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第4章 ブレイクスルー
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何もなかったかのように家に帰ってきたテレサは、出迎えた執事に「帰りました」とだけ告げた。スーラが出てきて、一緒に部屋へ入ると室内着に着替えた後はもういいと部屋から出した。
一人になったテレサは、ハンス宛ての手紙を書き上げた。婚約記念に贈られた、エメラルドのネックレスの入ったビロードばりのケースを異国製の漆の箱に入れてリボンで縛り、手紙を挟んできれいなスカーフで包んだ。
扉がノックされて入るように声を掛けると、お茶の用意をしてきたスーラが「失礼いたします」と入ってきた。
「いかがされました、テレサ様」
そのスーラの温かい声を聞いて、テレサはもう限界だった。涙が溢れてきて、嗚咽が止まらなくなった。スーラはテーブルにお茶の用意をしたあと、テレサの手を両手で優しく包んだ。
「ひっく、あ、あのね。スーラ。テレサ、ハンス様とお別れしてきたの」
「……えっ。ハンス様とお別れですか」
最近は見せなくなっていたテレサの子供のような話しぶりにスーラは不安を持った。泣き止まないテレサを抱きしめた。
「テレサ様。お辛いときはお泣きください。スーラでよろしければこうしてご一緒いたします」
「う、ううん。うん」
なかなか涙が止まらないでいた。優しく髪の毛をスーラに撫でられて、ふっともう子どもじゃないのにと思った時、もう泣いてはいられないと頭の中で言葉が聞こえた。
「ありがとう、スーラ。やっと落ち着いてきたみたい」
淑女の微笑みでスーラに笑いかけてみると、不思議な反応が返ってきた。スーラは疑り深い表情で、テレサを観察すると「それでは、もう少しお一人でおくつろぎください。御主人様がお帰りになりましたらまた参ります」と言って出ていった。
一人になったテレサは、ハンスからプレゼントされたものを、手近にあった箱へ詰めて出窓のしたの物入れに押し込めた。
ただ1つエメラルドが1つ柄に埋め込まれた守り刀だけは引き出しにしまったままだった。これに皮の鞘とベルトを付けて、持ち運べるようにしておこうと思った。
そして傷心旅行を一人で行ってやるっと、心に決めた。父上には乗馬服と靴をおねだりして、自分の馬で旅をするのだ。
ミントとカモミールのブレンドのお茶を飲みながら、これからするべきことを書き出した。
旅に行く、勉強する特に世の中のこと、剣術を習う、馬術を習う。そこで婚約破棄のその後の噂を思い出した。そうだ一人で暮らせるようになろう。料理も学ぼう。もう恋なんてするもんか。これって、淑女の否定では。このめんどくさい髪の毛要らないかも。
立ち上がったテレサは髪の毛を解き、腰まである髪の毛を肩のあたりで左手に持った。右手に短刀を持ち髪に当てると、力任せに引き抜いた。何度か繰り返すと、左手が自由になったので、手を離すと髪の毛がすっと落ちて床に広がった。
ドアがノックされてスーラが戻ってきたと思ったテレサは、どうぞと声をかけた。入ってきたのはロビンだった。
「お嬢様、やらかしましたね」
にやっと笑ったロビンは、床に広がっている髪の毛を丁寧に集めて紐でくくった。
「スーラを呼んでまいります」と声をかけたところで、ちょうどスーラが入ってきた。テレサの髪の毛を見て、スーラは悲鳴を上げた。そんなスーラに集めた髪の毛を見せた。
「お嬢様の御髪です。これも必要でしょう。そして整えて差し上げなくてはいけないのは」
ロビンの声で我に返ったスーラは、テレサを座らせてハサミで髪の毛を整えて、リボンで飾り付けた。
「この御髪は付け毛にするように職人に預けますので」
「怒らないの」
テレサはロビンとスーラの二人を見ながら言った。
「申し上げても、戻ることはございません。でしたら、できることを致すのみでございます」
短くなりながらも整ったテレサを見て、ロビンは「旦那様がお待ちです」とだけだった。テレサは引き出しから自分で刺繍したポケットチーフを数枚とカタリーナから受け取った証言集やいくつかの資料を手に持って、父親の待つ執務室へ向かった。
ドアの前に立つとロビンが「お嬢様が入ります」と中に声をかけた。
執務室のソファに腰掛けて、テレサは資料を脇に置いた。父のヨハネスもその向かいに座ると、侍従がお茶を二人の前に置くと、下がっていった。ただ、ロビンはテレサの背後に立ったままで気配を消して見守っていた。
「それでテレサ、何があった」
「ハンス様との婚約を破棄することを、申し出てまいりました」
テレサがまっすぐにヨハネスを見つめて言ったことを、ヨハネスは父親として受け止めようとしていた。
「どうしてそうなったか、説明しなさい」
「ハンス様には私以外の大事な方がいらっしゃいます。お茶会の席でもかなり噂になっておりまして、カタリーナ嬢のお力をお借りして、真実であることを突き止めました。子どもである私にはできないことをお二人は……。なので、不貞を許すわけにいかないと。お別れを告げさせていただきました」
ヨハネスはテレサから一瞬目を離し、遠くを見ていた。もう少し穏やかにしたかったという考えは、もう捨てざるを得なかった。じっと自分を見つめる透明な緑の目が心に突き刺さり痛かった。
「婚約破棄については、私の方から話をつけておく。それでテレサはこの後どうしたいのか、考えはあるのか」
「はい。この後はもう、どなたかと婚約など考えたくもないです。幸いカタリーナ嬢から、一緒に学び補佐官となってほしいと申し出がありましたので、お受けすることにしました。つきましては……」
「まて、カタリーナ嬢の補佐官とは、王太子妃付きになるということか」
「そうです。私は、高等科の入学試験でなく、専門課程の編入を目指します。そして、飛び級をして、政務学院に進学することにいたしました。お父様にはその旨、ご了承ください」
「ちょっといいか。その予定は、カタリーナ嬢の輿入れに合わせて王宮の事務官として王太子妃付きなるということか」
「はい。実力で補佐官になるつもりです」
この一月ほとんど顔を合わせていないうちに、テレサが大人になってしまったようだった。無理に背伸びをして大人になることが、父親として良いことに思えなかった。
ヨハネスは侍従にカールとユリアを呼んでくるように申し付けた。ここから先は家族会議のほうがいいだろうと思った。夕食は楽しく食べるべきという考えでもあった。
「お母様とお兄様ともお話し合いにですか」
「そうだ。テレサの希望通りになるとカールのライバルになるからな」
「えっ。そうでしたか」
「政務学院の後輩になるのだろう。もっとも母がそんなテレサに賛成するかどうかも問題だ」
ドアが開いてまず母親のユリアが入ってくると、テレサの髪の毛に釘付けになっていた。
「テレサ、その髪の毛はいかがいたしました。短く切るとは何事です」
「ハンス様とお別れしました。もう、どなたかと婚約などどは嫌だからです」
「まぁ、なんていうこと」
ユリアはテレサの前に座ると、短くなった髪の毛を撫でて言葉をなくしていた。そこに兄のカールも入ってきた。カールは父の困った顔を見て、事が思う通りに運んでいないことに気づいた。
「テレサはお前の競争相手になるそうだ」
「えっ、競争相手とは?」
「飛び級をして、政務学院へ進むと言ってる」
「はぁ。それは」
カールはテレサの硬い表情を見つめていた。ついやってしまったことを後悔していないか確認できればと思った。
「父上。もうテレサの思うようにさせてみましょう。カタリーナ嬢もご一緒なのです。王太子殿下もと思うしかありません」
カールの言葉が決め手になった。父も母もこの状況を受け入れるしかなかった。
「テレサ、後のことはこの父に任せてくれ。シュルツ侯爵家へ婚約撤回を申し入れる。テレサの勉強に家庭教師が必要ならそれもいいだろう」
「ありがとうございます。必ずご期待にそうように頑張ります」
「テレサはもういい。部屋へ帰りなさい」
父親の言葉に従いテレサは立ち上がると、兄と父にポケットチーフを3枚ずつ渡した。そして軽くお辞儀をして部屋を出ていった。
テレサを見送った3人は、同時に大きくため息を付いた。特に兄のカールは「こんなはずじゃないのに」とポケットチーフを見ながらぼやき出していた。
「カタリーナ嬢にまんまとしてやられたようだ。我が家は王太子殿下と妃殿下をお支えする一番の家になったのだからな」
「そうですね。テレサが深窓の令嬢になるのを拒否するとは思わなかった」
「でも、わたくしはテレサを当代きっての淑女にするのは諦めませんから」
「ユリア、だからといって見合いをさせるのは止めてくれ」
「見合いなどいたしませんわ。ハンスが戻ってきた時にテレサを再認識させて見せます」
「母上には誰も叶いません。僕はハンスとの友情を強めますか」
「私もシュルツ侯爵とは連絡を取り合うよ」
なぜかテレサ以外のアインホルン家の面々は婚約破棄をするハンスに好意的なままだった。それでも父親同士の話し合いでテレサとハンスの婚約は白紙撤回された。
一人になったテレサは、ハンス宛ての手紙を書き上げた。婚約記念に贈られた、エメラルドのネックレスの入ったビロードばりのケースを異国製の漆の箱に入れてリボンで縛り、手紙を挟んできれいなスカーフで包んだ。
扉がノックされて入るように声を掛けると、お茶の用意をしてきたスーラが「失礼いたします」と入ってきた。
「いかがされました、テレサ様」
そのスーラの温かい声を聞いて、テレサはもう限界だった。涙が溢れてきて、嗚咽が止まらなくなった。スーラはテーブルにお茶の用意をしたあと、テレサの手を両手で優しく包んだ。
「ひっく、あ、あのね。スーラ。テレサ、ハンス様とお別れしてきたの」
「……えっ。ハンス様とお別れですか」
最近は見せなくなっていたテレサの子供のような話しぶりにスーラは不安を持った。泣き止まないテレサを抱きしめた。
「テレサ様。お辛いときはお泣きください。スーラでよろしければこうしてご一緒いたします」
「う、ううん。うん」
なかなか涙が止まらないでいた。優しく髪の毛をスーラに撫でられて、ふっともう子どもじゃないのにと思った時、もう泣いてはいられないと頭の中で言葉が聞こえた。
「ありがとう、スーラ。やっと落ち着いてきたみたい」
淑女の微笑みでスーラに笑いかけてみると、不思議な反応が返ってきた。スーラは疑り深い表情で、テレサを観察すると「それでは、もう少しお一人でおくつろぎください。御主人様がお帰りになりましたらまた参ります」と言って出ていった。
一人になったテレサは、ハンスからプレゼントされたものを、手近にあった箱へ詰めて出窓のしたの物入れに押し込めた。
ただ1つエメラルドが1つ柄に埋め込まれた守り刀だけは引き出しにしまったままだった。これに皮の鞘とベルトを付けて、持ち運べるようにしておこうと思った。
そして傷心旅行を一人で行ってやるっと、心に決めた。父上には乗馬服と靴をおねだりして、自分の馬で旅をするのだ。
ミントとカモミールのブレンドのお茶を飲みながら、これからするべきことを書き出した。
旅に行く、勉強する特に世の中のこと、剣術を習う、馬術を習う。そこで婚約破棄のその後の噂を思い出した。そうだ一人で暮らせるようになろう。料理も学ぼう。もう恋なんてするもんか。これって、淑女の否定では。このめんどくさい髪の毛要らないかも。
立ち上がったテレサは髪の毛を解き、腰まである髪の毛を肩のあたりで左手に持った。右手に短刀を持ち髪に当てると、力任せに引き抜いた。何度か繰り返すと、左手が自由になったので、手を離すと髪の毛がすっと落ちて床に広がった。
ドアがノックされてスーラが戻ってきたと思ったテレサは、どうぞと声をかけた。入ってきたのはロビンだった。
「お嬢様、やらかしましたね」
にやっと笑ったロビンは、床に広がっている髪の毛を丁寧に集めて紐でくくった。
「スーラを呼んでまいります」と声をかけたところで、ちょうどスーラが入ってきた。テレサの髪の毛を見て、スーラは悲鳴を上げた。そんなスーラに集めた髪の毛を見せた。
「お嬢様の御髪です。これも必要でしょう。そして整えて差し上げなくてはいけないのは」
ロビンの声で我に返ったスーラは、テレサを座らせてハサミで髪の毛を整えて、リボンで飾り付けた。
「この御髪は付け毛にするように職人に預けますので」
「怒らないの」
テレサはロビンとスーラの二人を見ながら言った。
「申し上げても、戻ることはございません。でしたら、できることを致すのみでございます」
短くなりながらも整ったテレサを見て、ロビンは「旦那様がお待ちです」とだけだった。テレサは引き出しから自分で刺繍したポケットチーフを数枚とカタリーナから受け取った証言集やいくつかの資料を手に持って、父親の待つ執務室へ向かった。
ドアの前に立つとロビンが「お嬢様が入ります」と中に声をかけた。
執務室のソファに腰掛けて、テレサは資料を脇に置いた。父のヨハネスもその向かいに座ると、侍従がお茶を二人の前に置くと、下がっていった。ただ、ロビンはテレサの背後に立ったままで気配を消して見守っていた。
「それでテレサ、何があった」
「ハンス様との婚約を破棄することを、申し出てまいりました」
テレサがまっすぐにヨハネスを見つめて言ったことを、ヨハネスは父親として受け止めようとしていた。
「どうしてそうなったか、説明しなさい」
「ハンス様には私以外の大事な方がいらっしゃいます。お茶会の席でもかなり噂になっておりまして、カタリーナ嬢のお力をお借りして、真実であることを突き止めました。子どもである私にはできないことをお二人は……。なので、不貞を許すわけにいかないと。お別れを告げさせていただきました」
ヨハネスはテレサから一瞬目を離し、遠くを見ていた。もう少し穏やかにしたかったという考えは、もう捨てざるを得なかった。じっと自分を見つめる透明な緑の目が心に突き刺さり痛かった。
「婚約破棄については、私の方から話をつけておく。それでテレサはこの後どうしたいのか、考えはあるのか」
「はい。この後はもう、どなたかと婚約など考えたくもないです。幸いカタリーナ嬢から、一緒に学び補佐官となってほしいと申し出がありましたので、お受けすることにしました。つきましては……」
「まて、カタリーナ嬢の補佐官とは、王太子妃付きになるということか」
「そうです。私は、高等科の入学試験でなく、専門課程の編入を目指します。そして、飛び級をして、政務学院に進学することにいたしました。お父様にはその旨、ご了承ください」
「ちょっといいか。その予定は、カタリーナ嬢の輿入れに合わせて王宮の事務官として王太子妃付きなるということか」
「はい。実力で補佐官になるつもりです」
この一月ほとんど顔を合わせていないうちに、テレサが大人になってしまったようだった。無理に背伸びをして大人になることが、父親として良いことに思えなかった。
ヨハネスは侍従にカールとユリアを呼んでくるように申し付けた。ここから先は家族会議のほうがいいだろうと思った。夕食は楽しく食べるべきという考えでもあった。
「お母様とお兄様ともお話し合いにですか」
「そうだ。テレサの希望通りになるとカールのライバルになるからな」
「えっ。そうでしたか」
「政務学院の後輩になるのだろう。もっとも母がそんなテレサに賛成するかどうかも問題だ」
ドアが開いてまず母親のユリアが入ってくると、テレサの髪の毛に釘付けになっていた。
「テレサ、その髪の毛はいかがいたしました。短く切るとは何事です」
「ハンス様とお別れしました。もう、どなたかと婚約などどは嫌だからです」
「まぁ、なんていうこと」
ユリアはテレサの前に座ると、短くなった髪の毛を撫でて言葉をなくしていた。そこに兄のカールも入ってきた。カールは父の困った顔を見て、事が思う通りに運んでいないことに気づいた。
「テレサはお前の競争相手になるそうだ」
「えっ、競争相手とは?」
「飛び級をして、政務学院へ進むと言ってる」
「はぁ。それは」
カールはテレサの硬い表情を見つめていた。ついやってしまったことを後悔していないか確認できればと思った。
「父上。もうテレサの思うようにさせてみましょう。カタリーナ嬢もご一緒なのです。王太子殿下もと思うしかありません」
カールの言葉が決め手になった。父も母もこの状況を受け入れるしかなかった。
「テレサ、後のことはこの父に任せてくれ。シュルツ侯爵家へ婚約撤回を申し入れる。テレサの勉強に家庭教師が必要ならそれもいいだろう」
「ありがとうございます。必ずご期待にそうように頑張ります」
「テレサはもういい。部屋へ帰りなさい」
父親の言葉に従いテレサは立ち上がると、兄と父にポケットチーフを3枚ずつ渡した。そして軽くお辞儀をして部屋を出ていった。
テレサを見送った3人は、同時に大きくため息を付いた。特に兄のカールは「こんなはずじゃないのに」とポケットチーフを見ながらぼやき出していた。
「カタリーナ嬢にまんまとしてやられたようだ。我が家は王太子殿下と妃殿下をお支えする一番の家になったのだからな」
「そうですね。テレサが深窓の令嬢になるのを拒否するとは思わなかった」
「でも、わたくしはテレサを当代きっての淑女にするのは諦めませんから」
「ユリア、だからといって見合いをさせるのは止めてくれ」
「見合いなどいたしませんわ。ハンスが戻ってきた時にテレサを再認識させて見せます」
「母上には誰も叶いません。僕はハンスとの友情を強めますか」
「私もシュルツ侯爵とは連絡を取り合うよ」
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