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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

259 衛兵の階級 と 隠された資料

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 ◇◆◇◆◇


 枷を増やされうえ、少しの水さえもくれないのか。
 そろそろ動くか……かなり腹も減ったしな。
 昨日の一等兵が話していた内容が本当なら、あと十日はこのままの状態のはず、その間に抜け出して、衛兵本部内を調べることは出来そうだな。
 しかしどう考えても、半月も飲まず食わずだと死んでしまうぞ。
 衛兵本部の連中は俺をここで餓死させる気かよ! まぁ食べ物なら持ってるから、餓死する気はないど。
 昼頃になれば見張りの衛兵が交代に来るはずだから、色々と魔法を使って抜け出すかな、衛兵本部内に昼間どれだけの衛兵が居るかも気になるし。
 新しく付けられた枷は、今まで付けてた弱体化の拘束錠と、魔力封じの枷と同じ物のようだが、どうも効果が半減してるみたいなんだよな。
 同じ物は効果が重複しないか、2個目以降は弱まるとかかな? まぁ俺にとってはラッキーな状態だけど。
 これで見張りの衛兵は、俺がまったく動けまいと油断するだろうからな。
 さてと、交代の衛兵が来るまで、使う魔力を少しずつ溜めて魔法の準備をしておくか……あぁ腹減った。

「交代の時間だ」

「やっとか。楽な仕事でいいんだが、暇でアクビが出る」

「それは分かるが、そんなとこを特等に見られたら、何言われるか分からないぞ」

「分かってるさ」

「一応聞くが、何か変わったことはあったか?」

「あると思うか? 何もない。奴も暴れる元気なんてないさ。なんせ枷が倍に増えてんだから」

「生きてるだろうな」

「動きはするから一応生きる」

「おれ達が見張りの時に死んだりしたら、たまったもんじゃねぇぞ」

「分からねぇぞ。しぶといと思って、気付いたらポックリなんてことになってるかも知れないぜ」

「おいおい、やなこと言うな。見張りをしてるおれ達の責任にはならないだろうな」

「さぁな。だか大丈夫じゃないのか。おれ達は命令に従ってるだけだから」

「そうだよな」

「じゃあ、あとはよろしく」

「交代任務引き受けた」

 三人の衛兵が地下から上がると、二人の衛兵は特等兵に報告に行き、無口な一人は資料室へと向かった 。
 資料室には誰も居らず、衛兵本部の中でも人があまり来ない場所のようだった。
 一人になった衛兵は、魔法を解除して元の姿に戻った。
 衛兵に〈イリュージョン〉で幻を見せて牢のカギを開けさせて〈メタモルフォーゼ〉で衛兵の姿になり〈ドッペルゲンガー〉を身代わりにして、交代する衛兵と共に地下から脱出。


 うまく抜け出せた。
 監視カメラみたいな物がなくてよかった。
 まぁこの世界にそんな物あるわけないか。
 とりあえず今回はここを調べてよう。
 おっと、その前に腹ごしらえを。
 しかし邪魔な枷だな。
 壊せはするけど外せないから付けたままにしてるけど、ギルドだったらイリュージョンで誤魔化すことは無理だったろうな。
 誰かしらに気付かれるだろうから、衛兵がBランク以下の実力しかなくてよかった。
 スキルも魔法も、大して使えないみたいだしな。


 部屋にある資料をあさりながら【アイテムボックス】から出した小さなパンを食べるカズ。
 ホコリが積もった資料を見るが、王都で起きた事件や事故の記録が載っているだけだった。
 中には衛兵に関する資料もあり、そこには衛兵の階級が書かれていた。
 衛兵の頂点に『司令』が存在し、次に『準司令』そして『特等兵』がいて、その下に『一等兵』から『五等兵(見習い)』までが階級になってるようだ。
 司令に命令を出せるのは、王直属のロイヤルガードのようだ。
 しかしそれは王の命で実行するだけで、ロイヤルガード自らが衛兵司令の元に行き、命令をすることはないらしい。
 貴族区内を警らするのは、特等兵だけで、貴族区に入る門を警備してるのは、一等兵がしているようだ。
 一等兵で大丈夫なのかと、カズは思っていた。
 街を巡回するのが、主に二等兵以下の衛兵と書いてある。
 王都以外の街で衛兵をまとめあげてるのが、準司令のようだ。
 司令は一人しか居ないが、準司令は各街に一人いるようだ。

 衛兵のことを知ったカズは、他の情報を得るために資料室内を更に物色する。
 するとここ最近動かしたような痕跡がある資料を見つけた。
 それを手に取り内容を確認すると、王都の地形に関することが書いてある資料だった。
 パラパラとページをめくっていると、貴族区が高台にあることが書かれていたのを見つけ、そこからカズは読んだ。
 かつては王国が管理していたダンジョンが、貴族区地下に存在していたらしい。
 しかしそのダンジョンは、百年以上前に最深部まで攻略され、現在は入ることができないように塞がれたと書いてあった。


 ダンジョンの上を貴族区にして大丈夫だったのか? こういうのって、モンスターが発生したりするとか、魔素があふれでるってことは……でもまあ、今はなんともないから大丈夫なのか。


 カズは疑問に思いながら資料を読み進めると、その答えがあった。
 ダンジョンから発見されたアーティファクトで結界を張り、ドワーフが作ったミスリルを織り込んだ魔鉄製の格子と扉で、出入口を完全に閉じたと書いてある。
 カズはさらに資料を読み進めると、その場所が何処にあるかも記載されていた。
 以後ダンジョンの扉は開かれることはなく、出入口は埋め立てられ、現在その上には重要機密保管所が建てられている。
 外装内装と共に他の建物より頑丈に作られ重要機密保管所は、埋め立てられたダンジョンを隠すには打ってつ─────街を広げ、国は発展を続ける。

「ん?」

 ページをめくると前後の辻褄が合わず、背表紙をよくよく見ると、資料を縛っている紐を緩めた痕跡があり、数枚抜き取られていることが分かった。
 抜き取られたページが処分されず何処かにあるかも知れないと、確かめるためカズは資料を持ったまま〈サーチ〉を使う。
 しかし反応はなかった。
 試しにと今度は、スキルの《探索》を使用した。
 するとに上の階に反応があった。
 カズは先程見ていた衛兵のことが書いてある資料に、衛兵本部の見取図が書いてあるのを思いだし、探索で反応のあった場所を確認した。


 えーっと、反応のあった部屋、ここは……司令室!? 司令自らが資料を抜き取ったのか? さすがに今から行って調べるのは無理だな。
 深夜になって衛兵の数が減ってから抜け出して、司令室に忍び込むことにするか。


 衛兵に変装して資料室を出たカズは、牢のある地下に移動して、見張りの衛兵に向けて〈フォグスリープ〉を使用し、眠りの効果がある薄い霧を発生させた。
 衛兵が寝たのを確認すると、牢の中に戻りドッペルゲンガーを解除して入れ替る。
 牢から抜け出す時と同様に、鎖は《錬金術》と《加工》のスキルを使い形を変えて、壊すことなく腕や足に取り付けた。
 元の拘束された状態に戻ると、カズはフォグスリープの効果を解いた。
 地下を漂ってた薄い霧が消えると、見張りの衛兵はゆっくりと目を覚ました。

「おい、何寝てるんだ」

「お前もだろ」

「……お互い疲れが溜まってるんだろうな」

「……そうだな。ここは薄暗くて静かだから、眠気が来たんだろ」

「まぁ特に異常もないから、お互い黙ってればいいさ」

「そう言って報告するなよ」

「しねーよ」

 見張りの衛兵は魔法の効果で寝かされたのにも気付いておらず、疑いもしてはいなかった。
 カズは牢の中では殆ど動かずに弱ってるふりを続ける。
 時折、衛兵が声をかけて生きているかを確かめる時だけ、唸るような低い声を小さく出して体を動かし応えた。
 深夜になり衛兵の数が減り、カズは行動に移そうとするが、司令室に人の反応があるのを【マップ】を見て分かったので、この日は深夜に抜け出すのを中止した。
 しかし次の日もその次の日も、司令室には誰かしらの反応が昼夜問わずあり、潜入することは難しかった。
 そのため情報収集は、もっぱら資料室か衛兵が話している雑談だけになっていた。

 そして衛兵本部の牢に投獄されてから十日目の夕方、司令を訪ねて誰かが来ていた。
 暫くすると、訪ねて来た人物と一緒に、司令は衛兵本部を出ていった。
 司令室は無人となり、潜入するには絶好の機会だった。
 カズは見張りの衛兵に幻を見せて、その間にドッペルゲンガーと入れ替り〈ゲート〉で二階にある資料室に移動した。
 そこから〈メタモルフォーゼ〉で衛兵に姿を変え《隠密》と《隠蔽》を使用して司令室へと向かった。
 夜になり衛兵の姿は減り、誰ともすれ違う事なく司令室の前に着く。
 カズは警戒をしつつ部屋の中に入る。
 部屋の中は真っ暗で、明かりを付けなければ殆ど見えない状態だ。
 カズは《暗視》のスキルがあるため、真っ暗な部屋でも難なく行動ができた。
 早速《探索》を使い、資料室で見た資料の抜き取られたページを探した。
 反応のあった場所は、司令が使っているであろう机の引き出しからだ。
 カズはすぐに引き出しを開け目的の物を探す、が肝心の物は見つからない。
 すると一ヶ所の引き出しが、二重底になっているのに気付き、そこを開けると探していた数枚の資料をそこで見つけた。
 その場ですぐに内容を確かめると、ある人物の名前が書かれていた。
 カズは読み終わると、それを二重底の引き出しに戻し、司令室から出て資料室へと戻った。
 今見てきた内容をフローラとフリート宛に手紙を書き、いつものようにフローラが使う資料室に〈ゲート〉を使って置いた。


 あとは手紙がフリートさんに届けば。
 状況が状況だけに、俺からの一方的な連絡になってるから、手紙が届いて動いてくれるかが分からないんだよなあ。
 衛兵が話してた十日まで残り数日、フリートさんが手紙を読んで、何かしらの行動を起こしてくれるかどうかだ。
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