らぶさばいばー

たみえ

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永遠に在れ

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 ……淡い光と共に、数人の影が転移により気配を遠くへ移した。
 この場に残るは、の気配のみ。

「――私の娘も隅に置けないわねえ」

 クツクツ、愉快そうな声音で不浄の女が姿を現した。

「……くだらぬ妄言でござる故に」
「あら、そう? ごめんなさい、てっきり――」

 驚いたような仕草で、不浄の女が両手を合わせて首を傾げた。

「――アザレアの為に私を気なのかと、そう考えていたのに」
「――――」

 牡丹は、答えの代わりにか滅封刀を構えた。

「だって、そうでしょう? そんなに殺気立って。他に理由が思いつかないもの」

 心底不思議そうな表情を浮かべ、困ったように頬へ手を添えて女が言う。
 女には、本気で牡丹が己を害す理由に見当が付けられないでいた。

「実質的に私を殺す理由」
「――不浄に堕ちた魔女は、拙者を不快にさせる存在でござる故に」

 先ほどは答えなかった理由、それを牡丹が無表情で端的に女へ告げてやった。

「へえ、そう。それは悪かったわね。でも仕方が無いと思わない?」
「思わぬ」

 女の主張、語られる前にバッサリと牡丹は切り捨てた。

「あらあら、本当にお嫌いなのね――様は」
「…………」

 嘲るように女が言うが、牡丹はぴくりとも表情を動かさない。
 ……その事情を、たとえ深く察していたとしても。

「……もはや己の名も語れぬ、憐れな魔女が成れ果て故に」
「そうね。語る寄る辺も、名も無き魔女として終わるのも、悪くないわ――」

 ザシュッ!

「――この身の不浄、全てを神に捧げて……」
「――――」

 自ら不浄に染まり堕ち、狂った魔女の最期。
 ――胸を穿った滅封の刀身に吸われ、跡形もなし。

 ごぉおぉおぉおおおお、ぉぉおおぉおおおおぉお!!

「……拙者は、拙者が果たすべき役目を全うするのみでござる故に」

 ――天を覆い尽くす、その黒く禍々しき様を眺め己の覚悟を問うた。

 ◇◆◇◆◇

「嫌ああああああああ!! 来ないでええええええええ!!」
「オイオイ……勘弁しろよ」

 錯乱したように暴れ回るクソガキに辟易とする。

「いやっいやっ、来ないでっばけものおっ!!」
「まァ、落ち着けって」

 ダンッ! と音もなく接近し、クソガキの首根っこを掴んで床に叩き付けた。

「がっ……」
「テメェが何を勘違いしてんのか知らねェが――」

 面倒臭いという表情を隠しもせず、親切に告げてやる。

「――オレ様はテメェをぜ」
「ぅぐぁ、うそよっ! はなしてっいやっ、いやあああああ!!」
「話聞けよ、クソうぜェ……」

 これだからクソガキはクソ面倒だ、と顔が引きつる。

「オレ様と目が合ったくらいでビビって逃げようとしてんなよ、クソ面倒な」
「いやああああああああっ!! だれかっだれかあああ!!」

 先程の魔獣の大軍も、本来は隠れて見物する稚拙なの為に使うつもりだったようだが……隠れるどころか、以前逃したを見つけて幼稚な癇癪代わりの殺気を飛ばしていたマヌケぶり。
 探す手間が省けたと姿を分かりやすく見せてやれば目が合った途端、全力で手札を晒し尽して逃げようと形振り構わず、このザマであった。

「やだっ、やだっ! ころさないで……っ!」
「だから殺さねェって。むしろ逆だぜ、逆」
「――嘘よッ! この大嘘吐きッ!」

 ギンッ! と床に押さえつけられたままクソガキが睨み上げてきた。

「前もっ! この少し前もっ! 私を殺そうとしてたじゃない!」
「だからそれが勘違いだっつってんだろうがよ……」

 本気で殺してやろうか、この道理を解さないクソガキがよォ……。

「そもそもなんでだ? なんでオレ様がテメェを殺さなきゃなんねェんだよ?」
「知らないわよッ! 理由なんてあっても無くても出来ないはずなのに――ッ!」
「――そこはよく分かってんじゃねェかよ、クソガキ

 ハッ、と鼻で嗤ってやれば、顔を怒りの形相で真っ赤に染め上げた。
 ――クソガキではあるが、理性が無く頭が悪いという意味ではない。

「そんなことは、ものッ! 気付かれたくなければ、早く放しなさいよ化け物ッ!」

 ……コイツは言動や見掛け上こんなんでも理性を保ったままであり、頭の回転もクソ速い。オレ様を見つけた瞬間に即刻、全力全霊で逃げるという判断を下したのもそのおかげだった。それは恐怖よりも先に、理性によって得た己の喜ばしくない末路に察しがついたからであろう。
 残念ながら、あと一歩と間に合わなかったようだったが。伊達に今までオレ様から逃げおおせ続けるだけはあった。

「おば様っ、おば様っ! たすけて、おば様っ! おばさまああああっ!」

 ……ただ、それらの凄まじい能力の全て活かしきった上で、普段は感情のままに耽るバカなクソガキってだけのことである。
 恐ろしく貴重な能力の無駄遣いでクソ勿体ねェぜ。

「やめて……ころさないでっ……やだ、やだ、おばさまぁ、やだぁ……ッ!」

 ――こちらが手出し出来ない、しない理由を理性で理解してるからこそよりこの状況に対して錯乱し、恐怖する。
 何故なら――オレ様が、出来ない理由をガン無視してこのクソガキを殺せると、本能ではなく理解しているからだ。

「オレ様はテメェを殺すことになんざクソほど興味ねェよ」

 オレ様、だが。

「いやあああああああああ!!」

 このクソガキはオレ様の言葉を決して信じられないだろうし、受け入れられないだろう。確かにオレ様はこのクソガキを殺すことに対してクソほども興味無いが、オレ様よりよほどこのクソガキとの関わりが因縁深いに関しては全く別の話だった。
 そいつらはオレ様みたいに自粛してるわけでもなく、どれほど殺したかろうともコイツへ手出し出来ないってだけだ。

 だからそもそも、来たのがオレ様じゃなければ身の安全は確保されてるからとこのクソガキは逃げることもしなかっただろうし、むしろわざわざ調子こくためにそいつらの前へとおめおめと満面の笑みをこさえて出て来たかもしれない。
 が――コイツは、殺されても仕方ないと思える心当たりがあり過ぎた。

「なんで私がっ、なんでよっ!? おまえ、おまえのせいでっ!」
「あ゛ァ゛?」
「ひっ……!?」

 オレ様がこの後に何を言ったところで、己の心当たりによる疑心暗鬼で全く話は通じないだろう。自業自得だが、このクソガキからしてみればオレ様がで乗り込んできた時点でわんさかと居る、こいつを殺したい奴らが終には殺しにきたようにしか見えていないはずだ。
 だから感情的にはまさかそんなことをするはずがない、有り得ない、とは踏みとどまらずに迷わずそうするつもりだと告げる理性に従ってオレ様から全力で逃げようとしていたのだから。
 ――まァ、ある意味間違っちゃいねェぜクソガキ。正解でもねェが。

「――、」
「ひぃっ」

 クソガキが倒れ込んだ場所を起点に、円状に床が刹那に染まった。

「いぃぁああッ!?」
「『』」

 ぶくぶく、ぶくぶく、――。
 黒々く染まったクソガキの周囲が淀み、頽れ、原型を留めなくなる。

「……安心しろよ、テメェを殺しはしねェぜ」
「やだっやだっ、おばさま、おばさまあああっ!」

 底なし沼に飲み込まれるように、クソガキが為すすべもなくじわじわ沈んでいく。

「――ただテメェのその腐った司源たましい、相応しい場所に送ってやるだけだぜ」
「いやあああああああああああああッッッ!!!」

 クソうるせェ! 苦痛もねェだろうが黙って沈められとけよ、クソガキが。

「神になりてェんだろ? 棚ぼただぜ、喜べよ」
「――ッ! おまえに何が分かるのよッ!」

 よほど癇に障ったのか、苦痛が無いから己の状況も忘れて我に返ったのか、咆えるようにギラギラと憎悪の籠った声音で叫び散らした。
 ――このクソガキは、考え無しに逃げ回るだけではなかった。

 どうにか完全に脅威から逃れられるようにと、アレコレと正気の沙汰とは思えないどんな方法であっても、神に至る為ならば何であっても形振り構わず試行錯誤を繰り返していた。
 ……それが出来たのも、という余裕綽々に洒落込んでたおかげだろうが。
 ただし、それは――。

「――テメェの真名は大事にするもんだぜ、椿

 いや。

「今は、だっけか? クソだせェ」

 クソガキが己の真名をのは、神に至る為に必要なだったかもしれないが――そいつはとんでもない悪手だった。
 どうして己が存在が絶対的に守られているのか、それを理解していれば絶対に取らない手段。最初は確かめるように少しづつ、最終的に真名がここまで全くの別物へとしてさえ変わらぬ守りにやっと安堵し――してしまった。

「絶滅したかも知れない花だから、絶滅するかも知れない鳥ってかァ?」
「――ッ!」
「あやかるにしても安直過ぎだろ、クソだせェ」

 わざわざだろう花の名ではなく鳥の名のほうにしたのは、単純にって意味を込めたからであろうか。
 ……そんな意味を込めたところでだってのに、よくやるぜ。

「テメェの安い魂胆は見え透いてんだよ」
「~~ッ!!」

 怒りか羞恥か、これ以上ないほど顔を、全身を、より朱く染め上げる。
 本当に最初から最後まで、ただの能力無駄遣いなだけのクソガキだったぜ。

「……まァ最後の手向けだ、テメェにを教えてやるよ」

 教える必要はこれっぽっちもないが、教えたほうが。そしてそのオレ様のクソ面倒が圧倒的に減るから教えないよりかは、教えてさせてやったほうが色々お得であった。
 だからアイヴィスから椿も、あと少しで全て沈みゆく耳元へと親切に囁いてやった。

「――神に至る方法は何かを生贄に捧げて犠牲にすることでも、ましてやなんてクソくだらねェ方法でもねェ」

 ……このクソガキが勘違いするのも仕方ねェが。
 傍から見てりゃ、ありゃただの自己犠牲にしか見えてねェだろうからな。
 だが――。

「――自己だぜ」
「!? お、同じことじゃないッ!」

 まだ諦めてなかったのか、動けない危機的状況でも神に至れる説明をしおらしく暴れず黙って聞いていた。が、やはり意味がまるで理解出来なかったらしい。
 ――だからテメェにゃクソほども才能ねェっつったんだろうが。

「ハッ、同じなものかよ」

 ……このクソガキでも理解出来る言葉で教えるとか、クソ面倒だぜ。

「神に
「知ってるわよッ! そんなことッ!」

 表面的にだろうがな。とことん浅いやつだぜ。

「話聞けよ、テメェみたいなクソガキでも分かりやすく教えてやるからよ」
「~~ッ」

 まァ黙るだろうな。
 じわじわゆったり沈んじゃいるが、それも時間が多く残ってるわけじゃねェし。

「それは別に神に意思がねェって意味じゃねェ」
「何言ってるのよッ! ――ひぅッ!?」

 ……うるせェ、黙って聞いとけやクソガキ

「テメェにも分かりやすくいえば――神はってことだぜ」

 とも言えるだろうが。

「つまり、だ――」

 最大の嘲りを言葉に込め、クソガキに引導を渡してやる。

「――感情にしてなテメェみてェな究極の俗物クソどもは、たとえ天地がひっくり返ろうが、世界が終ろうが、どう足掻いても神には至れねェってことだぜ。しっかりテメェのに刻んどけよクソガキ
「…………」

 ぽかん、と理解を拒否したようにクソガキが硬直した。

「なんだ、もっと喜べよ」
「…………」

 喜ぶどころか、ぴくりとも動かない。理解したことを理解したくないのだろう。
 これを理解して受け入れるということは、今までの己が全て無意味な存在であることを認める――と言う事でもある。

「…………」
「だから喜べって――」

 つまるところ――ある種のからなァ。
 この欲深さだけで出来た究極の俗物クソガキにゃァ、絶対ェ無理な境地だろうぜ。

「――テメェはこれから、その神になれる機会を与えられるんだぜ?」
「どういうことよッ!?」

 神に至る方法について己に適用した場合の理解を拒絶はしても、しっかりと話の内容だけは聞いていたらしい。
 現状から推測し――テメェがこれから、テメェじゃいられなくなるような場所へと送られるって事をいち早く理解し、盛大に暴れて喚き出した。
 ……理性的な頭の回転だけはクソ速ェなこのクソガキは。クソ勿体ねェ。

「――い、嫌よッ! やめてっ! 神になりたくない! ならないからぁっ!」
「オレ様の知った事かよ、クソうるせェ」

 ――やっと理解したかよ。手間掛けさせやがって、クソガキが。

「騒ぐほどのことかよ。――テメェはが欲しかったんだろうが」
「い、いらないっ! もういらない!」
「我儘言うなよ、オレ様がどんだけクソ面倒な踏んだと思ってやがる」

 ――真名を、。……仕上げだな。

「まァ落ち着けよ。好きに出てこられるっつー簡単な話だからよォ」
「やだやだやだっ! あやまるからぁ! もうやめてよぉ! ――おばさま、おばさまたすけてっ、ねえおねがいっおばさま、おばさまってばぁ! おばさまあああああああっっ!!!」

 絶対ェ無理だって本人も理解してるからこそ、この醜い喚きようなんだろうが。

「――ただしが」
「たすけておばさまっ、おばさ――さっさと助けろよ阿婆擦れぇぇえええええ!」

 最後の最後までクソしょうもねェクソガキだったぜ。

「ちなみにテメェの特別製だぜ――残らず飲み込めよ、『黒玉』」
「いやああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 ごぉおぉおぉおおおお、ぉぉおおぉおおおおぉお!!

「おうおう、喜んでる喜んでる。テメェの醜態にも大歓喜してるぜ」
「ひぃぃぃぃ、り――ッ!」

 見えている空一面ぎっしりと緊密に、まるで世界全ての空を覆いつくすような大量の黒々とした目の突如とした出現。
 瞳と目、にも関わらずそれらが目であることが分かるのは、と何かを執拗に探して眼球みたいに動いているからだろう。
 しかしその動きもクソガキの上げた悲鳴で存在に気付けたのか、クソガキへと視線をと観察するように注いで完全に止まる。
 理性ではなく本能的な恐怖からか、引き攣った顔でクソガキが黙った。

「―――ッ」
「『懲獄に招けよ、月詠命ツクヨミノミコトの名の下に』――だ、丁重にご案内して差し上げろ」

 ごくんっ!

「――――」

 ――刹那の静寂が、女神を呆気なく失った聖浮城セントフルトアを支配する。
 緊張に強張りながらも確認するよう静かに、待つ。待った。

「――チッ」

 これ以上ないほど上出来に処理したが、やはり誤魔化しきれずに
 が感じられる。

「……時間稼ぎにしちゃクソだが、まァないよかマシだな」

 用を無くした神器を仕舞い、を取り出した。

「続けては流石のオレ様でもキチぃが、しゃあねェ」

 新たにどこからともなく取り出したそれは、だった。

「『遍く眩ませよ、神器――アマ照らすテラス』ッ!!」

 カ――ッ!!!!!

 強烈な神の暁光がまばゆく照らし眩ませた。
 ――よし、気絶したかよ。クソ危ねェ。

 聖浮城セントフルトアの膝元で空に浮かんだ不気味な黒い目の群れと突然の強烈な光の応酬で騒ぎになる中、動き出す
 ――ま、オレ様はだからな。、見逃してやるぜ。よ。

「――はじまったか」

 ぬぅ、と室内の暗闇から黒い影が出てくる。

「……なんだテメェ、何しにきやがった」
「何とはご挨拶だな。にきただけだ」

 早く渡せ、とばかりに無造作に手を出されイラッとしたが何も言わずに渡す。
 ――アイヴィスから抜き取った、椿を。

「これを手に入れる為だけに、一体どれほどの時が掛かるかとヤキモキしていたが……まさか、このような単純明快な心理戦で簡単に自ら罠へと引っ掛かってくれようとは」
「――はァ? 心理戦だァ?」

 アホかよ、コイツ。何言ってやがる。

「――バカ言うんじゃねーよ。感情は不合理の極みだろうが」
「……だが、ならば何故こんなにもあっさりと罠に引っ掛かった」

 納得がいかないのか、突っかかってくる。クソ面倒な青二才がよォ。

「感情に惑わされて判断を不合理に傾け誤ったからだろう」
「ハッ、実にアホらしい考えだな。テメェ――クソガキの表面的な幼稚に踊らされて騙されてんなよクソが」

 ここまで持ち込むのに、どんだけオレ様が苦労したと思ってやがる。

「――これは純然たる頭脳戦だぜ」

 に固執する欲なら、欲深いとは言わねェぜ。

「確かにあのクソガキは不合理な感情に従属してたぜ。――だがそれは、別に合理的じゃねェってわけじゃねェよ」
「感情に従うなら、不合理に従っているということじゃないのか?」

 クソバカが。単純思考かよ。クソ面倒臭ェ!

「不合理っつーのは道理からズレてる、ってことだぜ。理解出来ねェなら、道理の部分をあのクソガキの欲にでも置き換えて考えりゃ分かるだろうが」

 不合理な感情に従うのは己の欲望からだ。だが、ただの不合理だけでは究極的な俗物クソどもの持つ欲は絶対的に満たされない。せいぜい浅い欲が埋まる程度にしかならないからだ。
 ――だから合理的な不合理を叶えようとする。極まってクソガキだぜ。

「……なるほど」

 分かってねーな、こりゃ。散々聞いといて、クソうぜェ。

「とっとと帰りやがれ、クソうぜェ」

 うんざりした表情を隠さずにしっしっ、と追い払う。

「…………」

 だが、まだ何か言い残したことでもあるのか、黙ったまま動かない。
 ……黙り込んでなんだコイツ、目的達成したんだからとっと帰りゃ――。

 ごきゅっ。

「――触んな、ころすぞ」
「がぁ……ッ」

 前触れなく頭上付近に――明確な目的で手が伸びて来たと視界で認識した瞬間、その刹那には時既に全力で排除していた。
 排除に動き出した直後に一瞬遅れて気付いたから慌てて抑制出来たが、それでも少々コイツにとっては致命的かもしれないが籠ったままだったかもしれない。
 ……かろうじて息はあるな。クソ危ねェ。つい、やっちまったかと思ったぜ。

「……オレ様を苛つかせんなよ、今のはテメェの自業自得だぜ」
「ぐ……神は感情に左右されないんじゃなかったのかっ?」

 ……どこから隠れて聞いてやがった、クソガキ。
 どうりでアイツがはずだぜ、クソが。

、確かにオレ様は、別にし」
「それはアリなのか……」
「オレ様を舐めてんなよ。なんでもござれだ、――

 ふらふらとなんとか気力回復して立ち上がったが、重篤であった。
 ……何がしたかったんだよ、アホが。

「……もう帰る」
「おうおう、くたばる前にとっとと帰りやがれやクソうぜェ」
「…………」

 再び攻撃を受けるかもしれない状況を想像でもしたのか、白い顔色のままスー、と無言で暗闇に影を溶け込ませ今度こそ帰って行った。
 ――このオレ様の瞳は誤魔化せねェからな。

「――――」

 ……超えるべき大事な局面を超えた。だが、これはまだ着火したに過ぎない。
 か細い糸を辿りやがて燃え尽きるか、不発のまま絶えるか――神のみぞ知る。

「――――」

 屋外に出て世界の果てを遠く眺めたが、気が紛れるわけもなかった。
 ふと、他がどうなったかについて急激に興味が湧いた。ちら、と下を軽く視た。
 ……かなり時間が経ってたが、未だ救助等の喧騒がやいのやいのと続いていた。

「――――」

 ――だが、先程までそこに居たはずのは既にない。
 神器の時間稼ぎによって出来た猶予で、場所を――移したのだろう。

「……クソくだらねェ」

 どいつもこいつも、誰も彼もがどうしようも救いようがないクソどもだ。

「……生命ヒトの倫理で神が説けるものかよ」

 聖浮城セントフルトア最上階から零れた小さな呟きは、風に虚しく溶け消えた。
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