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16話 Cecil
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周囲の建物を見下ろすタワーマンションを前に、セシルと陽菜は思わず息を呑んだ。
これから生活を共にする白百合先生の友人は一体どの様な人物なのだろうか。
エントランス前で陽菜と別れたセシルは、目的の玄関ドアの前に立ち、インターホンを鳴らした。
「はいよぉ」
ボサボサの髪を掻きながら、襟元のよれたシャツに短パン姿の男性が、面倒臭そうに扉を開けた。
「初めまして、僕は白百合先生から、こちらのお宅を紹介して頂きました、名前をセシルと申します。どうぞ宜しくお願い致します。」
「ああ、聞いてる。そんなとこに突っ立ってないで、さっさと入んな」
石山一と名乗る白百合先生の友人は、一見ぶっきらぼうに見えるが、案外、面倒見は良かった。家の中のどこに何があるかを、その使い方も含めて懇切丁寧に教えてくれたのだ。
広々とした室内は、どの部屋もこざっぱりとしており、必要最低限の物しか置かれていない。玄関を上がって直ぐ左に位置する鍵の掛かった洋室が一さんの寝室であり、その部屋以外はどこでも自由に使って構わないと言われた。僕はバルコニー横の洋室に荷物を置いた。
キッチン横の冷蔵庫を開けた彼が舌打ちをした。
「バカ野郎!酒の一本も冷えてねーのかよ!」
酒で喉を潤そうとしていた彼は、冷蔵庫に対して悪態をついた。酒どころか、冷蔵庫の中には何も入ってかった。
「セシルって言ったっけ?腹減って無いか?」
コンビニの多種多様な品揃を前に、セシルは驚嘆を禁じ得なかった。
頭のてっぺんから足の爪先まで僕を眺めた一さんは、食料品を入れた買い物かごの上に下着や日用品を詰め込んだ。
この世界の通貨を持たない僕は、家に泊めて貰うだけでなく、日用品などの支払いも全て彼にさせてしまった事に申し訳なさを感じる。
コンビニを出ると、セシルは一の目の前に立ち、深々と頭を下げた。
「何から何まで、一さんに甘えっきりで、本当に申し訳御座いません」
「気にするなって。それに礼を言うんだったら白百合さんに言うんだな。お前の為の生活費をくれたのも、あんな広い部屋を手配してくれたのも、全部あの人なんだから」
「えっ?そうなのですか?白百合先生からは、一さんがルームシェアする人を探してるからと聞いていたのですが・・・」
彼は額に掌を当て、気まずそうな顔を見せた。
「やっちまった・・・。今、俺が言った事は全部忘れろ。って言っても忘れらねえか・・・」
「今の話、本当なのですか?」
「お前が直接、白百合さんに聞く様な事があっては、俺としては非常に困るからな・・・。絶対に本人には言うんじゃねえぞ!」
「はい。約束します」
「あの家の所有者ってのは白百合さんなんだ。俺はっていうと、普段は独り黴臭いボロアパートに住んでいる。それが、今日の夕方、彼女から電話があって、お前の面倒を見てやってくれないかって懇願されたんだ。彼女が俺を頼るなんて事、今まで一度も無かった。傍から見ると馬鹿かと思われるだろうが、彼女が初めて俺を頼ってくれた事が、飛び上がる程、嬉しかったんだぜ。その数分後だったろうか、彼女から俺の口座宛てに、大金が振り込まれた。そんな大金、要らないって言ったんだが、彼女は頑として譲らなかった。そして、こう言ったんだ。彼に住む家と生活費を提供しているのが私だって事は絶対に言わないで。全部あなたからだって事にしといてと」
どうして、白百合先生は初対面の僕にここまで親切なのだろう。これまでのお礼を言って恩返しをしたい。しかし、一さんが口止めされていた話を無理に問い質して得た情報なのだから、それを安易に彼女に言ってしまっては、二人の信頼関係に亀裂を入れる事にもなり兼ねない。何より彼女はこれらの善意を僕に知られまいとしているのだ。もどかしいが、何も知らない振りをするより外ない。
「どうして白百合先生は、見ず知らずの僕を、こんなにも気に掛けてくれるのでしょうか?」
「さあな。俺には分かんねぇ。だが、一つ言えんのは、お前は特別だって事だ。ホント羨ましいぜ」
「一さんは、もしかして白百合先生を愛しているのですか?」
「ガキが余計な事を勘ぐるんじゃねぇ。あの人にはずっと待ち続けている人が居るんだ。だから俺がどんなに彼女を好きでも片思いにしかなんねぇんだよ。何より、あの人は俺の命の恩人だ。彼女が幸せになってくれれば俺はそれで十分だ。俺のこの命は、助けて貰ったあの日から、彼女に捧げる為にあるのだから」
彼は星空を見上げ、右の拳で心臓を二回叩いてみせた。
「一さんありがとう御座います」
「だからそれは白百合さんに・・・」「僕は一さんにもお礼を言いたかったのです。白百合先生の頼みであったのは分かります。だけど、右も左も分からない状況の中、こうして隣に一さんが居て下さるお陰で、今の僕は救われているのですから」
「バカ野郎!木っ端ずかしい事言うんじゃねぇ」
一さんは照れながら僕を軽く小突いた。
「さっき、ああは言ったが、お前の口から白百合さんに、いかに俺が懐の深い素晴らしい男かって事を、さり気なく伝えといてくれよな」
にやけながらそう言った彼は大きな口を開けて豪快に笑った。
これから生活を共にする白百合先生の友人は一体どの様な人物なのだろうか。
エントランス前で陽菜と別れたセシルは、目的の玄関ドアの前に立ち、インターホンを鳴らした。
「はいよぉ」
ボサボサの髪を掻きながら、襟元のよれたシャツに短パン姿の男性が、面倒臭そうに扉を開けた。
「初めまして、僕は白百合先生から、こちらのお宅を紹介して頂きました、名前をセシルと申します。どうぞ宜しくお願い致します。」
「ああ、聞いてる。そんなとこに突っ立ってないで、さっさと入んな」
石山一と名乗る白百合先生の友人は、一見ぶっきらぼうに見えるが、案外、面倒見は良かった。家の中のどこに何があるかを、その使い方も含めて懇切丁寧に教えてくれたのだ。
広々とした室内は、どの部屋もこざっぱりとしており、必要最低限の物しか置かれていない。玄関を上がって直ぐ左に位置する鍵の掛かった洋室が一さんの寝室であり、その部屋以外はどこでも自由に使って構わないと言われた。僕はバルコニー横の洋室に荷物を置いた。
キッチン横の冷蔵庫を開けた彼が舌打ちをした。
「バカ野郎!酒の一本も冷えてねーのかよ!」
酒で喉を潤そうとしていた彼は、冷蔵庫に対して悪態をついた。酒どころか、冷蔵庫の中には何も入ってかった。
「セシルって言ったっけ?腹減って無いか?」
コンビニの多種多様な品揃を前に、セシルは驚嘆を禁じ得なかった。
頭のてっぺんから足の爪先まで僕を眺めた一さんは、食料品を入れた買い物かごの上に下着や日用品を詰め込んだ。
この世界の通貨を持たない僕は、家に泊めて貰うだけでなく、日用品などの支払いも全て彼にさせてしまった事に申し訳なさを感じる。
コンビニを出ると、セシルは一の目の前に立ち、深々と頭を下げた。
「何から何まで、一さんに甘えっきりで、本当に申し訳御座いません」
「気にするなって。それに礼を言うんだったら白百合さんに言うんだな。お前の為の生活費をくれたのも、あんな広い部屋を手配してくれたのも、全部あの人なんだから」
「えっ?そうなのですか?白百合先生からは、一さんがルームシェアする人を探してるからと聞いていたのですが・・・」
彼は額に掌を当て、気まずそうな顔を見せた。
「やっちまった・・・。今、俺が言った事は全部忘れろ。って言っても忘れらねえか・・・」
「今の話、本当なのですか?」
「お前が直接、白百合さんに聞く様な事があっては、俺としては非常に困るからな・・・。絶対に本人には言うんじゃねえぞ!」
「はい。約束します」
「あの家の所有者ってのは白百合さんなんだ。俺はっていうと、普段は独り黴臭いボロアパートに住んでいる。それが、今日の夕方、彼女から電話があって、お前の面倒を見てやってくれないかって懇願されたんだ。彼女が俺を頼るなんて事、今まで一度も無かった。傍から見ると馬鹿かと思われるだろうが、彼女が初めて俺を頼ってくれた事が、飛び上がる程、嬉しかったんだぜ。その数分後だったろうか、彼女から俺の口座宛てに、大金が振り込まれた。そんな大金、要らないって言ったんだが、彼女は頑として譲らなかった。そして、こう言ったんだ。彼に住む家と生活費を提供しているのが私だって事は絶対に言わないで。全部あなたからだって事にしといてと」
どうして、白百合先生は初対面の僕にここまで親切なのだろう。これまでのお礼を言って恩返しをしたい。しかし、一さんが口止めされていた話を無理に問い質して得た情報なのだから、それを安易に彼女に言ってしまっては、二人の信頼関係に亀裂を入れる事にもなり兼ねない。何より彼女はこれらの善意を僕に知られまいとしているのだ。もどかしいが、何も知らない振りをするより外ない。
「どうして白百合先生は、見ず知らずの僕を、こんなにも気に掛けてくれるのでしょうか?」
「さあな。俺には分かんねぇ。だが、一つ言えんのは、お前は特別だって事だ。ホント羨ましいぜ」
「一さんは、もしかして白百合先生を愛しているのですか?」
「ガキが余計な事を勘ぐるんじゃねぇ。あの人にはずっと待ち続けている人が居るんだ。だから俺がどんなに彼女を好きでも片思いにしかなんねぇんだよ。何より、あの人は俺の命の恩人だ。彼女が幸せになってくれれば俺はそれで十分だ。俺のこの命は、助けて貰ったあの日から、彼女に捧げる為にあるのだから」
彼は星空を見上げ、右の拳で心臓を二回叩いてみせた。
「一さんありがとう御座います」
「だからそれは白百合さんに・・・」「僕は一さんにもお礼を言いたかったのです。白百合先生の頼みであったのは分かります。だけど、右も左も分からない状況の中、こうして隣に一さんが居て下さるお陰で、今の僕は救われているのですから」
「バカ野郎!木っ端ずかしい事言うんじゃねぇ」
一さんは照れながら僕を軽く小突いた。
「さっき、ああは言ったが、お前の口から白百合さんに、いかに俺が懐の深い素晴らしい男かって事を、さり気なく伝えといてくれよな」
にやけながらそう言った彼は大きな口を開けて豪快に笑った。
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