契約妃は隠れた魔法使い

雨足怜

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73知恵者の語り

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 ――これはワタシが仕えていた貴族様が見出した過去の出来事さね。

 はるか昔、まだナイトライト王国なんて影も形もなかったころ、ひとりの精霊がこの世に生まれ落ちたのさ。
 ああ、精霊の数え方はひとり、ふたりとさせてもらうよ。ワタシにとって、精霊は目に見えない隣人だからね。

 その精霊は、けれど他の精霊とは違って、まるで炭を塗りたくられたような真っ黒な姿をしていたというんだ。

 精霊の姿? それはワタシも気になるね。ワタシは勝手にドレスを着た可愛らしい小人を想像しているのだけれど、実際はどうなんだろうねぇ。
 小動物かもしれないし、服を着ているかもしれない。実は光の玉のような存在であったり、綿毛のような見た目をしていたりするかもしれない。
 そんな精霊が周囲にたくさんいると思うとなんだか楽しくなってくるね。

 ……話を戻すと、だ。
 その精霊は、見た目が違うために仲間外れにされたんだ。
 精霊もまた、なんとも人間味あふれるね。あるいは、人間が、精霊味あふれているのかもしれないね。

 それはさておき、その精霊――黒精霊は、一人ぼっちで寂しかったんだ。
 だから、皆に仲間に入れてほしかった。精霊たちの輪に入りたかった。

 けれど、できなかった。

 それは黒精霊が精霊たちと違った見た目をしているからだけではなく、黒精霊が他の精霊に比べて力で劣っていたからなのだそうだよ。

 力の弱い黒精霊は、精霊たちに力で排除された。
 どれほど仲良くしてほしいと願っても、精霊たちは力づくで黒精霊を追いやる。
 日々傷を負い、あるいはその傷は、心に深く刻まれていったのさ。

 そうして、黒精霊は精霊と仲良くなることを諦めた。黒精霊は、別の道を見つけたんだ。

 それが、自分と仲良くしてくれる精霊を生み出すことだったんだ。

 黒精霊にはね、普通の精霊のような力は弱くても、代わりに他の精霊にはない力を持っていたんだ。
 それが、魂への干渉。
 普通の精霊だって命に干渉することはできるけれど、黒精霊のそれは他の精霊よりも一歩世界の神髄に踏み込んだ力だった。
 黒精霊は、その力を使って友達を作ろうとしたんだ。

 ああ、その通りだ。友達を「作る」なんて、まっとうな神経をしていない。友達は自然とできるもの、なんていうのはもちろん、魂に干渉して友達になってもらうなんて、狂っているとしか言いようがないよ。

 黒精霊は、その時にはもう、心に積み重なった傷のせいで壊れていたんだろうね。

 何度も失敗して、それでもめげずに動物や植物の魂に干渉して、自分の友達になってもらおうとした。自分を輪の中に入れてくれる存在に変えようとした。
 完全に一からの試みで、その挑戦には長い年月を要したんだ。それこそ、まだ数の少なかった人間が文明を発展させて、国を作り始めるくらいの時間が経ったらしいよ。
 そしてその術は、この世界に新たな命を作り出した。

 黒精霊の友達になりうる存在。魂の在り方をゆがめられて生まれ落ちたその存在は、黒精霊を受け入れてくれる初めての存在で。

 黒精霊は歓喜して、その術の行使を重ねたんだ。
 なぜ黒精霊は友達の一人で満足しなかったのかって? きっと、劣等感や寂しさでおかしくなってしまっていたんじゃないかね。

 結果として、その行いが最悪の終わりを招くことになったんだ。

 黒精霊が生み出した多くの友達は、魂を変にいじられた存在だった。
 そしてその干渉は、生命としての在り方をゆがめ、生命が生命であるために課された制限を取っ払うものだった。
 ――黒精霊の友達は、互いを食らい、異形と化していったんだ。
 その血は大地にしみこみ、魂への干渉の力をもって、新たな「友達」を生み出す。
 増えては食らいあう友達は異形と化し、やがては黒精霊が引きこもっていた森から世界へと解き放たれた。

 それが、原初の魔物の誕生と、それらがもたらした災厄だったのさ。

 突然の災厄に、人間と精霊は慌てて対応を始めた。
 異形の怪物。互いを食らいあって強くなる魔物との戦いは苦難の連続だった。それでも、人と精霊はやり遂げたのさ。

 魔物を倒し、数を減らし、食らいあって強くなる連鎖に歯止めをかけた。
 そうして人と精霊は、魔物の発生源である土地に乗り込んだのさ。

 黒精霊は、苛烈に反応したという。何しろ、自分の友達を殺してやってきた人間と精霊が、自分の命を狙っているのだからね。
 術の行使の果てに気づけば己も異形の魔物となり果てていた黒精霊は、三日三晩、世界樹の守護者と呼ばれる精霊と、その精霊に愛された人間と戦って、その果てに封印されたのさ。
 世界術の守護者がその身を転じて作った神聖なる樹木に封じることでね。

 けれど、封印は永遠に続くものではない。封印の中では精霊たちへの仕打ちに憤る黒精霊だった存在が暴れていて、いつかはそれが再び地上に解き放たれ、世界を混沌に陥れることは明らかだろう――
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