光の中へ

佐崎らいむ

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「医者には行ったんですか? 実家ですか? 誰かそばにいますか?」

 一人暮らしで、今日はひたすら籠って寝ていたんだと言う。
 これは放置してたらだめだな、と確信的に思った。

「バイトの方は私が今から店長か杉本さんに相談するんで、寝ててください。それから住んでる部屋教えてください。風邪だったら常備薬いっぱい持ってるし、薬飲むためには消化に良いもの少しは取らなきゃいけないし、差し入れします。だから――」

『いや……、あの』
 三沢君はやんわりと遮るように、ゆっくり言った。

『だいじょうぶ。何とかなると思います。ありがとう……だいじょうぶだから』
 スマホを取り落としそうになった。ゾワリと腕に鳥肌が立つ。

 やはりそうだ。間違いない。
 今朝のあやふやな、正体不明の感情の謎が解け、確信を得た瞬間だった。

 三沢君は、ドラキュラでもウサギでもなかった。

「場所を教えてください。すぐに教えてください。死んでもいいんですか?」

 半ば脅しに近い迫力でワンルームマンションの場所と、今現在の症状を更に詳しく聞きだした後、私はすぐにシフト交代の手配をした。
 いつもはつかまらない店長が奇跡的に電話に出てくれて、機嫌が良かったのか自分が代わりに入ると言ってくれた。

 三沢君のは聞く限り典型的風邪の初期症状だったので薬箱にある常備薬をかき集め、私はすぐに家を飛び出した。

 近くのスーパーで胃に優しくすぐに食べられる食品を買い、バスで8分のところにある彼のマンションのエントランスに飛び込んだ。エレベーターで3階に上がり、305号室のドアフォンを押す頃には、ようやく落ち着いた思考が戻って来た。

 けっこうな距離を急いできたため、バクバクと騒がしい胸の鼓動が、充実感も伴ってやけに心地よい。
 ゆっくりと開いたドアから、熱っぽく目を潤ませた三沢君が顔をのぞかせた。
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