不自由と快楽の狭間で

Anthony-Blue

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36.突然

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 昨夜は、カーテンも閉じないまま寝落ちしてしまって、眩しい朝の光で目が覚めた。先ほどまで夢を見ていた気がするのだけれども、どんな夢だったかは忘れてしまった。しかし、パジャマにも着替えていなく寝てしまったジーンズの股間の辺りに違和感を抱いた。ボクのペニスは朝勃ちをしている。ジーンズを脱いでみると、ボクサーパンツにシミがあった。昨日、逝かなかったせいなのか、今朝見ていた夢のせいなのかパンツの裏にはべったりと精液がついていた。昨日、あれだけ刺激させられたにもかかわらず、絶頂を迎えることもなく終わったのにだ。これを知ったら、美貴はなんと思うだろうと考えて、少しおかしくなった。ふと、咲恵の夢を見ていたような気がして、自分に対して嫌悪感が頭をよぎった。

 あれから、毎日のように咲恵からはメールが届いている。慣れない土地で、仕事は大変そうにしているが元気ですと、必ずメールには記されている。ボクも、他愛のない世間話で返信を送っている。後ろめたい気持ちはあるものの、今回の美貴のことには触れないでおこうと思っている。咲恵と離れてしまったことの寂しさから、心の穴を埋めている。そんな、自分勝手な言い訳を考えていることが嫌になってくる。結局は、咲恵とカラダを交えた時の快感が忘れられないのかもしれない。ただ、咲恵とは心でつながっているからこその、あれが最大級のカラダへの快感だと思ってしまう。しかし、味わった快感の大きさから、他の女性の体だけでも求めてしまいそうな自分が怖くなっていた。たとえ、それが咲恵に対して裏切りとなったとしても、カラダを求めてしまいそうだ。

 理性と欲望の振り子が、カラダの中で揺れる日々を過ごしていたある日、ボクのプロフィールを見たと言ってDMが届いた。

「エッチしませんか。お金が必要なんです」

 なんの飾り気もない、ストレートな表現のメールの主は20歳前半だとしかわからない女性からだった。そこに興味を持ったわけではなかったが、あまりの潔さに、いつもの通り理のメールを送ってみた。

「ボク、車椅子なんだけど大丈夫ですか」

「大丈夫!」

 こちらの状態も聞かず、速効で返事してくるこの女性はどんな人間なのだろう。実際にボクを目の前にして逃げてしまわないだろうか。いや、自分が痛い目に遭って心に傷を負った方が、見境もない欲望の化身となったボクには、ちょうどよい戒めになるかと思ったのかもしれない。「今から逢いたい」

 と、前のめりな彼女のメールに時間と待ち合わせ場所を指定した。

「そこでいい。でも、お腹減ってるから、先に食事がしたい」

 そんな返信を受け取って、身支度も早々に待ち合わせ場所へと向かった。心のどこかで、

「どうせ相手は逃げ出すだろう」  

 なんの根拠もないのに、そうであって欲しいという希望がボクの心を支配していた。いつもの駅の改札を出て、駅前の広場で相手が来るのを待っていた。待ち合わせに時間を過ぎても、相手の女性が来る気配はない。やはり、陰からボクを確認して心変わりして諦めて帰ったのかもしれない。

「本当に会えるとは思ってなんかない」

 独り言をごみクズのように吐き捨てて、駅前を行き交う人から目をそらした。

「瑞樹・・・さん」

 後ろからボクの名前を呼ぶ声に振り返る。

「そうです・・・けど」

「へぇ、ほんとに車椅子なんだ」

 なんの躊躇もなくボクをなめ回すような視線を送ってきたのは、想像していたよりもっと若い、というか幼い顔立ちの女の子だった。ボブヘアーにくたびれたようなTシャツに、オシャレにしては大きく穴の開いたジーンズにスニーカーという出で立ちだった。肩には、場違いとも言えそうな大きめの赤いスポーツバックを提げている。

「キミ、名前は」

「ああ、言ってなかったよね。名前は、萌」

 なにか、取って付けたような名前を口にした。

「歳は」

「21」

「ほんとに」

「ウソ言ってるって」

「そんなことないけど」

「じゃあ、いいでしょ」

「まあ、いいや。お腹減ってるんだよね。なにが食べたいの」

「お腹に入れば、何でもいいよ」

「とりあえず、あそこ行こうか」

 ボクは、駅前にあるハンバーガーの店を指差した。萌は頷いて、その方向に歩き出した。店に入りオーダーをしてテーブルに着いた。萌は、トレーに注文したものを乗せて持ってきた。ボクにコーラを差し出し、自分はハンバーガーの箱を開いて大きな口を開けてかぶりついた。口いっぱいに入れたハンバーガーをコーラで流し込みながら、突然、萌が言った。

「あんた、アレ出来るの?」
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