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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

288 造られた存在?

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「ジーク」

「はっ。先程の報告と話し合いで、カズが冤罪だと判明した。カズの罪は払拭され、もう投獄される事はない」

「あ、はい」

「そこでだカズ。マナキ王より感謝の言葉がある。心して聞くように」

「はい」

「よくぞ国の危機を救ってくれた。国を治める者として礼をする」

「いえいえ、とんでもないです」

 カズの返答に、一瞬場の雰囲気が変わる。

「……(もしかして俺やらかした?)」

「そこは、ありがとうございます。で、いいのよ」

 フローラは小声で、カズの返答を訂正させようとする。

「よい。アイア殿からはフロストドラゴンを従える者ならば、粗暴者であろうと聞いている。どうやらその様なことはないようだ。皆も、もう楽にしてよいぞ」

 マナキ王の言葉で、張り詰めた空気が緩和した。

「どうやら、あんたらの取り越し苦労だったようだね」

「取り越し苦労?」

「カズが国王を前にして、どういう態度をとるか見てたんだよ。無礼にも程があるあるようなら、ギルマス共がカズを拘束して、外に放り出すつもりだったからね。フローラが出ている間に決めたんだよ。一応カズが所属してるギルドマスターには、内緒ってことにしたもんだから」

「そうだったの。どうりでピリピリしてると思ったわ。マナキ王が寛大で良かったわねカズさん」

「え、えぇ……(だったら呼び出さないでくれ)」 

「あのときアタシをののしってくれたみたいに話してくれればぁ、鞭で縛り上げることが出来るからぁ、無礼でいてくれても良かったのよぉ。ご希望なら今からでも縛りましょうか」

「遠慮します(王様の前でそういうこと言うか、この変態。……あ! 変態だから言うのか)」

 甘ったるいような喋り方をするディルに、顔を引きつらせてながら返答するカズ。

「へぇー。カズさんはディルはそういう関係なの」

「関係ってなんですか。フローラさん、冗談はやめてください(説明を丸投げしたのは悪いと思うけど、結局こんな人達の前に来る事になったんだから、そろそろ許してくれないかな)」

「今回の緊急召集はこれにて終了とする。カズの冤罪については、数日中には国に情報が行き渡るだろう。今回の件に深く関わった、第2第3ギルドマスターと衛兵司令は、報告書を上げてくれ」

 マナキ王の変わりに、ジークが会談の終了を告げた。
 全員が姿勢を正してマナキ王が退室するのを見送る。
 その後、城を出たギルドマスター達は、自分のギルドへと戻って行った。
 カズ、フローラ、アイアの三人は、城の近くで寝ている白真の所に向かう。
 衛兵司令だけは会談が終了後、ジークの元へと行き何かを話していた。

「カズはこのあとフローラのギルドに来なさい。話を聞かせてもらうから」

「いや、あの……そう! 白真がちゃんと山まで戻るか、俺が付いてかないと」

 アイアに第2ギルドに来るよう言われたカズだったが、白真フロストドラゴンを雪山まで送るという名目で、面倒そうなアイア相手から逃れようとする。

「ならオレも付いていこうか」

「ちょっと待ってぇ。送って行くってことはぁ、フロストドラゴンに乗って行くのよね。だったらアタシも乗せてってよぉ。第6ギルドだから方向は同じでしょ。タフはどうする」

「わしはフロストドラゴンの背中なんてごめんじゃわい。ギルドの転移水晶で戻るからいいわい」

「ドラゴンの背中なんて滅多に乗れないのよぉ」

 バルフートがカズに付いてこようとすると、そこにディルまでが話に入り、自分も途中まで同行しようとする。

「あんたら大人しく自分のギルドに戻りな。仕事があるんだろ」

「だったらアタシはいいでしょ。方向が同じなんだから」

「ギルドの転移水晶を使った方が早いだろ」

「いいじゃないですかぁ。おばば様」

「誰がおばばだ! 私に意見したければ、あと百年は生きるんだね」

「ハァー。これだから年寄りは」

「なんだって」

「はいはい、分かりました。じゃあねカズ。次会った時は、熱く絡み合いましょう。なんだったら前に話した通り、第6ギルドうちに来てくれて良いわよ」

「カズさんは第2ギルドうちのです」

「まぁこわい。この分じゃ、フローラちゃんもアイアさんみたいになりそうね」

「なッ。カズさんもハッキリ断りなさい!」

「は、はい。俺は第2ギルドが良いので。それに以前も言いました通りお断りします」

「あーあ残念。振られちゃったわ」

「ほれ、行くぞディル」

「は~い。じゃあまったねぇ~」

 ディルはタフと共に、カズ達の前から離れて行った。

「だったらオレも自分のギルドに戻るか。フロストドラゴンこいつともう少しバトリたかったが」

 片目を開けてバルフートを見る白真。

「フンッ。返り討ちだ」

「へッ。口の減らねぇトカゲだ」

 一言二言、白真と言葉を交わしたバルフートも、カズ達と別れ第1ギルドに戻って行った。

「じゃあ俺も白真を」

「送ったらすぐ戻って来なさいカズ。転移使って」

「えーっと……」

「転移出来るって聞いてるからね。隠しても無駄だよ」

「ぁ……はい」

「はい、か。あれだけ離れた場所からでも、簡単に戻って来れる転移とは大したもんだ」

「ぇ……」

「転移出来るのは分かったが、どれ程の距離かまでは分からないからね」

「ぅ……(しまった)」

「ほれ行くよフローラ。カズも早くそこのデカブツを移動させな」

「分かりました。白真、山に戻るぞ。面倒だけど、俺も付いてくから」

「うむ。ここは騒がしい」

「地上から見えないように、高くを飛んでくれよ」

「分かっておる」

 カズを背中に乗せた白真は、翼を大きく広げて、王都の上空へ飛んで行った。
 白真の飛ぶ姿を見たのは、貴族区で戦闘の後処理をしている騎士団の者達と特等兵、たまたま屋敷の窓から空を見上げた一部の貴族くらいだった。
 眼下に望む街並みに小さな白真の影が通過する、が殆どの者が気に留める様子はなかった。
 時折空を見上げる者も居たが、小さく見える影の正体に気付く者はいなかった。
 アヴァランチェ北に位置する雪山に到着し、ゲートで王都にとんぼ返りをしようとするカズを、少し話があると呼び止める白真。

「なんだ? 王都に来たことなら別にもう怒ってないぞ。幸いなことに、街の人達に見られて騒ぎになるような事はなかったから」

「その事ではない」

「じゃあなん…あ、従魔のことか! なんで話しちゃったんだ?」

「カズがこれからは、真実を述べよと言うたではないか」

「確かに言ったが……まぁいいや。終わった事だ」

「我の話だが、やつを見て思い出したことがある」

「やつ……パラサイトスペクターか? そういえば言ってたな。何か思い出しそうとか」

「うむ。四百…いや五百年程前だったか──」

 白真は昔、魔族の者から狙われ、しつこく追われた時があったと言う。
  その時に自分が造り出された存在だと、その魔族の者が言っていたことを、朧気に思い出した、と。
 どこで産まれ育ったのか、一切覚えてはおらず、そもそも自分と同じフロストドラゴンに会ったこともないらしい。
 断片的なことを思い出しただけで、実際にこの記憶があっているか定かではない、と。
 人の言葉もいつから話せたのかも不明だ、と。

「──我はどこから来たのだろうか」

「それは俺に聞かれても分からない。ステータスを見たときには、種族もドラゴンだったから。パラサイトスペクターみたいに、生物兵器として作られたんじゃないと思う」

「あんなのと同類はごめんだ」

「白真は今の生き方が嫌か? 他人…他の種族に迷惑をかけるな、とか。人が困ってたら助けてやれ、とか。以前の様に気に入らないものを、力でねじ伏せてる方が性にあって、そうやって生きていきたいか?」

「カズと契約を結んだ直後は、我もそうも思うた。だが今はこの生き方も悪くはないと思うておる」

「なら今が良ければ、昔に何があったかなんていいじゃないか。大きな間違いや失態があれば、それを正す方がいいんだが、昔の嫌な事を思い出して悔やむよりは、今を楽しく明るく生きることを考えた方が良いだろ」

「……そうだな。カズと会ってから、色んな者達と出会った。以前なら有無も言わさず攻撃していたからな」

「格上格下問わず初見の相手に警戒するのは当然だが、先ずは話してみた方がいいだろ。友好的な相手だっているわけだから」

「うむ。確かにな。おおそうだ、すぐ戻ると言うておったな。邪魔をした」

「なに、構わないさ。白真が自分から過去の事を話してくれたんだ。今まで以上に親しみがもてるよ」

「カズと契約を交わして正解だったようだ」

「今日はやけに素直だな。じゃあ俺は行くよ。また近い内に連絡する」

「うむ。何時でも構わぬぞ。我はカズの主なのだから」

「アハハ。相変わらず偉そうな従魔だ」

 カズはゲートを通り、第2ギルドのフローラが使う資料室に移動した。
 隣にあるギルドマスターの部屋からは、フローラとアイアの声がしていた。
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