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14話 Cecil
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愛に引っ張られるがまま、セシルと陽菜は翔の部屋へと足を踏み入れた。
そこで二人は思わず目を瞠った。その部屋からは何ら生活の匂いがしなかったのだ。何も無い空っぽの空間。生活感が溢れる居宅にあって、そこだけが唯一隔離され、異質な雰囲気を漂わせている。
そう言えば、教室を出る時に陽菜さんが、彼が直前まで読んでいた参考書が消えてると言った。その時はあまり気にも留めなかったが、もしかすると、彼の生活圏において、何らかの変質が生じたのではなかろうか。
「翔お兄ちゃんのお部屋。朝まではちゃんと翔お兄ちゃんの物で一杯だったの。でも急に何も無くなってて、パパとママはここはずっと空き部屋だったて言うし、アイの部屋にあった翔お兄ちゃんと一緒に撮った写真も翔お兄ちゃんの所だけ消えてるし・・・アイ、分からなくなったの。翔お兄ちゃんはちゃんと存在するよね?もう少ししたら、いつもみたいに、ただいまって帰って来るよね?」
陽菜さんは何も言わず、愛ちゃんを強く抱きしめた。
翔さんは確かに実在する。しかし、今どこに居て、いつ戻って来るのかは誰にも分からない。
陽菜さんは、待ってればすぐにでも彼が帰ってくるなどと、確証のない事を言って、幼い愛ちゃんを誤魔化したく無かった。
愛ちゃんは今では父親と母親に対して不信感を抱いている。そんな状況で、陽菜さんまでもが、適当な事を言って、彼女の期待を裏切ってしまっては、それこそ残酷だと思ったのだ。
この大掛かりな不思議な現象が、もし人為的な物だとするならば、それは人智を越えた途轍もない力である。
もし、人為的なもので無いとするならば、世界の法則、それ自体が変わり始めたのだろうか。だとするなら、なぜ、陽菜さん、白百合先生、愛ちゃんの三人は、生きていた痕跡が消失した翔さんの記憶を保持し続ける事が出来たのだろうか。
「いつになるか、はっきりとは分からないけど、翔は必ず帰って来る。だから、誰に何て言われようと、愛ちゃんは、翔は必ず居るんだって信じて待ってあげて。それでも、不安に思う時があったら、お姉ちゃんにいつでも電話して。約束だからね。」
外に出ると、遠くに見える夕日が今にも沈みそうであった。微かに肌寒さも感じる。二人並んで歩みを進める。
恐らく陽菜さんは、翔さんや愛さんの事を思い耽けているのだろう。時折彼女は、こちらに顔を向け何か言いたそうにするが、結局、何も言わぬまま、また正面を向く。
『・・・けて』
路地裏の方から声が聞こえた気がした。
「何か声が聞こえませんでしたか?」
小さな男の子二人が、僕達の横を掠めた。
「今すれ違った子達かしら?」
「いえ違います。何だか苦しんでいる様な声が・・・」
『だれか、たすけて』
今度はハッキリと聞こえた、助けを呼ぶ声が。
僕が持つ、勇者としての特性の一つ。危殆に瀕する人の、助けを呼ぶ声は決して聞き逃さない。それは、細い糸の様に、か細く弱い声であったが為に、耳に届くまでに時間が掛かってしまった。
「陽菜さん。すぐ戻りますから、ここで待っていて下さい」
「えっ?セシルくん。どうしたの?」
声が発せられた場所へと急ぐ。
ここか。
地面にへたり込んでいる少女の姿が目に飛び込んだ。
彼女の視線の先を追う。
視線の先には、蒼白い邪悪な顔をした半透明の靄があった。
その靄は、大きな口を開け、今にも彼女に襲い掛からんとしている。
あれは、ゴースト?
陽菜さんの話ではこの世界にはモンスターや魔物は存在しないはず。魔物の一種とされるゴーストが、なぜこんな所に居るのだろうか。
そんな事を考えるより、今は彼女を助ける事が先決だ。
ゴーストには物理攻撃が通用しない。
ならば。
「ファイヤー」
四元素の炎の魔法を唱える。
不発?
そうか、この世界では魔法が使えないんだ。
「立てますか?早くここから逃げましょう」
少女の手を掴み、脇目も振らず、ひたすら走る。
ゴーストとの距離が気になり、一瞬後ろを振り向く。
ゴーストは一歩も動いていない。
『キィーーー』
けたたましい声に思わず耳を塞ぐ。
ガラス窓が割れ、驟雨の如く激しく降り注ぐ。
猛烈な勢いで、一直線にこちらに向かって来る。
このままでは逃げ切れない。
ゴーストとの戦闘経験が乏しかった事が今になって悔やまれる。
そもそもゴーストは、炎の魔法が使える者であれば、簡単に倒せる相手である。だからこれまで、僕がゴースト退治を依頼された事はほとんど無かった。
勇者として、せめて彼女だけは救いたい。
「僕がここでヤツを足止めします。その隙にあなたは、ここから逃げて下さい」
「何を言ってるんですか。あなたも一緒に逃げましょう」
「このままでは、二人とも助かりません。だから僕にせめて、あなただは助けさせて下さい」
ゴーストは生者の生気を吸い取り、それを糧として生きている。命が尽きるまで、ヤツに生気を与え続ければ、その間だけは足止め出来る。
覚悟を決めた時に、一つの考えが浮かんだ。
待てよ。もしかすると、四元素の魔法が使えなくても、その由来を異とする、光魔法と闇魔法なら・・・。試してみる価値はある。
ゴーストに向かって手を翳す。
これでダメなら、万事休すだ。
「ホーリーブライト!」
眩い光がゴーストを包み込んだ。
ゴーストは、唸り声を上げながら、光の消失と共に跡形も無く消え去った。
そこで二人は思わず目を瞠った。その部屋からは何ら生活の匂いがしなかったのだ。何も無い空っぽの空間。生活感が溢れる居宅にあって、そこだけが唯一隔離され、異質な雰囲気を漂わせている。
そう言えば、教室を出る時に陽菜さんが、彼が直前まで読んでいた参考書が消えてると言った。その時はあまり気にも留めなかったが、もしかすると、彼の生活圏において、何らかの変質が生じたのではなかろうか。
「翔お兄ちゃんのお部屋。朝まではちゃんと翔お兄ちゃんの物で一杯だったの。でも急に何も無くなってて、パパとママはここはずっと空き部屋だったて言うし、アイの部屋にあった翔お兄ちゃんと一緒に撮った写真も翔お兄ちゃんの所だけ消えてるし・・・アイ、分からなくなったの。翔お兄ちゃんはちゃんと存在するよね?もう少ししたら、いつもみたいに、ただいまって帰って来るよね?」
陽菜さんは何も言わず、愛ちゃんを強く抱きしめた。
翔さんは確かに実在する。しかし、今どこに居て、いつ戻って来るのかは誰にも分からない。
陽菜さんは、待ってればすぐにでも彼が帰ってくるなどと、確証のない事を言って、幼い愛ちゃんを誤魔化したく無かった。
愛ちゃんは今では父親と母親に対して不信感を抱いている。そんな状況で、陽菜さんまでもが、適当な事を言って、彼女の期待を裏切ってしまっては、それこそ残酷だと思ったのだ。
この大掛かりな不思議な現象が、もし人為的な物だとするならば、それは人智を越えた途轍もない力である。
もし、人為的なもので無いとするならば、世界の法則、それ自体が変わり始めたのだろうか。だとするなら、なぜ、陽菜さん、白百合先生、愛ちゃんの三人は、生きていた痕跡が消失した翔さんの記憶を保持し続ける事が出来たのだろうか。
「いつになるか、はっきりとは分からないけど、翔は必ず帰って来る。だから、誰に何て言われようと、愛ちゃんは、翔は必ず居るんだって信じて待ってあげて。それでも、不安に思う時があったら、お姉ちゃんにいつでも電話して。約束だからね。」
外に出ると、遠くに見える夕日が今にも沈みそうであった。微かに肌寒さも感じる。二人並んで歩みを進める。
恐らく陽菜さんは、翔さんや愛さんの事を思い耽けているのだろう。時折彼女は、こちらに顔を向け何か言いたそうにするが、結局、何も言わぬまま、また正面を向く。
『・・・けて』
路地裏の方から声が聞こえた気がした。
「何か声が聞こえませんでしたか?」
小さな男の子二人が、僕達の横を掠めた。
「今すれ違った子達かしら?」
「いえ違います。何だか苦しんでいる様な声が・・・」
『だれか、たすけて』
今度はハッキリと聞こえた、助けを呼ぶ声が。
僕が持つ、勇者としての特性の一つ。危殆に瀕する人の、助けを呼ぶ声は決して聞き逃さない。それは、細い糸の様に、か細く弱い声であったが為に、耳に届くまでに時間が掛かってしまった。
「陽菜さん。すぐ戻りますから、ここで待っていて下さい」
「えっ?セシルくん。どうしたの?」
声が発せられた場所へと急ぐ。
ここか。
地面にへたり込んでいる少女の姿が目に飛び込んだ。
彼女の視線の先を追う。
視線の先には、蒼白い邪悪な顔をした半透明の靄があった。
その靄は、大きな口を開け、今にも彼女に襲い掛からんとしている。
あれは、ゴースト?
陽菜さんの話ではこの世界にはモンスターや魔物は存在しないはず。魔物の一種とされるゴーストが、なぜこんな所に居るのだろうか。
そんな事を考えるより、今は彼女を助ける事が先決だ。
ゴーストには物理攻撃が通用しない。
ならば。
「ファイヤー」
四元素の炎の魔法を唱える。
不発?
そうか、この世界では魔法が使えないんだ。
「立てますか?早くここから逃げましょう」
少女の手を掴み、脇目も振らず、ひたすら走る。
ゴーストとの距離が気になり、一瞬後ろを振り向く。
ゴーストは一歩も動いていない。
『キィーーー』
けたたましい声に思わず耳を塞ぐ。
ガラス窓が割れ、驟雨の如く激しく降り注ぐ。
猛烈な勢いで、一直線にこちらに向かって来る。
このままでは逃げ切れない。
ゴーストとの戦闘経験が乏しかった事が今になって悔やまれる。
そもそもゴーストは、炎の魔法が使える者であれば、簡単に倒せる相手である。だからこれまで、僕がゴースト退治を依頼された事はほとんど無かった。
勇者として、せめて彼女だけは救いたい。
「僕がここでヤツを足止めします。その隙にあなたは、ここから逃げて下さい」
「何を言ってるんですか。あなたも一緒に逃げましょう」
「このままでは、二人とも助かりません。だから僕にせめて、あなただは助けさせて下さい」
ゴーストは生者の生気を吸い取り、それを糧として生きている。命が尽きるまで、ヤツに生気を与え続ければ、その間だけは足止め出来る。
覚悟を決めた時に、一つの考えが浮かんだ。
待てよ。もしかすると、四元素の魔法が使えなくても、その由来を異とする、光魔法と闇魔法なら・・・。試してみる価値はある。
ゴーストに向かって手を翳す。
これでダメなら、万事休すだ。
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眩い光がゴーストを包み込んだ。
ゴーストは、唸り声を上げながら、光の消失と共に跡形も無く消え去った。
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