眠らない世界で彼女は眠る

楠木 楓

文字の大きさ
31 / 56
眠る少女も恋をする

4.お誘い

しおりを挟む

 エミリオと付き合い始めて以降、ホーリーは彼と共に登校している。
 朝、少々ホーリーの自宅寄りにある公園で待ち合わせをし、並んで道を行く。たったそれだけのことではあるが、一人で歩くのとでは風景が違って見えるものだ。

「おはよう」
「おう。おはようさん」

 月に一、二回は遅刻をしていたエミリオも、ホーリーと登校するようになって以来、無遅刻を記録し続けている。共通の友人達などはこの件をネタにしてエミリオをからかうことが間々あった。

 いつも通りの挨拶を交わし、二人は同じ歩幅で歩き始める。
 成長期に入り、身長が伸び始めたエミリオであるが、ホーリーは校内でも長身に入るほどの背丈だ。いつかは追いつくかもしれないけれど、道のりは長い。

「あのね、今度の日曜日なんだけど」

 ホーリーはいそいそと端末を取り出し、昨日、シオンから教えてもらったページを開く。

「ここ、どうかな?
 エサやりとか、ショーとかもあって、きっと楽しめると思うんだけど」
「んー?」

 端末を覗きこみ、書かれている内容を読む。
 いっそ近づく互いの距離にホーリーの心臓は音をたてるのだが、エミリオの方は照れる様子もなく文章を目で追っていく。

「面白そうじゃん!」
「でしょ?」

 パァ、と輝くエミリオの笑顔にホーリーは喜びと安心を得る。何度もデートに誘い、誘われているが、喜んでもらえるまでの瞬間はいつでも緊張してしまう。

「ぜってぇ行こうな!」
「うん!」

 エミリオの反応も上々。こうなれば、日曜日への期待は高まるばかりだ。
 学校までダンスを踊りながら向かいかねない彼女の姿をエミリオは優しげな眼差しで見つめる。皆を率先できる素質のある彼女だが、こうしていると普通の女の子にしか見えない。

「お弁当とかいるかな?」
「向こうで食べる場所くらいあるだろ」
「じゃあ帰りに食べれるお菓子作っていくね!」
「お、楽しみだな」

 わくわくとした気持ちをそのままに、話は少しずつデートからそれていく。
 料理を母から教えてもらうついでに、お菓子の作り方も教えてもらっているようだ。最近では美味しく焼けたクッキーを家族で食べ、次はケーキに挑戦するらしい。

「しっかし、お前って努力家だよなぁ」
「え~? そうかなぁ」

 ふわりとした髪を揺らすホーリーへエミリオは頷きを返す。
 定期テスト後に発表される順位はいつも上位十名に入り、体育の時間でも恵まれた体格に胡坐をかくことなく真剣に取り組む。行事ごとにも熱心で、任された仕事は誠心誠意こなしていく。
 普通の学生ではなかなかできないことだ。

「誇っていいと思うぜ。
 お前ってオレ達よりも色々できる時間が短いのに、オレよりもめちゃくちゃ勉強してさ。
 偉いと思うし、尊敬もしてる」
「……そ、っかな」

 エミリオは心の底から、純粋な気持ちで褒めてくれている。
 諸手を挙げて喜ぶことができないのはホーリー側の事情だ。

「威張り散らせとは言わねぇけどさ、もっと胸張っていいんだぞ」
「ありがとう」

 ホーリーは小さく笑む。

 活動時間が何だというのだ。
 眠らない人間に生まれていたとして、ホーリーは今の自分と違った人生を歩んでいるとは思わない。環境による変化が全くないとは言えないのだから、多少の違いはあるだろう。

 だが、自由に使える二十四時間のうち、今と同じだけの時間を勉強に当てる。体育や美術の授業も真剣に取り組み、行事ごとや委員の仕事とは誠心誠意向き合っていく。
 誰かに認められたいから、眠りがハンデにならぬことを知らしめたいから、努力してきたのではない。これはただの性分だ。

 遊びを優先したい気持ちがないわけではないけれど、やらなければいけないことを横に置いておくのはどうにも気持ちが悪い。
 睡眠時間を遊びの時間に変換できるのであれば、それは歓迎するところであるが、なくとも彼女の生き方が変わることはないだろう。

「じゃあ、今日は一緒に帰れると思うから、待っててくれよな」
「うん」

 学校についた二人は、それぞれの教室へと向かって行く。
 ホーリーの胸にあるもやもやとした気持ちが晴れることはなかったが、こればかりは他人に相談してどうにかなる問題ではない。この世界に生きる者が眠らない以上、真の共感を得ることはできないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...