ANOTHER WORLD STORIES

佳樹

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7話 Cecil

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 無人の放課後の保健室は静けさに包まれていた。
セシルと陽菜はセシルの傷の手当をすべく、保健室を訪れた。しかし、部屋中どこを探しても、肝心の養護教諭が見つからない。
 鍵が開いていた事を考えると、暫く待てば戻って来るかもしれない。
 しかし、よくよく考えてみると、学校の部外者である僕の治療を快く引き受けてくれるだろうか。
 この傷は物騒な創傷であるがゆえに、もし説明を求められたなら答える事が出来ない。
 「これだけ傷口が深いと、ちゃんとした医療機関に診て貰う方が良いかも・・・。ねぇ、セシルくん。保険証って持ってる?」
 「保険証・・・ですか?その様な物は持ち合わせていませんが・・」
 「そうだよね・・・。身分を証明出来る物も当然無いよね」
 「身分を証明出来るものでしたらちゃんとあります」
 「えっ本当?良かったぁ~。それを早く言ってよ~」
 セシルは再び王から賜った勲章を取り出した。
 「これは私が勇者であるという身分を証明するだけで無く、通行証の役割も担ってます。こちらを門衛に示せば、どんな村や町にも手続きを必要とせずに入る事が出来るのです」
 「はぁ~、ちょっぴりだけど、期待した私がバカだったわ。そんなもの、この世界では何の役にも立たないの!」
 セシルは悲しそうに勲章を仕舞った。
 「しょうがない。私が傷の手当てをしてあげるか~」
 陽菜さんはぎこちなく傷口を水で洗い、患部にガーゼを当て、包帯を巻いてくれた。
 「セシルくんの世界にはお医者さんは居たの?」
 「ええ勿論。医者は主に老衰の患者の治療に当たってました。この様な切り傷などは、僧侶の魔法や回復薬で事足りてましたので、医者は必要としませんでした」
 「えっ?今、魔法て言った?魔法っておとぎ話にある様な、空を飛んだり、杖から炎を出したりするあれのこと?」
 「おとぎ話がどの様なものかは分かりませんが、空を飛んだり、炎を出す事は可能です」
 「もしかして、セシルくんも魔法が使えるの?」
 「ええ。魔導士程ではありませんが、多少ですが覚えがあります」
 「凄いじゃない!私、魔法見てみた~い」
 「いいでしょう。では、空を飛ぶ風魔法のフライをお見せしましょう」
 陽菜は目を輝かせた。フライの魔法自体は、そんなに体力を消耗するものでもないし、実演するには丁度いい。
 「フライ!・・・あれ?。フライ!・・・フライ・・・!」
 おかしい。宙に浮かない。フライを使うだけの魔力は十分残っているはずだ。
 「ねえ~、大勇者のセシルさ~ん。いつ飛んでくれるんですか~?」
 「どうして魔法が使えないんだ?陽菜さん。もしかしてこの場所は、何者かによって魔力を無効化する強力な結界が張られているのでしょうか?」
 「うん・・・。まぁ、そうかもね」
 陽菜さんはガッカリした表情で、溜め息交じりに言った。変に期待させてしまって申し訳ない。名誉挽回しなければ。
 「ここを出たら、魔法を見せられるかもしれません」
 「もう魔法はいいわ・・・。それより、元の世界に帰る方法をどうやって探そっか」
 「そうですね・・・。僕と翔さんが時空を超えて入れ替わったという事は・・・」
 「そうだ!それなら、物理担当の白百合先生に聞くのが一番だわ。白百合先生は、いつも遅くまで物理教室に居るから、今から行けば、たぶん会えると思うわ」
 陽菜さんは無邪気に目を輝かせて言った。
 
 二人は二階へ続く階段を上り、物理室の前に立った。
 「たのもう!」
 陽菜さんは威勢よく物理室の扉を開けた。
 「あれ?鍵は開いてるのに、百合子先生が居ない。どっか出掛けたのかな?」
 黒色の遮光カーテンを閉め切った室内は、人気も無く閑散としていた。そのうちに先生が戻って来るだろうという結論に達した僕達は、教室の中へ一歩足を踏み入れようとした。
 その時。
 「あら、相川さんが物理室を訪ねるなんて珍しいわね」
 突然の背後からの声に、背筋が凍りついた。
 「白百合先生ちょうど良かった。実は先生に教えて欲しい事があるんです」
 二人は何度か言葉を交わしていたが、僕にはその会話が一切耳に入って来なかった。
 この人は一体何者なんだ?
 僕は両親が裏切り者に後ろから斬られたと言うトラウマから、常に背後には気を配っていた。
 何の気配も無く後ろを取られた事など、今まで一度も無い。
 「立ち話も何だから中で話しましょうか」
 白百合先生は僕と陽菜さんを教室へと招じた。
 黒色の天板の実験台を挟んで、僕と陽菜さんは白百合先生と向き合う形で腰を落ち着けた。
 そこで陽菜さんは、大きな身振り手振りで、白百合先生に、ここに至るまでの経緯を説明してくれている。
 その間も、僕の心は激しく波立っていた。魔王城で戦った死霊達ですら確かに気配はあった。しかし、今、目の前に確かに存在しているのにも関わらず、彼女からは人間らしい気配を感じられない。
 僕はつぶさに彼女を観察した。
 純白の白衣を身に纏い、長い前髪をセンターで分けて、後ろ髪はリボンで結んでいる。スクエアメガネが、より彼女を知性を引き立てている。年齢は二十代位に見えるが、落ち着いた話し方や、一つ一つの美しい所作から、見た目に反して洗練された大人の女性の印象を受ける。
 「ねえ、セシルくん聞いてる?」
 「えっ?は、はい・・・」
 「いくら白百合先生が美人だからって、そんなに舐める様に見つめちゃダメだよ~」
 「ご、誤解しないで下さい!ち、違いますから!」
 「あら、そんなに焦っちゃって、可愛いわね。大体の話は理解出来たわ」
 「僕が別の世界から来たって事も信じてくれるんですか?」
 「ええ信じるわ。セシルくんだっけ。あなたに一つだけ質問してもいいかしら」
 「はい」
  「これまでに、あなたの居た世界で、今のあなたみたいに、別の世界からやって来たって人は存在したのかしら」
 白百合先生の表情はどこか物憂げに見える。敢えて一つだけ質問すると前置きした内容にしては、何か引っかかるものがある。これがどんな意味を持つのか、その真意を僕は測りかねていた。
 「いえ。僕の知る限りでは、その様な話は一度も耳にした事がありません」
 「確実性が無くてもいいの。伝承とかでも何でも良い。本当に聞いた事は無いの?」
 「はい。残念ながらありません。先生は過去にこの様な事例が存在したとお考えなのでしょうか?」
 「ええ。あってもおかしく無いと思うわ。長い歴史の中で、今回が初めてだって事の方が疑わしいくらいよ。真偽のほどは定かではないけど、この世界にも異世界からの来訪者の目撃証言が残されているわ」 
 「その中に事実が埋もれている可能性も無視出来ないと・・・」
 「どうでしょうね。もし、どの様な条件下で、二人がお互いの世界を移動出来たのか、そこに過去の前例から、何らかの共通点を見い出す事が出来たのなら、あなたが元の世界に戻れる可能性も、ぐっと高くなるんじゃないかしら。私の知り合いに、この手のオカルト話に精通した友人がいるから、後で聞いといてあげる」
 「よろしくお願いします」
 「さて、とは言っても。セシルくん。あなたはこれから家や食事はどうするつもり?」
 「そうですね・・・。これまで野営や狩りの経験があるので、具体的にはまだ考えてませんでしたが、何とかなると思ってます」
 「そんなの危ないよ~。白百合先生。何とかならないかな~」
 「そうね・・・。私の知人が丁度、ルームシェア出来る子を探してたから、そこをあなたを紹介してあげるわ」
 「ご迷惑をお掛ける訳にはいきません。僕なら一人でも大丈夫ですから」
 「何言ってるのよ。あなたまだ相川さんと同じ位の年齢でしょう。だったら少しは大人に甘えなさい。他人の好意を無下にしちゃダメよ。それに、いつ戻れるかも分からないんだから、確たる拠点があった方が何かと良いじゃない」
 白百合先生はルームメイトに話を付けると言って携帯電話を掛けた。電話の向こうの相手は白百合先生の申し出を快諾した。
 「住む所は決まったし、ただ毎日を漫然と過ごす訳にはいかないだろうから、情報収集をしながら、この学校に通ってみるのはどう?あなたさえ良ければ、私が諸々の手配をしてあげるわ」
 「そこまで甘えてしまって良いんでしょうか」
 「いいのよ。制服は明日登校した時に渡すとして・・・。その剣は少し目立つわね。何とかならないかしら?」
 「勇者として、この剣を片時も手放す訳にはいきません」
 「セシルくん。そんな事言ったって、周りの人、みんな怖がっちゃうよ~。もし警察に見つかったら捕まっちゃうし~。そうなったら、一生元の世界に戻れなくなるよ~」
 「しかし、こればかりは、どうしても譲れないのです」
 間違ってもブレイブソードが他人の手に触れる様な事があってはならない。それだけは、なんとしても避けなければならない。それが、この剣を持つ者に課せられた義務でもある。特に今は、剣の輝きが幾ばくか翳っているのだから・・・。
 「はぁ~。分かったわ。これが本物の剣だって思う人はまず居ないだろうから、出来るだけ目立たない様に行動してちょうだい」
 白百合先生は観念したのか、嘆息を漏らしながら言った。
 「はい。謹んで行動します」
 僕は鈍く光る剣をホルダーに収めた。
 白百合先生は紹介してくれた家までのルートを書いた地図を僕に手渡した。
 その様子を横から覗き込む様に見ていた陽菜さんは、帰り道の途中だから、そこまで一緒に行ってあげると言った。
 教室を出る時に僕は、白百合先生に謝意を示し低頭した。
 去り際に、不意に白衣の下から覗くペンダントが目に留まった。
 そこに描かれている模様・・・
 その模様・・・何処かで見た事がある気がしてならない・・・


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