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15話 Cecil
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セシルは自らが放った魔法により、ゴーストが完全に消失したのを確認すると、安堵感からその場に崩れ落ちた。
魔法の才に乏しかった彼は、ごく初歩的な魔法が使えるのみであった。これ以上の魔法の習得は諦め、得意とする剣の修行に多くの時を費やしたのだ。その中で、彼が唯一習得していた光魔法が、ゴーストに有効だったのはまさに不幸中の幸いであった。
少し離れた建物の陰から、様子を見守っていた少女は、セシルの元へ駆け寄った。
「あ・・・、ありがとう、ございます」
彼女は唇を震わせ、小さく言った。長い髪を垂らしながら、目元は髪で隠したまま、深々といつまでも頭を下げた。それが、口下手な彼女なりの精一杯の謝意の表し方なのであろう事は、僕にもすぐに理解出来た。
伏し目がちな彼女の身体が凍り付いた。
「怪我してる・・・私のせいで、ごめんなさい」
どうやら激しく動いたが為に、魔王との闘いで負った傷が開いたらしい。
「この傷は違うんだ。ここに来る前に・・・」
彼女はスカートのポケットからハンカチを取り出し、何かに取り憑かれたかの様に、一心不乱に血を拭った。
「私のせいで・・・ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・」
自らを責めながら、細い声で頻りに繰り返す姿に申し訳なさを感じる。
改めて彼女をよく見てみると、服の下から痛々しい痣や擦り傷があるのが分かった。ゴーストからの直接的な攻撃を受けたのでは無く、逃げる途中に負ったものなのだろうか。だとしても、ここまでの傷を負うのは異常とも思える。
「あなたの方こそ、怪我をしているじゃないですか。痛くありませんか?」
彼女は小さく首を縦に振った。
目元が髪で隠れているせいで、本当に痛くないのか、表情から読み取る事は出来ない。僕に回復魔法が使えたのなら、彼女の傷を癒す事も出来ただろうに。
「今日みたいに、ゴーストに襲われる事はよくあるのですか?」
彼女は首を横に振る。
「セシルくん、こんな所に居たの」
僕達から少し離れた場所から、陽菜さんの声が聞こえた。
彼女はどうやら僕の戻りが遅かったので、心配して探し回ってくれていたらしい。
陽菜さんは血を拭ってくれていた彼女に視線を向ける。
「あれ?あなたは確か・・・」
陽菜さんがこちらに歩み寄ると、彼女は慌てて鞄を拾い上げ、逃げる様にしてその場から去ってしまった。
「さっきの少女。どなたかご存知なんですか?」
「う~ん・・・。ハッキリと顔は見えなかったけど、私と同じ制服だったし、話した事は無いんだけど、多分ね、隣のクラスの七海ちゃんじゃないかな~。でも、どうして彼女の事がそんなに気になるの?」
「このハンカチを洗って返したかったので」
それだけでは無かった。短く言葉を交わしただけで、顔もちゃんと見えなかった彼女の事が、どうしてこんなに気になるのか、自分でも説明が出来ない。
「へぇ~。可愛いハンカチだこと。私をほっぽらかしておいて、こんな人目の付かない所で、二人きりで一体何をしてたのかしらね~」
「決して陽菜さんをほっぽらかしていた訳ではありませんし、誤解です」
「も~。ちゃんと分かってますよ~だ。セシルくんはそんな薄情な人じゃないって事くらい」
「彼女と、ここで会ったはの偶然でした。助けを呼ぶ声が聞こえたと思って来てみたら、彼女がゴーストに襲われていたのです。陽菜さんはこの世界にモンスターや魔物の類は存在しないと言ってましたが、もしかすると、彼等は人知れず、人間達を襲っているのではないでしょうか?」
「そんな話聞いた事ないけど、もしかして、ゴーストって幽霊の事かな?私は霊感が無いから、直接見た事はないんだけどね。心霊番組で幽霊らしきものは見た事があるわ。へぇ~。幽霊ってホントに存在するんだ~」
ゴーストに関しては、僕の世界においても、解明されていない事が非常に多い。どこから来て、何を目的としているのか、その一切が不明である。
「ここでは、幽霊は一般的に、どの様に認識されているのでしょうか」
「そうね・・・。未練を残して死んだ人が、成仏出来ずに霊魂となって現世を彷徨い、それが一般的には幽霊って呼ばれているかな。人に取り憑いて、悪さをする幽霊も居るから、あんまり歓迎はされていないのよね」
僕の世界に存在するゴーストと、この世界に存在する幽霊とを、短絡的に同一のモノであると結び付ける訳にはいかない。ゴーストが、死んだ人間が霊魂となった姿であるならば、何も知らなかったとは言え、僕は人の魂を何の躊躇いも無く葬り去っていた事になる。
先程の幽霊の姿が思い出される。モヤの中から浮かび上がっていたのは、人の顔に近かった。
「霊感の有無によって、幽霊が見えたり見えなかったりするのですか?」
「そうよ。霊感が特に強い、霊能者って呼ばれる人の中には、除霊が出来る人も居たと思うわ。そう言えば、彼女と前に同じクラスだった子から聞いたんだけど、七海ちゃんも霊感があるみたいよ。高校一年の頃までは、周りの子達にも幽霊の話を、よくしてたみたい。それが、ある事が切っ掛けで幽霊の話は一切しなくなったらしいの。しかも、それだけじゃなくて、その切っ掛けとなる出来事があってからは、人を遠ざける様になって、今でもクラスの中では孤立してるらしいの」
「彼女を変えたある事って何だったんでしょうか」
「私もそれが気になって友達に尋ねたのよ。だけど彼女は、私の口からは話せないって、口を噤んじゃったものだから、結局分からず仕舞い」
魔法の才に乏しかった彼は、ごく初歩的な魔法が使えるのみであった。これ以上の魔法の習得は諦め、得意とする剣の修行に多くの時を費やしたのだ。その中で、彼が唯一習得していた光魔法が、ゴーストに有効だったのはまさに不幸中の幸いであった。
少し離れた建物の陰から、様子を見守っていた少女は、セシルの元へ駆け寄った。
「あ・・・、ありがとう、ございます」
彼女は唇を震わせ、小さく言った。長い髪を垂らしながら、目元は髪で隠したまま、深々といつまでも頭を下げた。それが、口下手な彼女なりの精一杯の謝意の表し方なのであろう事は、僕にもすぐに理解出来た。
伏し目がちな彼女の身体が凍り付いた。
「怪我してる・・・私のせいで、ごめんなさい」
どうやら激しく動いたが為に、魔王との闘いで負った傷が開いたらしい。
「この傷は違うんだ。ここに来る前に・・・」
彼女はスカートのポケットからハンカチを取り出し、何かに取り憑かれたかの様に、一心不乱に血を拭った。
「私のせいで・・・ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・」
自らを責めながら、細い声で頻りに繰り返す姿に申し訳なさを感じる。
改めて彼女をよく見てみると、服の下から痛々しい痣や擦り傷があるのが分かった。ゴーストからの直接的な攻撃を受けたのでは無く、逃げる途中に負ったものなのだろうか。だとしても、ここまでの傷を負うのは異常とも思える。
「あなたの方こそ、怪我をしているじゃないですか。痛くありませんか?」
彼女は小さく首を縦に振った。
目元が髪で隠れているせいで、本当に痛くないのか、表情から読み取る事は出来ない。僕に回復魔法が使えたのなら、彼女の傷を癒す事も出来ただろうに。
「今日みたいに、ゴーストに襲われる事はよくあるのですか?」
彼女は首を横に振る。
「セシルくん、こんな所に居たの」
僕達から少し離れた場所から、陽菜さんの声が聞こえた。
彼女はどうやら僕の戻りが遅かったので、心配して探し回ってくれていたらしい。
陽菜さんは血を拭ってくれていた彼女に視線を向ける。
「あれ?あなたは確か・・・」
陽菜さんがこちらに歩み寄ると、彼女は慌てて鞄を拾い上げ、逃げる様にしてその場から去ってしまった。
「さっきの少女。どなたかご存知なんですか?」
「う~ん・・・。ハッキリと顔は見えなかったけど、私と同じ制服だったし、話した事は無いんだけど、多分ね、隣のクラスの七海ちゃんじゃないかな~。でも、どうして彼女の事がそんなに気になるの?」
「このハンカチを洗って返したかったので」
それだけでは無かった。短く言葉を交わしただけで、顔もちゃんと見えなかった彼女の事が、どうしてこんなに気になるのか、自分でも説明が出来ない。
「へぇ~。可愛いハンカチだこと。私をほっぽらかしておいて、こんな人目の付かない所で、二人きりで一体何をしてたのかしらね~」
「決して陽菜さんをほっぽらかしていた訳ではありませんし、誤解です」
「も~。ちゃんと分かってますよ~だ。セシルくんはそんな薄情な人じゃないって事くらい」
「彼女と、ここで会ったはの偶然でした。助けを呼ぶ声が聞こえたと思って来てみたら、彼女がゴーストに襲われていたのです。陽菜さんはこの世界にモンスターや魔物の類は存在しないと言ってましたが、もしかすると、彼等は人知れず、人間達を襲っているのではないでしょうか?」
「そんな話聞いた事ないけど、もしかして、ゴーストって幽霊の事かな?私は霊感が無いから、直接見た事はないんだけどね。心霊番組で幽霊らしきものは見た事があるわ。へぇ~。幽霊ってホントに存在するんだ~」
ゴーストに関しては、僕の世界においても、解明されていない事が非常に多い。どこから来て、何を目的としているのか、その一切が不明である。
「ここでは、幽霊は一般的に、どの様に認識されているのでしょうか」
「そうね・・・。未練を残して死んだ人が、成仏出来ずに霊魂となって現世を彷徨い、それが一般的には幽霊って呼ばれているかな。人に取り憑いて、悪さをする幽霊も居るから、あんまり歓迎はされていないのよね」
僕の世界に存在するゴーストと、この世界に存在する幽霊とを、短絡的に同一のモノであると結び付ける訳にはいかない。ゴーストが、死んだ人間が霊魂となった姿であるならば、何も知らなかったとは言え、僕は人の魂を何の躊躇いも無く葬り去っていた事になる。
先程の幽霊の姿が思い出される。モヤの中から浮かび上がっていたのは、人の顔に近かった。
「霊感の有無によって、幽霊が見えたり見えなかったりするのですか?」
「そうよ。霊感が特に強い、霊能者って呼ばれる人の中には、除霊が出来る人も居たと思うわ。そう言えば、彼女と前に同じクラスだった子から聞いたんだけど、七海ちゃんも霊感があるみたいよ。高校一年の頃までは、周りの子達にも幽霊の話を、よくしてたみたい。それが、ある事が切っ掛けで幽霊の話は一切しなくなったらしいの。しかも、それだけじゃなくて、その切っ掛けとなる出来事があってからは、人を遠ざける様になって、今でもクラスの中では孤立してるらしいの」
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