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1章 20年目の憂い
回想:セシリア王女の婚約破棄1
しおりを挟む「私も結婚ですか。」
屋根裏部屋の丸窓を開けると夜空は霞んでいた。
椅子に腰掛けて父へ告げた政略結婚の了承をどこか他人のように振り返る。
「婚約者はいたのですけれど。」
貴方の存在を想い続けていた私に訪れた運命の時。
それはフィオネ王女と同い歳の時でしたね。
・・・・・
「私、ヴァルク侯爵家が嫡男ルイフェルと申します。この度セシリア王女殿下の婚約者を拝命いたしました。」
王城での両家顔合わせで挨拶し、深く垂れた頭を上げたヴァルク子息に抱いたのは底気味悪さ。
未だ経験したことのない何かに背筋は寒気を覚えた。
「セシリア様、お顔が見たくなりましてつい足を運んでしまいました。」
「ヴァルク子息。事前にお手紙をいただければお茶菓子をご用意いたしましたのに。」
「いえ、私はセシリア様のお顔を見られればそれだけで幸せなのです。」
いつの間にか許した覚えもないのに子息は親しみを込めた「セシリア様。」と呼んでいた。
呼び方を正すように何度注意しても「だって私の婚約者ですから。」と辞めることはしない。
私は頑なに子息の名を呼ばないようにしていた。
遠回しに事前に連絡してほしいと言っても似たような返事をしては約束もなく頻繁に訪れる。
騎士達は王女の婚約者かつ侯爵家の嫡男をないがしろに出来ず、顔をしかめつつも私の下へ案内していた。
そしていつも薄気味悪い笑みを浮かべて「セシリア様。」と話しかけてくると長く居座った。
特に何を話すでもなく、庭園を歩きましょうと言ったかと思えば必ず隣に密着し、お茶をしましょうと言ったかと思えばお茶には口をつけず正面にいる私の一挙一動を食い入るように見てきた。
全てが可笑しいと分かっていた。
私があの目を、その腕をかわす度に一層愛欲にまみれた表情で憎悪と恐怖を植え込んでくる。
14歳の私でも王女としての誇りや自覚を持っていた。
礼儀、作法、学問等に励み、いかなる状況においても王族らしい笑みを携えていた。
それを歪ませようとする子息に心は拒絶していても、王族たる自覚が婚約者としてあるようにと要求する。
そのため、3つ上の侯爵子息にもかかわらず繰り返される非常識さに陛下へ相談することを考えては、決定に背くことはできないと自分を奮い立たせていた。
最も彼を苦手としたのは頭の先からつま先まで、ましてや髪の毛一本でさえ逃さないようにとまとわりつくあの目。
舞踏会でのパートナーは当然婚約者のヴァルク子息になったが、腰に回された手はその細さを確かめるように動かし、けん制しても必要以上に引き寄せてはその腕を離さなかった。
ただでさえ気持ち悪さを覚えていたのに歳を重ねるにつれてそれもエスカレートしていった。
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