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1. 日常
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スマホの目覚ましが聞こえてきて、僕は目を覚ました。
寝る前にカーテンを開けておいたから、毛布に日差しが届いている。
ぼんやりとした意識の中で、僕はあくびをしながら身体を起こした。
両手を組み、ぐっと身体を伸ばす。
その痛みで少しだけ目が覚めたような気がする。
窓を開けると、秋めいた風が吹き込んできた。
「うわ、寒……」
身震いをひとつすると、僕は寝室を出る。
キッチンに向かうが、まだ人の気配はない。
朝が弱いロイは、まだ寝ているみたいだ。
僕は自分用の朝食を用意して、ひとりで食べ進める。
ふとスマホを取り、日付けを確認する。
今日は、日曜日。
ロイの朝食がコーヒーではない日だ。
朝食を食べ終えると、風呂場に向かう。
昨日の夜、ちゃんとお風呂に入ったけど、軽くシャワーを浴びておきたい。
といっても、それは僕が勝手に気にしていることで、ロイは僕の清潔感とか興味ないだろうけど。
勝手に不機嫌になりつつ、風呂を出た。
ロイの部屋の前に立つと、ゆっくり息を吸って、吐き出した。
「……ロイ、入るよ?」
一応声を掛けながらドアを開けるけど、当然のごとく、返事はない。
勝手に部屋に入っていいと許可を得ているから、僕はドアノブを回した。
日当たりのいい僕の部屋と違って、ここは薄暗い。
本当は思いっきりカーテンを開けて換気もしたいところだけど、そんなことをするとロイに追い出されてしまうだろう。
またロイがいないときに、窓を開けておこう。
そんなことを思いながら、僕はベッドのそばに寄る。
肌が恐ろしく白く、生きているのか不安になるような寝顔。
だけど、しっかりと耳を澄ませばロイの小さな寝息が聞こえてきた。
十年前、初めて見た銀髪は変わらず美しいけれど、冷たいと感じた表情は穏やかに見える。
それはきっと、僕がロイの不器用な優しさを知ったからだろう。
「ロイ、朝だよ」
何度か身体を揺すると、ロイはゆっくりと目を開けた。
いつも通りの時間ではあるけど、今日はまだ眠たいのか、ロイは一瞬不快そうな表情を見せる。
だけど、僕と目が合うと、柔らかそうに微笑んだ。
「おはよう、七央」
「お、おはよう」
いくら十年近く一緒にいても、美形の微笑みには慣れない。
でも、こうして戸惑っていることを勘づかれたくなくて、僕は咳払いをして誤魔化す。
「今日は随分と早いね」
ロイは身体を起こし、小さくあくびをした。
まるでさっきの僕みたいだ。
長い時間を共有したことで似てきているのだとしたら、こんなにも嬉しいことはない。
「いや、いつも通りだよ……というか、今日は飲む日だし」
ロイは小さく首を傾げたけど、すぐに思い出した顔を浮かべた。
僕よりもうんと長い時間を生きてきたロイは、ときどき時間感覚がなくなるらしい。
「七央」
ロイは、それはもう甘い声で僕の名前を呼び、ベッドを何度か叩いた。
座れ、という合図。
その瞬間、僕の身体に緊張が走る。
これは、ロイの食事。
頭では理解しているのに。
いつからこんなに意識するようになったんだろう。
僕はロイに背を向けて、ベッドに座る。
これではいつロイに触れられるのかわからなくて余計身体が強張るってわかっている。
だけど、対面のほうが耐えられない。
布が擦れる音で、ロイが近付いてくることがわかる。
ロイの銀髪が、肩に触れたその瞬間。
「んぅ……」
ロイが僕の左肩に歯を突き立て、まるで電流が流れたかのように、一気に全身に痛みが走る。
しかしその痛みは一瞬で、あとはロイとの距離の近さに緊張するばかり。
心臓がおかしくなるから離れてほしいと思うのに、この距離が許される時間がもっと続けばいいのに、なんて思うから難しい。
「……ありがとう、七央」
「あれ……もういいの?」
ロイは小さく「ああ」と声をこぼすと、ベッドを降りて部屋を出ていってしまった。
「まだいいのに……」
僕は未練がましく、ロイが付けた傷跡に触れる。
痛みがないことを寂しく思う日が来るなんて、思ってもいなかった。
もともと、ロイの食事は週に三回程度だった。
僕の身体の負担になるからと、気を使ってくれた結果の回数。
そのはずだったのに、ここ最近はさらに回数が減っている。
……まさか、僕の血の味に飽きたとか。
ああ、それはありえる。
だって、十年だ。
十年も同じ味なんて、好きでもなければ耐えられない。
……いや、それだとロイは嫌々僕の血を飲んでいることに……
「いやいや、考えすぎだって……」
この部屋が薄暗いから、僕の思考も引っ張られてしまうんだ。
そうに違いない。
僕は僕の部屋と同じようにカーテン、そして窓を開けた。
今日は休日。
こんなネガティブな思考回路は忘れてしまうが吉だ。
それから家事を始めようとしたとき、電話が鳴った。
電話の相手の名前を見て、背筋が伸びる。
「はい、赤江です」
「事件だ、すぐにロイを連れて来てくれ」
予想通りというか、いつも通りのセリフ。
僕は事件現場を聞いて電話を切る。
ロイの部屋を出ようとすると、顔を洗ってきたであろうロイがちょうど戻ってきた。
「あ、ロイ! 今、石井さんから電話があって、事件だって」
すると、ロイはわずかに眉をひそめた。
寝る前にカーテンを開けておいたから、毛布に日差しが届いている。
ぼんやりとした意識の中で、僕はあくびをしながら身体を起こした。
両手を組み、ぐっと身体を伸ばす。
その痛みで少しだけ目が覚めたような気がする。
窓を開けると、秋めいた風が吹き込んできた。
「うわ、寒……」
身震いをひとつすると、僕は寝室を出る。
キッチンに向かうが、まだ人の気配はない。
朝が弱いロイは、まだ寝ているみたいだ。
僕は自分用の朝食を用意して、ひとりで食べ進める。
ふとスマホを取り、日付けを確認する。
今日は、日曜日。
ロイの朝食がコーヒーではない日だ。
朝食を食べ終えると、風呂場に向かう。
昨日の夜、ちゃんとお風呂に入ったけど、軽くシャワーを浴びておきたい。
といっても、それは僕が勝手に気にしていることで、ロイは僕の清潔感とか興味ないだろうけど。
勝手に不機嫌になりつつ、風呂を出た。
ロイの部屋の前に立つと、ゆっくり息を吸って、吐き出した。
「……ロイ、入るよ?」
一応声を掛けながらドアを開けるけど、当然のごとく、返事はない。
勝手に部屋に入っていいと許可を得ているから、僕はドアノブを回した。
日当たりのいい僕の部屋と違って、ここは薄暗い。
本当は思いっきりカーテンを開けて換気もしたいところだけど、そんなことをするとロイに追い出されてしまうだろう。
またロイがいないときに、窓を開けておこう。
そんなことを思いながら、僕はベッドのそばに寄る。
肌が恐ろしく白く、生きているのか不安になるような寝顔。
だけど、しっかりと耳を澄ませばロイの小さな寝息が聞こえてきた。
十年前、初めて見た銀髪は変わらず美しいけれど、冷たいと感じた表情は穏やかに見える。
それはきっと、僕がロイの不器用な優しさを知ったからだろう。
「ロイ、朝だよ」
何度か身体を揺すると、ロイはゆっくりと目を開けた。
いつも通りの時間ではあるけど、今日はまだ眠たいのか、ロイは一瞬不快そうな表情を見せる。
だけど、僕と目が合うと、柔らかそうに微笑んだ。
「おはよう、七央」
「お、おはよう」
いくら十年近く一緒にいても、美形の微笑みには慣れない。
でも、こうして戸惑っていることを勘づかれたくなくて、僕は咳払いをして誤魔化す。
「今日は随分と早いね」
ロイは身体を起こし、小さくあくびをした。
まるでさっきの僕みたいだ。
長い時間を共有したことで似てきているのだとしたら、こんなにも嬉しいことはない。
「いや、いつも通りだよ……というか、今日は飲む日だし」
ロイは小さく首を傾げたけど、すぐに思い出した顔を浮かべた。
僕よりもうんと長い時間を生きてきたロイは、ときどき時間感覚がなくなるらしい。
「七央」
ロイは、それはもう甘い声で僕の名前を呼び、ベッドを何度か叩いた。
座れ、という合図。
その瞬間、僕の身体に緊張が走る。
これは、ロイの食事。
頭では理解しているのに。
いつからこんなに意識するようになったんだろう。
僕はロイに背を向けて、ベッドに座る。
これではいつロイに触れられるのかわからなくて余計身体が強張るってわかっている。
だけど、対面のほうが耐えられない。
布が擦れる音で、ロイが近付いてくることがわかる。
ロイの銀髪が、肩に触れたその瞬間。
「んぅ……」
ロイが僕の左肩に歯を突き立て、まるで電流が流れたかのように、一気に全身に痛みが走る。
しかしその痛みは一瞬で、あとはロイとの距離の近さに緊張するばかり。
心臓がおかしくなるから離れてほしいと思うのに、この距離が許される時間がもっと続けばいいのに、なんて思うから難しい。
「……ありがとう、七央」
「あれ……もういいの?」
ロイは小さく「ああ」と声をこぼすと、ベッドを降りて部屋を出ていってしまった。
「まだいいのに……」
僕は未練がましく、ロイが付けた傷跡に触れる。
痛みがないことを寂しく思う日が来るなんて、思ってもいなかった。
もともと、ロイの食事は週に三回程度だった。
僕の身体の負担になるからと、気を使ってくれた結果の回数。
そのはずだったのに、ここ最近はさらに回数が減っている。
……まさか、僕の血の味に飽きたとか。
ああ、それはありえる。
だって、十年だ。
十年も同じ味なんて、好きでもなければ耐えられない。
……いや、それだとロイは嫌々僕の血を飲んでいることに……
「いやいや、考えすぎだって……」
この部屋が薄暗いから、僕の思考も引っ張られてしまうんだ。
そうに違いない。
僕は僕の部屋と同じようにカーテン、そして窓を開けた。
今日は休日。
こんなネガティブな思考回路は忘れてしまうが吉だ。
それから家事を始めようとしたとき、電話が鳴った。
電話の相手の名前を見て、背筋が伸びる。
「はい、赤江です」
「事件だ、すぐにロイを連れて来てくれ」
予想通りというか、いつも通りのセリフ。
僕は事件現場を聞いて電話を切る。
ロイの部屋を出ようとすると、顔を洗ってきたであろうロイがちょうど戻ってきた。
「あ、ロイ! 今、石井さんから電話があって、事件だって」
すると、ロイはわずかに眉をひそめた。
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