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第39話 限界突破!スローライフ崩壊宣言
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スローライフはどこだぁぁぁぁぁぁ!!
発酵食品倉庫の奥深く。その広間の中心で、原稿紙を握りつぶさんばかりに筆を振り回し、叫びをあげる男がひとりいた。
……そう、俺だ。茶川龍介、通称リュウ。
この異世界に転移して以来、“書いたことが現実になる”というチート能力だけを頼りに、静かで穏やかなスローライフを夢見ていたはずだった。
なのに今、俺は汗だくで、果てしなく執筆地獄に追い込まれている。
その原因は一つ、いや一皿、あの「味噌玉」だ。
筆の家ブランドの看板商品、三度の飯より売れ行き絶好調。
雑貨屋での対面販売、厨房亭での調理提供、さらに王宮と軍への大量納品。
このすべての味噌と醤油を、俺が“ノートに書いて”生み出しているという現実。
「これ、無理なやつ! 挫折確定! 執筆ブラック! むしろ“ブラック味噌”だこれぇぇぇ!」
床一面に散らばる未完の原稿用紙。乾ききらぬ木樽が並ぶ棚。
そして、魂の抜けたような俺の顔面。
そんな阿鼻叫喚を尻目に、トコトコと足音が近づいてくる。
「なに騒ぎよると? 味噌樽の山に埋もれて喜んどる変な趣味かと思ったばい」
ルナ・フェンリル・ガルドリオン、我が家の猫耳姫にして、冷静かつ鋭いツッコミ担当だ。
「違う! 喜んでねぇ! もう……限界なんだよ!!」
俺は壁に背を預け、膝を抱え込んだ。
ルナは片手を腰に当て、眉間にしわを寄せる。
「じゃあどげんすっと?」
その問いに、俺はしばらく虚空を見つめたあと、ゆっくりと顔を上げた。
「決まってるだろ……執筆じゃなくて、本当に“作る”んだよ、味噌を! 人手を雇って、本気で量産するんだ!」
というわけで、リュウの“スローライフ完全崩壊計画”が、今まさに始動したのだった。
まずは大豆畑。畑さえできれば、味噌の素材は自給自足。
もちろん、執筆で一気にやってしまう。
「《畑一面に大豆が豊作で実っている。半分はまだ緑色の枝豆、残りは茶色く熟した大豆として、見事に揺れている》……よし、できた!」
筆を置いた瞬間、目の前に広がったのは、緑と茶色が織りなす大地のシンフォニー。
ぷっくりとした枝豆が枝に張り付き、隣では風にそよぐ茶色の大豆が音もなく実を揺らしている。
「うわ……つい枝豆も育てちまったぞ……いや、これは事故だ、不可抗力だ!
どうしても、つまみ食いしたくなるんだよね、枝豆って……」
言い訳を呟きながら、俺はその畑を背にハンモックに倒れ込んだ。全身に鉛が詰まっているかのような倦怠感が押し寄せてくる。
「ちょっとだけ……寝る……」
そのまま風に揺られる心地よさに抗えるわけもなく、俺はハンモックの上でうつらうつらと眠りに落ちていった。
数時間後。
「……リュウ、あんたまた外で倒れて寝とったばい……」
「……ここは……ハンモック……じゃない……地面……?」
目の前には心配そうにのぞき込むルナの顔。そして背後から再び賑やかな声が聞こえてきた。
「リュウ、木の伐採もはよ頼むよー。私、丸太削るの得意なんだからね!」
のこぎりを手に笑いかけるのは、ミランダさん。
一番頼れる=一番働かされる料理長だ。
「……は、はい……」
とりあえず、ログハウス裏の森林を伐採し、味噌製造工場候補地を確保することにした。
《ログハウス裏の森林を、サッカーグラウンド5面分伐採し、きれいな丸太に整えて一ヶ所に積み上げる
ボシュン!
ドゴォォォン!
目の前から森が忽然と消え去り、その跡地にそびえ立つのは丸太の山。
まさに一瞬のうちに、地球規模で働いた。
「うわっ!? ……ま、またやっちまった……」
丸太の山を前に、俺は達成感と、それ以上の脱力感に包まれた。全身から力が抜け、視界がグルグルと回る。
「こりゃあ、働いたぁぁ……おら、働いたよぉ……」
そのまま、リュウはハンモックに吸い込まれるように再び気絶した。
翌朝。
淡い夜明けの光が、ログハウス裏の丸太の塔を黄金色に染めていた。リュウは眠気まなこで起き上がり、目の前にそびえる丸太の山を見上げる。
「伐採するだけして、その後どうするか、何も考えてなかったぁ……」
地に積まれた切り株と丸太の無造作さに、思わず大きくため息をつく。そんな彼を見つめる、静かで澄んだ気配。
「リュウさん。もし木桶に加工するつもりなら、乾燥と加工に熟練の技術が必要ですよ?」
振り返るとそこにいたのは、白銀の髪を夜露のように束ねたエルフ、ティア・リュミエール。実年齢200歳を超えるが、見た目は幼い少女そのもの。だがその眼差しには、森の奥深くを見通す賢者の風格が宿っている。
「おお、ティア! まさに今そのことで詰まってたんだ。すまん、任せてもいいか?」
「はい。森の南端に、とびきり腕のいい木工職人がおります。丸太を運ぶついでに、“木樽加工”を依頼しておきますね」
「天使かな?」
「私はエルフです。天使じゃありません。それと、あとで枝豆はよこしなさい」
「了解っ!」
ティアの魔法で丸太はそっと宙に浮かび、運搬用ゴーレムの背に積み込まれる。数ヶ月後には、味噌製造に最適な木樽として、見事に仕上がって戻ってくるはずだ。ティアの頼れる手腕に、リュウは心の底から安堵した。
「さて……次は味噌製造工場本体かぁ……」
リュウは、倉庫で埃を落とした原稿帳を再び開いた。墨の香りがほのかに鼻をかすめる。
《ログハウス裏手、伐採済みの平地に、発酵室・洗浄区・熟成室・管理棟のすべてを備えた“味噌製造工場”が完成する》
ぴたりと筆を置くと、ズドォンッと大地を揺るがすような重低音。次の瞬間には、目の前に威風堂々とそびえる工場が出現した。石造りの基礎に木造の上屋、煙突からは淡い蒸気が立ち上る。
「うおお……す、すごい……こんな大がかりな施設、まるで王都の公社みたいだ……」
「これくらいは必要たい。今後“味噌だけ”じゃ収まらんばい。次は“発酵調味料シリーズ”が控えとるっちゃろ?」
ルナが胸を張り、頼もしげに言う。その言葉に、リュウは思わず目を逸らした。
「げっ、バレてる……」
「最初から見え見えやった!」
午後。リュウは新たな構想に取りかかる。工場ができたのだから、次に来るのは当然「人」だ。
「……工場ができたなら、次は“人”だな。雇うにも住まい必要だし……」
ノートを開き、呼吸を整える。
《味噌工場に隣接する土地に、住み込み可能な従業員寮を建設。30人が快適に暮らせる居住区、浴場、食堂、共有スペース完備》
バフッと軽やかな爆発音とともに、三階建ての寮がポンと建ち上がる。白い壁に赤い屋根、花壇には早速野菜の苗が並ぶ。廊下には柔らかなランプが灯り、窓からは心地よい風が通り抜ける。
「……なんだこれ。俺、なんか王様みたいになってない?」
「リュウ、次は“求人張り出し”ね~」
フィナとモモが、手慣れた様子で雑貨屋の掲示板にチラシをペタリと貼り付けた。
「“味噌工場で一緒に発酵しませんか?”ってキャッチコピーどう?」
「いや、発酵は人間のカラダで起こったら絶対ヤバいから!」
夜。ログハウスに戻ったリュウは、ぐったりしながらハンモックに沈み込む。全身の倦怠感が最高潮に達しているが、それでも達成感はあった。
「働いたぁぁ……でも、これで味噌は安定の量産体制……!」
胸に抱えたのは、微かな充実感と、次の野望への小さな火種。
「これで少しは……俺のスローライフが戻ってくる……はず……」
そのとき、風に乗って開いた扉の向こうから、いつもの声が響く。
「リュウくーん、味噌工場に女の子の応募者来てない~? 工場見学って言って“一緒に発酵のロマン”を語り合いたいんだけど~」
「今すぐ戻って寝てろ、発酵変態めぇぇ!!」
今日も、筆の家は元気に発酵していた。そして、リュウのスローライフは、またもや新たなステージへと突入していくのだった。
発酵食品倉庫の奥深く。その広間の中心で、原稿紙を握りつぶさんばかりに筆を振り回し、叫びをあげる男がひとりいた。
……そう、俺だ。茶川龍介、通称リュウ。
この異世界に転移して以来、“書いたことが現実になる”というチート能力だけを頼りに、静かで穏やかなスローライフを夢見ていたはずだった。
なのに今、俺は汗だくで、果てしなく執筆地獄に追い込まれている。
その原因は一つ、いや一皿、あの「味噌玉」だ。
筆の家ブランドの看板商品、三度の飯より売れ行き絶好調。
雑貨屋での対面販売、厨房亭での調理提供、さらに王宮と軍への大量納品。
このすべての味噌と醤油を、俺が“ノートに書いて”生み出しているという現実。
「これ、無理なやつ! 挫折確定! 執筆ブラック! むしろ“ブラック味噌”だこれぇぇぇ!」
床一面に散らばる未完の原稿用紙。乾ききらぬ木樽が並ぶ棚。
そして、魂の抜けたような俺の顔面。
そんな阿鼻叫喚を尻目に、トコトコと足音が近づいてくる。
「なに騒ぎよると? 味噌樽の山に埋もれて喜んどる変な趣味かと思ったばい」
ルナ・フェンリル・ガルドリオン、我が家の猫耳姫にして、冷静かつ鋭いツッコミ担当だ。
「違う! 喜んでねぇ! もう……限界なんだよ!!」
俺は壁に背を預け、膝を抱え込んだ。
ルナは片手を腰に当て、眉間にしわを寄せる。
「じゃあどげんすっと?」
その問いに、俺はしばらく虚空を見つめたあと、ゆっくりと顔を上げた。
「決まってるだろ……執筆じゃなくて、本当に“作る”んだよ、味噌を! 人手を雇って、本気で量産するんだ!」
というわけで、リュウの“スローライフ完全崩壊計画”が、今まさに始動したのだった。
まずは大豆畑。畑さえできれば、味噌の素材は自給自足。
もちろん、執筆で一気にやってしまう。
「《畑一面に大豆が豊作で実っている。半分はまだ緑色の枝豆、残りは茶色く熟した大豆として、見事に揺れている》……よし、できた!」
筆を置いた瞬間、目の前に広がったのは、緑と茶色が織りなす大地のシンフォニー。
ぷっくりとした枝豆が枝に張り付き、隣では風にそよぐ茶色の大豆が音もなく実を揺らしている。
「うわ……つい枝豆も育てちまったぞ……いや、これは事故だ、不可抗力だ!
どうしても、つまみ食いしたくなるんだよね、枝豆って……」
言い訳を呟きながら、俺はその畑を背にハンモックに倒れ込んだ。全身に鉛が詰まっているかのような倦怠感が押し寄せてくる。
「ちょっとだけ……寝る……」
そのまま風に揺られる心地よさに抗えるわけもなく、俺はハンモックの上でうつらうつらと眠りに落ちていった。
数時間後。
「……リュウ、あんたまた外で倒れて寝とったばい……」
「……ここは……ハンモック……じゃない……地面……?」
目の前には心配そうにのぞき込むルナの顔。そして背後から再び賑やかな声が聞こえてきた。
「リュウ、木の伐採もはよ頼むよー。私、丸太削るの得意なんだからね!」
のこぎりを手に笑いかけるのは、ミランダさん。
一番頼れる=一番働かされる料理長だ。
「……は、はい……」
とりあえず、ログハウス裏の森林を伐採し、味噌製造工場候補地を確保することにした。
《ログハウス裏の森林を、サッカーグラウンド5面分伐採し、きれいな丸太に整えて一ヶ所に積み上げる
ボシュン!
ドゴォォォン!
目の前から森が忽然と消え去り、その跡地にそびえ立つのは丸太の山。
まさに一瞬のうちに、地球規模で働いた。
「うわっ!? ……ま、またやっちまった……」
丸太の山を前に、俺は達成感と、それ以上の脱力感に包まれた。全身から力が抜け、視界がグルグルと回る。
「こりゃあ、働いたぁぁ……おら、働いたよぉ……」
そのまま、リュウはハンモックに吸い込まれるように再び気絶した。
翌朝。
淡い夜明けの光が、ログハウス裏の丸太の塔を黄金色に染めていた。リュウは眠気まなこで起き上がり、目の前にそびえる丸太の山を見上げる。
「伐採するだけして、その後どうするか、何も考えてなかったぁ……」
地に積まれた切り株と丸太の無造作さに、思わず大きくため息をつく。そんな彼を見つめる、静かで澄んだ気配。
「リュウさん。もし木桶に加工するつもりなら、乾燥と加工に熟練の技術が必要ですよ?」
振り返るとそこにいたのは、白銀の髪を夜露のように束ねたエルフ、ティア・リュミエール。実年齢200歳を超えるが、見た目は幼い少女そのもの。だがその眼差しには、森の奥深くを見通す賢者の風格が宿っている。
「おお、ティア! まさに今そのことで詰まってたんだ。すまん、任せてもいいか?」
「はい。森の南端に、とびきり腕のいい木工職人がおります。丸太を運ぶついでに、“木樽加工”を依頼しておきますね」
「天使かな?」
「私はエルフです。天使じゃありません。それと、あとで枝豆はよこしなさい」
「了解っ!」
ティアの魔法で丸太はそっと宙に浮かび、運搬用ゴーレムの背に積み込まれる。数ヶ月後には、味噌製造に最適な木樽として、見事に仕上がって戻ってくるはずだ。ティアの頼れる手腕に、リュウは心の底から安堵した。
「さて……次は味噌製造工場本体かぁ……」
リュウは、倉庫で埃を落とした原稿帳を再び開いた。墨の香りがほのかに鼻をかすめる。
《ログハウス裏手、伐採済みの平地に、発酵室・洗浄区・熟成室・管理棟のすべてを備えた“味噌製造工場”が完成する》
ぴたりと筆を置くと、ズドォンッと大地を揺るがすような重低音。次の瞬間には、目の前に威風堂々とそびえる工場が出現した。石造りの基礎に木造の上屋、煙突からは淡い蒸気が立ち上る。
「うおお……す、すごい……こんな大がかりな施設、まるで王都の公社みたいだ……」
「これくらいは必要たい。今後“味噌だけ”じゃ収まらんばい。次は“発酵調味料シリーズ”が控えとるっちゃろ?」
ルナが胸を張り、頼もしげに言う。その言葉に、リュウは思わず目を逸らした。
「げっ、バレてる……」
「最初から見え見えやった!」
午後。リュウは新たな構想に取りかかる。工場ができたのだから、次に来るのは当然「人」だ。
「……工場ができたなら、次は“人”だな。雇うにも住まい必要だし……」
ノートを開き、呼吸を整える。
《味噌工場に隣接する土地に、住み込み可能な従業員寮を建設。30人が快適に暮らせる居住区、浴場、食堂、共有スペース完備》
バフッと軽やかな爆発音とともに、三階建ての寮がポンと建ち上がる。白い壁に赤い屋根、花壇には早速野菜の苗が並ぶ。廊下には柔らかなランプが灯り、窓からは心地よい風が通り抜ける。
「……なんだこれ。俺、なんか王様みたいになってない?」
「リュウ、次は“求人張り出し”ね~」
フィナとモモが、手慣れた様子で雑貨屋の掲示板にチラシをペタリと貼り付けた。
「“味噌工場で一緒に発酵しませんか?”ってキャッチコピーどう?」
「いや、発酵は人間のカラダで起こったら絶対ヤバいから!」
夜。ログハウスに戻ったリュウは、ぐったりしながらハンモックに沈み込む。全身の倦怠感が最高潮に達しているが、それでも達成感はあった。
「働いたぁぁ……でも、これで味噌は安定の量産体制……!」
胸に抱えたのは、微かな充実感と、次の野望への小さな火種。
「これで少しは……俺のスローライフが戻ってくる……はず……」
そのとき、風に乗って開いた扉の向こうから、いつもの声が響く。
「リュウくーん、味噌工場に女の子の応募者来てない~? 工場見学って言って“一緒に発酵のロマン”を語り合いたいんだけど~」
「今すぐ戻って寝てろ、発酵変態めぇぇ!!」
今日も、筆の家は元気に発酵していた。そして、リュウのスローライフは、またもや新たなステージへと突入していくのだった。
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