの、逆に最初から最後まで成長ペースが同じ者、最初から最後まで見た目があんまり変わらん者、この3種に分れる」
「つまりターニャは前期の例なのか‥」
「だな」

こうなると隠しておけず、また隠匿もせず、周囲や民にも経緯と事情を話した

「彼女は人魔だ、クオーターで半々ではない、それから女神系の血筋だ、故に、高い知能と見識を持つ、今後もオレの養女として扱うつもりだ」

が、ここの住人にそれを否定する者は居ない、元々そういう種も居る土地である、まして「女神系」のそして「王の娘」には違い無い

フォレスは万が一にも彼女が白眼視されないように力も見せた、医療施設に行ってターニャに治療をさせて見せたのである

「奇跡の手」を、それで怖がる人間等居ない、神の系譜だと判れば、寧ろ羨望すら出るのである、そしてそれだけではない、見た目の成長に合わせて能力が爆発した事だ、元々学問に興が深いのだが、武力もエミリアと良い勝負する様に成っていた

「問題は、どうするか、だなぁ‥」
「置いとくだけ、て勿体無くないか?」
「?どっかの職に付けろ、て?」
「私の下に欲しいぞ、戦略も戦術も出来る」
「むう‥難しい、立場上オレの代理もして欲しいし、武力もあるし、戦術もいけるし、術も多少出来るし、博識だし可愛いし」
「お前の傍に置くのはずるいぞ、良い人材ばかり」
「そういうつもりでは‥、しかし、万能過ぎて難しい‥」
「欠点が無いからな」
「あ、いや、あるぞ」
「ん?」
「よし、トリスの下に付けよう、ターニャは主体性がイマイチだ」
「騎士団にか?」
「うむ、何でも出来るなら何でもさせよう」
「ああ、それは良いな!、軍でも錬でも引っ張れるし」
「今の所万能特殊部隊の傾向が強いからなぁ、警備、近衛、軍、検挙までやってるし」
「うむうむ」

「と、いう訳で騎士団の方で面倒を、という事だ」
「ターニャです」と軍官に紹介されて挨拶したが‥

「姫を私の下で使え、て非常に使いづらいんだけど‥」
「けど、剣は司令と良い勝負、学があって戦術面も文句なし、魔法も出来るし、治癒も出来るんだろ?人材としては国中探しても居ないレベルだろ」
「というかですね、全ての面に置いて僕らより上なんですが‥」
「確かに‥」
「けどまあ、主体性がイマイチ、てなら、確かに命令出しを受けた方が楽ではあるね」
「どんな物事にも自由に使え、て御達しね」
「御意とあらば兎に角やってみよう、見てみないと何も判らない」
「そうだね」

と当日から、基礎、決まりごと、だけ教えて、色々な任務をトリスの下に同行させてやらせてみる

三日程、見回り、捜査、軍錬、個人指導など使ってみるが評価は180度変わる

団の官舎の夕食の場で

「使いやすいわね」
「何でも良く聞くし、決まり事をキッチリ守る」
「なんつーか、よく訓練された犬?」
「便利過ぎてやばいわね」
「しかもこの夕食、彼女が作ってるし」
「女としても負けてるわ‥可愛いし‥」

そんな感じでターニャは馴染んだ頃には人気者だった、頼めば直ぐ来る、逆らわない、素直、軍錬、ちょっとした見回り、個人錬、医療施設、果ては個人的な食事の誘いなど、朝から晩までひっきりなしな事態になって取り合い、ついには予約制にすらなった

ただ、ターニャは少しも疲れた様子も無く何時も楽しそうだった「誰かに必要とされる」という初の環境が楽しくて仕方が無かったのである

そしてもう一つの「事」が
大陸情勢、つまり「乱」の拡大である

依然中央付近ではペンタグラムの抑えがあり、動きは無かったのだがその外側、北での小競り合いからの激化が見られ、そこから北地域全体への拡大である、国の取り合いというのは無くどこがどう勝っているという事もないのだが

「まあ、コッチには関係ないなぁ、それに収まる所に収まるだろう」

フォレスも気楽に云って自分の作業に集中した

「随分デカイ石ね、何作るの?せんせ」
「肩代り、だなぁ、オレの魔法許容量だと転移が単体で使えん、魔術士らしく魔法の杖にでもするさ」
「ふーん」
「興味なさそうだな」
「せんせに作ってもらった方が楽だし、あたし向いてないのよねぇ~細かい作業」
「そうだな、意外と細工とか魔力注入の手間とかつきっきりだしな」
「なんよね」

そうして作業の途中、メリルが部屋に入ってくる、と言っても大体開けっ放しの私室だが

「王様‥中央から書状です」
「中央?ペンタグラムか?」
「の、様です」

早速受け取った勢いでササッと開けて読んでみる「何々?」とメリルもインファルも覗き込む

「国家間会議の出席?なんだこれは」
「いわゆる、世界の国の長の集まりですね、多分大陸情勢の話かと」
「何でオレが‥」
「一応王だし‥」
「どういう物なのかよく知らんのだが?」
「各国の長を集めて全体的な戦略、或いは緊急事態への対処を話し合う物です、ただ、現在は形骸化している様ですね」
「ふむ‥」

「ペンタグラムが勝手にやってろ、て流れが多いんじゃない?あんまり人々の噂にも成らないわよ」
「なんだかなぁ‥」
「どうしますか?王様、基本無視なさっても問題ない物ですが」
「オレが行かなきゃダメなのか?」
「そういう訳でもないかと、軍関係者や高官、一族等が出る事も多いみたいです」
「つーとエミリアか‥」

「何でも配下に押し付けるのはやめた方がいいかと‥そもそも忙しいと思いますが」
「じゃあメリル、は無理か‥」
「王様‥」
「あ、そうだターニャでいんじゃね?姫だし」
「何故、王様が行かない事前提なんですか」
「めんどくさいし‥そもそもうちの国、新参だろ、どうせ意見出しても無駄だろう」
「無きにしもあらず‥ですね、ですが、空気を掴むのは良いのでは?それぞれの国の態度もわかりますし」
「ふむ‥しょうがないか、オレが行くか‥」

「では、他には誰を?」
「んー‥じゃティアで、一番暇ぽいし、剣も出来るし護衛にはいい」
「エルフを連れて行くんですか」
「それも考えようだ、目立つし、良識や知性が高いと証明できる、居るだけで珍しいからな」
「成るほど」

そういう流れでフォレスとティアがそのまま行く事になった、翌月には迎えが来て北へ、バルクストの南西にある神殿に向かう

神殿という程デカクもない、一般家屋程度の大きさの駐在所という感じだ、が警備は物物しい

内部に入るとガランとした石の部屋で中央に魔法陣と周囲に4本の柱、そこに乗せられ転移、である、それを繰り返して、2回跳んだ所で既に中央だった

「便利だな」
「ああ、あの周りの柱が丸ごと魔法石だ」
「天魔戦争の遺品か‥」
「だろうな‥この世界広すぎるからなぁ、一々馬で旅て成ると会合も早々開けん」
「こちらです」と案内に誘導されてペンタグラムの王城に入った

中央ペンタグラムは世界の中心にある、位置もだ、山の中腹に都市があり、高地、そこに人々が住んでいる

宗教国としての意味合いもあるが「神の系譜」の象徴で、軍力はそれ程無く、全軍でも2000くらいだが、長年の立ち位置と権威によって中立で「裁定」の場所

人口自体もそれ程多くなく、小都市ではあるが、収支は多い、いわゆる献上、寄付で成り立っている側面があり、金貨、銀貨の発行権を持つ国の一つだ

王は歴代一族、特に「神」的血の濃い者が優先して選ばれる、早い話「何らかの特殊能力が出た者」優先だ

「それって、当人の政治的能力なんかどうでもいい、て事では?」
「だろうな、象徴だし、外に向かっての見せの要素だな、この城もそうだ」

宛がわれた客室に二人は入って滞在したが
正直豪華過ぎて眼がくらむレベルである

「ウチの官舎より、豪華だぞ?」
「ほんと驚くわ‥が、同時にたいへんだなぁとも思うな」
「それは同感だ、権威や象徴の為の見栄っ張りにしか私にも見えん、しかもそんな物の為にどんだけ金掛けてるんだと」
「とりあえず、会議とやらを見てからだなぁ」
「そうだな」

二日滞在の後、「ペンタグラム全国会談」の開始

巨大な会議室の長いテーブル、かなりの席数、100席程あるが、皆バラバラと集まり座った、並び順に決まりは無いらしい、一段高い所におそらくペンタグラム側の王の玉座

が、席は半分程度しか埋まらない、10分しても特にそれ以上増えず、ペンタグラム側の王の着席で、開催となった

「実質形骸化」というのも納得の会議である。集まりが良いとも云えない

「ペンタグラム国家間会議を開催する」

教皇、でもある元首、ルート「セオング」ペンタグラム、まだ12,3歳の少年だろう、が、会議の進行自体は周囲の高官が行う、セオングは以降玉座に座ったまま、一言も口を開かなかった

「それでは、今回の議題ですが、拡大しつつ大陸情勢、乱への対処ですが‥」

と高官は進行するが、それ自体ただやっているだけだ、参加した各国の代表者も黙って聞いているだけ、ただ、見知った顔も幾人か見つけた、ロベルタのロッゼである、お互い見て軽く会釈した

それが5分続いて皆の意見の出し場と成ったがそれも酷いものだった

「別に今更やる事も無かろう」
「中央地はどこも強国だが、他国の争いに介入する事自体間違いだ」
「経済制裁の様な事をするにも勝手にやる訳にもいかん、ペンタグラム次第だが?」
「それはこちらでは出来ません、強引な介入は其々の国の意思を軽視する事です」
「だったら穏健にやればよかろう。物か金の規制を増やせばいい」
「それをやって困るのはその国では無く、民です、出来ません」
「結局何時もそれだな?」
「こちらには決まり事が細かく設定されていますので」
「どうせ北地域辺りだけの事だ、火種が小さいうちに警告すればいいだろう」
「交渉は続けております」
「中央で動くというならコチラも反撃するだけの事、それで宜しいか?」
「それは脅迫のつもりか?デイン司令官殿?」
「こちらは国民の生活と国を守る義務がある、それだけの事だが?」

そして中央と北から唯一出席している軍司令との争いが始まる

「おい、フォレス」
「何だ?」
「これの何処が会議なんだ?」
「シラネ」

どうやら毎度こんな感じらしい、そもそもまとめ役が居ない上に、軍力とか国家規模のでかいところは主張をし、そうでない者はダンマリ、という話し合いとも云えない様な物だ

結局一時間も無駄な議論をした挙句
ペンタグラムの「今後も交渉を続けます」で終った

ただ、ペンタグラムの立場からすればそれも仕方無いかなという同情の様なものもあった、過剰な介入も出来なければ、軍力も数千程度、それでどうにかしろというのも無理な話だろう

「終ったみたいだな、帰るか」とフォレスもティアもボーゼンとしたまま客室に戻った、その通路途中で声を掛けられる

「フォレス様」と
「お?ロッゼか」

ロッゼは早足で駆け寄り、両手でフォレスの手を取った

「またお会いできるなんて」
「こういう場で会えたのは幸いだな」
「貴方のお噂はこちらまで響いております」
「何故かこうなってしまってね‥」
「宜しければ、部屋へ来ませんか?また、お話したいです」
「そうだな、そうしよう」
「はい!」

とロッゼも嬉しそうだ、それは勿論御付のシンシアもである、お互いの従者と共にロッゼの客室に入り席を囲んだ、シンシアがお茶を出す

「やはりフォレス様は王に成られましたね」
「オレは嫌だったんだがねぇ」
「なんと贅沢な、いえ、でもわかります」
「正直面倒だからな、だが、今はそうでもない」
「と言うと?」
「何も無い所から1から、というのは案外面白い、既にオレが居なくてもというか、何もしなくても回るように構築したからな」
「さすがですね」
「褒めても何も出んよ?」
「ふふ‥」
「ところで、今回国家間会議に初めて出たんだが、ロッゼは?」
「3度目ですね、正直ペンタグラムが何を考えているのか謎だったので、出て見ようと昨年から」
「毎度あんな感じなのか?」
「はい‥」
「会議、というレベルではないなぁ‥」
「終わり方も毎度あんな感じです‥これでは、乱がどうこうと言う話ですらありませんね」

「そうだなぁ、一部強国が主張してるだけだし、何しに来ているのやら‥」
「ペンタグラムも、なんというか‥どうしたいのかよくわかりません‥」
「議論を纏める気がない、というより、向こうに出来る事が少ないからな」
「そう、なんですか?」
「ああ、経済力は寄付やお布施中心、軍は数千、強引な介入は禁止という教理、これでは何の影響力も無い、一応「ペンタグラムの呼びかけだから」で集まってるだけだしな」

「では、経済力か軍があれば変わるのでしょうか?」
「それも「教理」があるからなぁ、通貨発行権を絞って、圧迫できなくは無いがそれも当事者国の国民の犠牲に繋がるし」
「難しいのですね‥」
「ペンタグラムは軍の移動権があるから派兵は出来るんだろうが、それもあの数ではな‥」
「そうですねぇ、今やどこの国も万は揃えていますし‥」
「そして経済力があれば、ある程度取引規制なんか掛けて狙って潰せなくもないんだが、それだけ寄付や献上を受けている国を自ら切り離す事になりかねん、つまり、サイフを握られているという事でもある」
「確かにそうですね、ペンタグラムに寄付をしている国も多いですし、そこを敵に回す事でもあります、となれば、献上を自分から切る事ですね」
「うむ、だからああいう態度なのも一応は納得は出来るな」

「では、ここの意味は‥?」
「うーん、こういう状況に成るのを放置してしまった、という事だな、軍力か政治力か経済力、どれかはあれば、周りもある程度聞く、というか脅迫出来るんだろうが、ここまで来ると無理だな」
「そうですか‥」
「まあ、まるっきり無駄な存在という訳ではない、言われれば一応話は聞くのだし、乱の拡大が遅いのも、粘り強い交渉のお陰だろうし」
「確かに」
「一応、中央集権という形と中立という形、これは間違いではない、オレの国の立国が、スムーズだったのも、その形あってだろう」
「今後はどうお考えでしょう?」
「大陸情勢か?」
「はい、フォレス様の意見を」

「オレの所は問題ない、攻めて来る馬鹿も居ないだろうし、戦火自体北側しか激化してない、防御用の策と軍備はもう整っている、10倍の兵でも相手出来る環境はあるな、が、大陸全体と成ると、余り心配はしてないな」
「と言うと?」
「これは「自分の国」の観点だけだ、守る分には完璧にしてある、戦火は遠い、そして北にしろ、鈍化させておけば北各国の疲弊を待てばいい」
「過去に仰った。其々の国同士の疲弊に寄る、収束ですか?」
「そうだ、終りのキッカケの一つだな、だから先程の話とハンチクになるが、交渉によって大規模戦争だけ抑えておけば、小競り合いの中で疲弊して終る可能性もある」
「なるほど」

「ただ、それも半々だな、どこかが間違って連覇する様だと一気に進む可能性もある、それが成されていないのも、稀有な王、あるいは軍将が居ない事にもあるだろう」
「英雄とか覇王、ですか?」
「そうだな、結局「乱」が乱である為、世界とか多く人を巻き込む何かにはそれは必須でもある、まあ、あるいはペテン師王とかな」
「それは??」
「扇動家のトップ、世が荒れると大体一人は出てくる、民衆に聞こえのいい事を言って君主になったり革命起こしたり、んで、権力を握って一転暴政ていう奴だな、後は宗教戦争みたいな」
「その意味では安心ですね、ここが中心ですから」
「それも情勢次第だなぁ‥このままどっち付かずな対応だと、結局「ほら、やっぱりペンタグラムなんて平和になんて出来ないじゃないか?」と言う奴もでるだろ」

「な、なるほど」
「まあ、世界全体の話は結局流れとか運次第だし、結論は出ないさ」
「そうですねぇ‥そもそも私たちの出来る事は少ないですし」
「で、ロベルタの方はどうなっている?」
「シンシア」
「はい、一応軍備は少し増強しました志願兵も止めていたのですが再開して一千ほど上乗せされています」
「ふむ、全然足りんが仕方無いか」
「ええ、周辺同盟国の目もありますし」
「其の辺りについてフォレス様は何かありますか?」
「そこはシンシアとも過去話したが、難しいな、回りと協調を図らんといかん、やるとしたら、だが、ウチみたいに街とか軍自体を超防御型にするしかないな、ロベルタ単身で敵を全部跳ね返すくらいの。それなら数を増強せんでもいいし」
「なるほど」
「後はまあ、外交交渉だろうなぁ‥ロベルタが増強する代わりに援軍の類は出すとか共和だが、庇護するとすれば可能かもしれん」
「そうですねぇ、それなら‥」

「しかし、それも難しいですね、未だに増強に反対論が多いですし‥」
「だれが言ってるのか知らんがのん気だなぁ」
「ご尤もです」
「まあ、イザ火事が起こるまで防災しなかった、なんて国は歴史上ごまんとあるしな、アホとも云えんが」
「そういうもんですかね」
「残念ながらそんなもんだ、ペンタグラムもそれに近い」
「‥これは笑えませんね」
「とりあえずウチと同盟でもしますか?フォレス様ももう王様ですし」
「友達を作るようなノリで言われてもなぁ‥、別に構わんが現状あまり意味ないぞ?」
「遠いですしね」
「援軍のルートすらないしな」

「わたくし達はこのまま国へ戻りますが」
「んー、そうだな、ロベルタには後で行く、中央は初めてなんでね、1日観光していくよ」
「判りました」

そうお互い交わして別れた、そして一旦自分らの客室に戻ろうとした扉のノブに手を掛けた所でまたも声を掛けられた

「フォレスト王、でしたね?」

相手は見慣れない若い男性、後ろに従者を伴なった、おそらく今回の参加者

「始めまして、アデンスターカ=ウォルフレドと申します」

どちらかと云えば美形だろうか、が、軽薄にも見える笑みを持った、まだ、少年にも見える、確かに参加者なのだろう、彼も一言も発してないので目立たなかったが

「舌を噛みそうな名前だな」
「アデルとも云われます、そう呼んで貰っても構いませんよ?」
「立派な名前には違い無い」
「意味をご存知で??」
「古い言葉、強者、だな」
「流石ですね、魔術師の王でしたね」

お互いそう交わして握手した

「で?オレに何か?」
「貴方の勇名は聞き及んでいます、是非ご挨拶を、と」
「それは態々」
「ですが、一言も発言なさいませんでしたね」
「会議か?、ま、当然だな」
「それは?」
「ウチは立国から一年半、発言権なんぞ無いよ、それにキミもダンマリだった」
「ハハ‥私も皆さんの剣幕に気圧されてましてね、立場上あまり派手な事も出来ませんし」
「立場とやらを聞いても」

「一応中央の北東一国、テスネアの王子、という事になってます」
「押付けられた口か」
「ハハ、そうですね」
「話なら中に入るか?」
「いえ、大した事ではないので、偉大なる賢者の王の見解をお聞きしたいと」
「どんな?」
「会議ですが、どう思います?」
「特に無い、オレの国と戦火は関係ないしな、あってもまだ数年掛かるだろう」
「では、其々の参加国の感想は?」
「主張があるのは結構な事だ、まあ、真似ようとは思わんな。ウチもデカイ事を云えるだけの力を得たい物だな」
「では、ペンタグラムについては?」

「教理、があるからな、あれが精一杯だろう。立場と心情は理解出来る」
「もう少しなんとか出来るとは思いませんか?」
「今の軍力と経済力ではな‥やれる事は少ないだろう」
「成る程、よくわかりました」
「もういいか?」
「はい、素晴らしい見識を拝見しました、また、次でお会いしたいものです」
「それは約束出来んな、オレが来れるとも限らん」
「お忙しそうですしね」
「色々とな、やる事が多い‥」
「では、私はこれで」
「ああ」

と立ち話のまま、短いやり取りで別れた、が、お互いそれで十分である、特にアデルには

「余り王という感じはしませんね‥」

アデルの従者で副官の女性が感想をもらした

「が、魔術士の王、予言の王、という異名は正しい」
「そうですか??」
「色々と引き出そうとしたんだけどなぁ、全然ダメだ、異常にガードが固い」
「‥成る程、私にはただのぶっきらぼうな人にしか見えませんが」
「少なくとも、今日来た中では一番やっかいだ、頭がキレる、一つの隙も、失言もない、ボクの狙いが判ってのあの返しだ」
「どうなさいます?」
「ヘタに触らない方がいいね、逆にこっちが欠点を掴まれる、が彼の見識通り、戦火と同じくあまりこちらとは関係ない、触らぬ神にだ」
「判りました」

そして一方のフォレスもそうだった

「賢しいな、持ち上げている様で小ばかにしたような」
「判るのかティア?」
「異常な程、下出だからな」
「だな、まあ、関係ないさ、もう会う事も無かろう」
「だが、次があるなら参加者は選ばんとな」
「そうでもないさ、敢て適当な者を充ててもいいし」
「会合も殆ど意味がないしな」
「そういう事だ、ま、判っただけでも十分だ、観光だけしてロベルタへ行こう」
「ああ」

「一日観光して」のまま、フォレストらは一通りペンタグラムの城下を回って観光していた、何故か一緒に居たティアに街人が次々傍に寄って頭を下げる

「何なんだ??」
「精霊の申し子、みたいな存在だからなぁ、純エルフ、て」
「珍獣扱いだな‥」
「尊敬を集めているのだから別にいいだろ、それに見た目も美しいからな」
「私にはさっぱり判らん」
「大いなる勘違いだな、人間側から見れば、エルフはもう滅多に見ないし、穏健で高貴で知性高きもの、精霊を操り、神を育てたりと、色々伝記にもあるからな」
「ハーフを差別しといて、純なら尊敬か、アホかとしか言いようが無い」
「人間の価値観なんてそんなもんだ。まあ、ここは特殊だろうが」
「聖とか神の側だけ傾倒しているからな」
「愚かさに人も魔もクソもないんだがな」
「同感では、ある」
「しかし、街も豪華だな、丸ごと神殿みたいだ」
「うむ、エルフ様には相応しい場所だ」
「お前は賊か殺し屋みたいだしな」

「うーん‥一応杖持ってきたけど、魔術師に見えん?」
「見えんな」

そのうちブラブラしているだけだが
街の裏、展望台の様な場所に出る

「凄い光景だな」
「高い所にあるしな」
「しかしなんだ、会議もそうだが、ここの連中は何を考えているのか‥」
「さぁな。ま、このまま栄華を保ったまま知らずに過ごすだけだろう」
「そういうものなのか?」
「世界の命運!とか考える一般人はおらんよ、いや、権力者もだが」
「ふむ」
「大抵状況は固定した物だと、殆どの者は考える、国家も街も生活も永遠だと思うものだ、いざ、事が起こるまで誰も気にしない」
「昨日ロッゼ殿に言った火事の例えだな」
「ああ、会議の連中もそうだが、最悪の事態、など考えはせんのさ」
「呆れた事だ」
「ティアとは寿命も人生も違うからな、短いだけに、先を見ない事が多い」
「それは近視眼という輩ではないか?」
「だな、だが、人間の歴史はずっとそうだ、説教して直せる訳でも無しほっとくしかないな」
「それも極端な気もするが」

「事がターニャなら全力で直すがな」
「素直だからな」
「あの会議の連中を見てみろ、自己の欲求と外面だけが全てだ、云っても倍にして反論するだけ」
「だろうな」
「要するにこのままではいけない、とか、少しでも他者から学ぼう、という意識すらない、そういう人間はもう手遅れだよ」
「しかし、巻き込まれる方はたまった物ではないな」
「ま、こっちは守って防ぐだけ、せめて自分の周りだけは守るさ」
「そう言われてみれば、それしかないな」

そうこう風景を見ながら話していると声を掛けられた「背後」から

「予言の王でも改善策はありませんか」と
「む?」と思って振り返るとそこに居たのは「カイル」であった

「聞いてたのか?」
「ええ、まあ、最後の方だけ、お久しぶりです陛下」
「陛下はよせ気持ち悪い」
「変わりませんねぇ」
「立場がそうなった、というだけだ、で?」
「いえ、お話に混ぜてもらおうと思いましてね、自分も国を憂う者ですから」
「改善策なら無いぞ?」
「ですよねぇ‥」
「まあいい、部屋に戻るか」
「はい」

夕食の場にそのまま3人で会食、丁度夕方というのもあるが

「憂う、というからにはカイルも現状が良いとは思ってないんだな」
「はい、ですが、フォレス殿の仰る事も尤もです」
「ほう」
「自分も学者でもありますから」
「教える事もある、か?」
「ええ、特定の理論が正しいと思い込む者を変えるのは難しい」
「個人なら、馬鹿を見るのは当人か精精周りの者だが、国であれば、そうは行かん」
「左様です、ですが、ココでは物事を動かしようがない」
「結局当人が気づくかどうか、だからな、何でも」
「ええ、生徒じゃありませんし、大抵の人は自分より立場が上です」
「不服か」
「いえ、フォレス殿はどう考えるかと」
「別にどうもせんよ、変えてやる必要も無い、というか「オレがやらなければ!」等と言う考え自体が軍閥家や革命家の第一歩だ」
「確かにそうですね‥、だからフォレス殿はそういうスタンスなんですね?」
「いや、単にめんどくさいだけさ、手間暇考えたら大変な労力だからな、大体、明日から急にオレに教皇をやらせてくれる訳でもあるまい?させてくれるならどうにかするが」
「確かに」

「これも人事論になるが、時と場所と人、これが合わさる幸運など奇跡の様な物だ、それをアテにしてもしかたない、だから、オレは自分の周りは守る、オレに出来るのはそこが精精さ」
「ふむ」
「極端な話だが、ペンタグラムは安泰だろう、世界情勢に関わらず、別に思い悩む事でもないさ、自分の立場を守ったらいい、与えられた権限の中で動く、しかないだろう」
「つまり、外交官や査察官ならそれに従事せよ、と?」
「それが個人に出来る事、だろうな、ま、オレならそれをしながら逃げ道だけは確保するがな」
「例えば?」
「そうだな、折角アチコチの責任者と会ってるのだから、繋がりをつくっておく、状況がどう変化しても対応は出来るだろう、まあ、それは、今やってる事だが、オレと飯食ってるのがその証拠だ」
「そうですね(笑」

「そん中で、自分の出世をしたらいい、権力者とか高官とかになれば物事を動かせるかもしれない」
「ご尤もですね‥」
「まあ、動きが遅くてイライラする事もあるだろうが、それも人間社会という事だな,動ける範囲でやりたい事をやればいいさ」
「フォレス殿もそう感じるのですか?」
「そうだな、キミとは逆だが、何でこんな所に来てアホな各国軍将の議論を聞かねばならんのか、とかな」
「ハハ‥確かに」
「悩む、とか考える、てのは悪い事でもない、それが無い奴は改善も進歩も無い、カイルにはその資質があるという事だ」
「は、はい、すみません、なんだか個人的な相談やグチ、みたいになって」
「会話の無い飯より余程いいさ」
「フォレス王には敵いませんなぁ」

翌日、朝にはフォレスらもペンタグラムを去る
ロベルタへ、だ

「また、お会い出来る事を」
「ああ、こういう場ならいいな」
「はい、それでは」
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