8 / 75
8話 Cecil
しおりを挟む
故郷の世界と同じ、黄昏時の空の色は、セシルの心に僅かばかりの安らぎを与えた。
駅までの道すがら、陽菜さんは僕に色々な事を教えてくれた。
魔法に依存する僕達とは違い、この世界の人々はテクノロジーの進歩により、大きな発展を遂げたのだと知った。恐らく科学技術だけを比較すると両者には五百年以上の隔たりがあるだろう。
僕らの世界では当たり前の封建制度は、とうの昔に崩壊し、現在は資本主義国家が世界の大半を占めている。戦場においては、剣に変わり銃火器が台頭している。
中でも僕を驚かせたのは、この世界では魔物やモンスターの脅威が無く、この地に生きる人々はみな平和に暮らしていると言うのだ。それこそ正に僕が渇望する世界の姿だ。
「白百合先生が、こんなにもセシルくんの事を気に掛けて、何かと手を尽くしてくれるのがちょっぴり意外だったな~」
「そうなんですか?」
「普段の白百合先生って、私達生徒に対して、何ら関心が無い様に見えるの。それに、キリッとしてて、一切隙を見せないから、他のみんなは、話し掛けずらいし、何だか怖いって言ってるの。まあ、私はそんなの気にしないから、誰彼構わず話し掛けちゃうんだけどね」
「きっと他の方々は白百合先生の事を誤解してるんですよ。だって素性が分からない僕に対して、こんなに優しくして下さるのですから」
「うん。私もそう思う~」
陽菜さんには言えなかったが、僕が最初に彼女に抱いた印象は、他の生徒とは別の種類の恐怖だった。救いの手を差し伸べてくれた恩人に対して、その様な感情を抱いてしまった事を僕は、堪らなく恥じた。
「ところで、僕と入れ替わった翔さんとはどんな人物なのでしょう?陽菜さんから見て僕と翔さんには何らかの共通点はありますか?」
「そうね~。見た目の共通点は全く見当たらないなぁ~。翔はケンカも強くないし、正義感も強くない。それに言葉もちょっぴり乱暴だし、セシルくんとは正反対かな。不思議だなぁ・・・。どうして私、そんな人を好きになっちゃったんだろう」
陽菜さんは顎に軽く手を当て、小首を傾げた。
見門駅で電車を降り立ち、駅前の広場へと出た。
家路を急ぐ人や、広場のベンチに座り込みおしゃべりに興じる人。平和な世界に生きるはずの彼等の表情が、一様に疲れ切っている様にも見えた。
何か聞こえる。
「セシルくん。急に立ち止まってどうしたの?」
周囲の喧噪に紛れて微かに歌が聞こえる。
「歌が聴こえませんか?」
「向こうの方で、ストリートミュージシャンが歌ってる歌の事かな?気になるんなら、少し聴いて行こうか~」
僕達は少し離れた場所で歌う、ストリートミュージシャンの目の前に立った。
彼は長い髪を振り乱しながら、マイクを片手に、行き交う人々の心に向かって、叫ぶ様に歌っている。
TEAL GAME
空を飛ぶ小鴨は見た
狩られる刹那、天地は逆転
食事も忘れる程の思い
お前ならきっと見つけ出せるさ
答えはそこで待ってる
いつの間にか涙が出ていた。
この歌の何が僕の心をこんなにも震わせたのだろう。理屈では説明出来ない、人を感動させる不思議な力がこの歌にはあるのかもしれない。
歌い終えたミュージシャンは、足を止めて歌に聴き入っていた僕達に興味を示した。
「嬉しいな。俺の歌でこんなに感動してくれたのは君が初めてだ。そんなに、この歌を気に入ってくれたのか?」
「ええ。この歌の詞は、あなたが考えたのですか」
彼は一瞬戸惑った様な表情を見せた。
「ああそうだよ。でも不思議なんだ。夢の中でこの歌詞が浮かんで、一言一句、起きた時にもはっきりそれを憶えていたんだ」
「そうなんですね。何だかこの歌に勇気を貰いました」
「そう言って貰えると嬉しいよ。大体いつもこの辺で歌ってるから、気が向いたら、またいつでも聴きに来てくれ」
「はい。ありがとう御座います」
駅までの道すがら、陽菜さんは僕に色々な事を教えてくれた。
魔法に依存する僕達とは違い、この世界の人々はテクノロジーの進歩により、大きな発展を遂げたのだと知った。恐らく科学技術だけを比較すると両者には五百年以上の隔たりがあるだろう。
僕らの世界では当たり前の封建制度は、とうの昔に崩壊し、現在は資本主義国家が世界の大半を占めている。戦場においては、剣に変わり銃火器が台頭している。
中でも僕を驚かせたのは、この世界では魔物やモンスターの脅威が無く、この地に生きる人々はみな平和に暮らしていると言うのだ。それこそ正に僕が渇望する世界の姿だ。
「白百合先生が、こんなにもセシルくんの事を気に掛けて、何かと手を尽くしてくれるのがちょっぴり意外だったな~」
「そうなんですか?」
「普段の白百合先生って、私達生徒に対して、何ら関心が無い様に見えるの。それに、キリッとしてて、一切隙を見せないから、他のみんなは、話し掛けずらいし、何だか怖いって言ってるの。まあ、私はそんなの気にしないから、誰彼構わず話し掛けちゃうんだけどね」
「きっと他の方々は白百合先生の事を誤解してるんですよ。だって素性が分からない僕に対して、こんなに優しくして下さるのですから」
「うん。私もそう思う~」
陽菜さんには言えなかったが、僕が最初に彼女に抱いた印象は、他の生徒とは別の種類の恐怖だった。救いの手を差し伸べてくれた恩人に対して、その様な感情を抱いてしまった事を僕は、堪らなく恥じた。
「ところで、僕と入れ替わった翔さんとはどんな人物なのでしょう?陽菜さんから見て僕と翔さんには何らかの共通点はありますか?」
「そうね~。見た目の共通点は全く見当たらないなぁ~。翔はケンカも強くないし、正義感も強くない。それに言葉もちょっぴり乱暴だし、セシルくんとは正反対かな。不思議だなぁ・・・。どうして私、そんな人を好きになっちゃったんだろう」
陽菜さんは顎に軽く手を当て、小首を傾げた。
見門駅で電車を降り立ち、駅前の広場へと出た。
家路を急ぐ人や、広場のベンチに座り込みおしゃべりに興じる人。平和な世界に生きるはずの彼等の表情が、一様に疲れ切っている様にも見えた。
何か聞こえる。
「セシルくん。急に立ち止まってどうしたの?」
周囲の喧噪に紛れて微かに歌が聞こえる。
「歌が聴こえませんか?」
「向こうの方で、ストリートミュージシャンが歌ってる歌の事かな?気になるんなら、少し聴いて行こうか~」
僕達は少し離れた場所で歌う、ストリートミュージシャンの目の前に立った。
彼は長い髪を振り乱しながら、マイクを片手に、行き交う人々の心に向かって、叫ぶ様に歌っている。
TEAL GAME
空を飛ぶ小鴨は見た
狩られる刹那、天地は逆転
食事も忘れる程の思い
お前ならきっと見つけ出せるさ
答えはそこで待ってる
いつの間にか涙が出ていた。
この歌の何が僕の心をこんなにも震わせたのだろう。理屈では説明出来ない、人を感動させる不思議な力がこの歌にはあるのかもしれない。
歌い終えたミュージシャンは、足を止めて歌に聴き入っていた僕達に興味を示した。
「嬉しいな。俺の歌でこんなに感動してくれたのは君が初めてだ。そんなに、この歌を気に入ってくれたのか?」
「ええ。この歌の詞は、あなたが考えたのですか」
彼は一瞬戸惑った様な表情を見せた。
「ああそうだよ。でも不思議なんだ。夢の中でこの歌詞が浮かんで、一言一句、起きた時にもはっきりそれを憶えていたんだ」
「そうなんですね。何だかこの歌に勇気を貰いました」
「そう言って貰えると嬉しいよ。大体いつもこの辺で歌ってるから、気が向いたら、またいつでも聴きに来てくれ」
「はい。ありがとう御座います」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~
仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。 そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。
しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。
ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。
武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」 登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。
これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる