眠らない世界で彼女は眠る

楠木 楓

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眠る少女も恋をする

4.お誘い

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 エミリオと付き合い始めて以降、ホーリーは彼と共に登校している。
 朝、少々ホーリーの自宅寄りにある公園で待ち合わせをし、並んで道を行く。たったそれだけのことではあるが、一人で歩くのとでは風景が違って見えるものだ。

「おはよう」
「おう。おはようさん」

 月に一、二回は遅刻をしていたエミリオも、ホーリーと登校するようになって以来、無遅刻を記録し続けている。共通の友人達などはこの件をネタにしてエミリオをからかうことが間々あった。

 いつも通りの挨拶を交わし、二人は同じ歩幅で歩き始める。
 成長期に入り、身長が伸び始めたエミリオであるが、ホーリーは校内でも長身に入るほどの背丈だ。いつかは追いつくかもしれないけれど、道のりは長い。

「あのね、今度の日曜日なんだけど」

 ホーリーはいそいそと端末を取り出し、昨日、シオンから教えてもらったページを開く。

「ここ、どうかな?
 エサやりとか、ショーとかもあって、きっと楽しめると思うんだけど」
「んー?」

 端末を覗きこみ、書かれている内容を読む。
 いっそ近づく互いの距離にホーリーの心臓は音をたてるのだが、エミリオの方は照れる様子もなく文章を目で追っていく。

「面白そうじゃん!」
「でしょ?」

 パァ、と輝くエミリオの笑顔にホーリーは喜びと安心を得る。何度もデートに誘い、誘われているが、喜んでもらえるまでの瞬間はいつでも緊張してしまう。

「ぜってぇ行こうな!」
「うん!」

 エミリオの反応も上々。こうなれば、日曜日への期待は高まるばかりだ。
 学校までダンスを踊りながら向かいかねない彼女の姿をエミリオは優しげな眼差しで見つめる。皆を率先できる素質のある彼女だが、こうしていると普通の女の子にしか見えない。

「お弁当とかいるかな?」
「向こうで食べる場所くらいあるだろ」
「じゃあ帰りに食べれるお菓子作っていくね!」
「お、楽しみだな」

 わくわくとした気持ちをそのままに、話は少しずつデートからそれていく。
 料理を母から教えてもらうついでに、お菓子の作り方も教えてもらっているようだ。最近では美味しく焼けたクッキーを家族で食べ、次はケーキに挑戦するらしい。

「しっかし、お前って努力家だよなぁ」
「え~? そうかなぁ」

 ふわりとした髪を揺らすホーリーへエミリオは頷きを返す。
 定期テスト後に発表される順位はいつも上位十名に入り、体育の時間でも恵まれた体格に胡坐をかくことなく真剣に取り組む。行事ごとにも熱心で、任された仕事は誠心誠意こなしていく。
 普通の学生ではなかなかできないことだ。

「誇っていいと思うぜ。
 お前ってオレ達よりも色々できる時間が短いのに、オレよりもめちゃくちゃ勉強してさ。
 偉いと思うし、尊敬もしてる」
「……そ、っかな」

 エミリオは心の底から、純粋な気持ちで褒めてくれている。
 諸手を挙げて喜ぶことができないのはホーリー側の事情だ。

「威張り散らせとは言わねぇけどさ、もっと胸張っていいんだぞ」
「ありがとう」

 ホーリーは小さく笑む。

 活動時間が何だというのだ。
 眠らない人間に生まれていたとして、ホーリーは今の自分と違った人生を歩んでいるとは思わない。環境による変化が全くないとは言えないのだから、多少の違いはあるだろう。

 だが、自由に使える二十四時間のうち、今と同じだけの時間を勉強に当てる。体育や美術の授業も真剣に取り組み、行事ごとや委員の仕事とは誠心誠意向き合っていく。
 誰かに認められたいから、眠りがハンデにならぬことを知らしめたいから、努力してきたのではない。これはただの性分だ。

 遊びを優先したい気持ちがないわけではないけれど、やらなければいけないことを横に置いておくのはどうにも気持ちが悪い。
 睡眠時間を遊びの時間に変換できるのであれば、それは歓迎するところであるが、なくとも彼女の生き方が変わることはないだろう。

「じゃあ、今日は一緒に帰れると思うから、待っててくれよな」
「うん」

 学校についた二人は、それぞれの教室へと向かって行く。
 ホーリーの胸にあるもやもやとした気持ちが晴れることはなかったが、こればかりは他人に相談してどうにかなる問題ではない。この世界に生きる者が眠らない以上、真の共感を得ることはできないのだ。
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