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11.改めて旦那様とのお食事
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私が食堂に来たのはこれで二度目です。
そして、今回もテーブルの向こうには、社交界において最も美しいと言われ、また優れた領主と言われるロベルタ公爵様がお座りになられていました。
一度目の食事で私が勝手に林檎ケーキなどを作りお出ししたせいで、旦那様にはご不快な思いをさせてしまったので、もう二度とこうして食事を一緒にさせて頂く機会などないと思っていたのですが、なぜか改めてお誘いがあったのでした。
ただ、それは恐らく、今日のこの朝食の時間に直接顔を合わせて、私との婚約を破棄するためでしょう。
旦那様はとてもお優しい方です。
公爵領の領民たちの顔を見て、そのことはすぐに分かりました。私の実家の伯爵領の領民たちの顔を見た時の様に、私が心を痛めることはありませんでしたから。
また、私の居場所をご用意くださいましたし、メイドのアンのことも面倒を見て下さることを約束下さいました。
先日は無作法にも勝手に厨房に入り、美味しくもない料理を作ってお出ししてしまったのに、お咎めもありません。シェフの皆さんもきっと私のことを仕事の邪魔に思われていたでしょう。今ならば、旦那様に恩返ししたい一心だったとはいえ、どんなにはしたないことをしてしまったのかと、反省するばかりです。
そんなお優しい旦那様だからこそ、こうしてわざわざ直接顔を合わせて頂く機会を設けてくださったのでしょう。直接、私を城から追放するお沙汰を言うためだけに。
ただ、温情でしょうか、旦那様は先ほどからこちらを時折ご覧になるのですが、何も言われようとしません。
これ以上、恩のある旦那様を苦しめる訳にはいきませんので、自分から申し出ることにしました。
「旦那様。いえ、ロベルタ公爵様。今までお世話になりました」
「なに?」
旦那様が美しい顔を怪訝な色に染められます。
まさか、私から話し出すとは思われませんでしょうから、当然でしょう。また旦那様に失礼なことをしてしまいました。
「すみません。今日お食事に呼んで下さったのは、この無作法ものの私を城から追放するためだと心得ています。この度は長い間、旦那様……失礼しました。公爵様の元に置いて頂いたこと、本当に嬉しく思います。ありがとうございました」
「……」
「ご迷惑をおかけした分を何かで恩返ししたいと思っているのですが、申し訳ありません。私には何もありません。こんな汚れたドレスを売り払っても大した額にもならないでしょう。昔持っていた宝石の類も全て……妹が持って行きましたので持参できた物もなく……。本当に最後までご迷惑をおかけしました」
「……」
公爵様は何もおっしゃらない。
それはそうだろう。私のような迷惑な女にこれ以上かける言葉もないに違いない。
「この半月は本当に幸せでした。小鳥のさえずりで朝起きて、温かいお湯を使わせて身支度もさせて頂けて。お食事もちゃんと味のするものばかりで、飢えることなく過ごすことが出来て、まるで夢の様でした」
だから、
「これ以上は私などにはもったいないです。本当に今までありがとうございました」
「……」
「この食事が終わりましたら、すぐにでもお城を出させていただくつもりで……」
そこまで言いかけた時だった。
「シャノン、君を追い出すつもりはない」
「……え?」
私は想像していなかった言葉に、思わず驚きの声を上げてしまったのでした。
「あの……旦那様……、ではなく、ロベルタ公爵様。なに、を?」
私は戸惑いながら、何とか言葉を口にします。
「公爵様。私のようなものを置いておくと良くないと思います。それに、公爵様には私のようなろくに洗練されていない令嬢より、もっとふさわしい方がいらっしゃるに違いありません」
私は素直なおもいを紡ぎます。
しかし、ロベルタ様はその言葉にその美しい顔をしかめられ、
「君は、君自身をそのように低く言うのはやめろ」
そうはっきりとおっしゃったのでした。
「もうそんな風に自分を卑下するな」
もう一度、念押しとばかりに言われます。
ただ、どうしてそのようなことをおっしゃられるのか、私には分かりません。
私のような何もない女に、なぜそんなことを言ってくださるのでしょうか?
考えられるとしたら、
「わ、わかりました。置いてもらっているのだから、旦那様に恥をかかせないような女にならないと」
この返事でいいのでしょうか?
しかし、旦那様は今度は呆れた表情をされていて……。
でも、なぜかその表情は今までとは違って、どこか優しげにも見えます。
どうしてなのでしょうか。
「それが卑下だと言うんだ。そのままでいいと、俺は言っている」
私は目を見開きました。
そして、とっさに思います。
(そんなことが許されるんだろうか?)
こんな何もない女なのに、そのままでいいと旦那様はおっしゃいます。
しかも、このお城を追放されると思っていたのに、その話はうやむやです。
「ど、どういう」
「おっと、もうこんな時間か。シャノン、今日は急ぎの公務がある。もう失礼させてもらうぞ」
「は、はい」
「お前はゆっくりと食べろ。まずは病気を治すことに専念しろ。また倒れられては迷惑だからな」
「は、はい」
えっと、今のは心配をしてくださった?
どうして?
しかし、そんな風に混乱しているうちに、旦那様はその長く美しい銀髪をなびかせながら、食堂を後にされたのでした。
後には、戸惑って食事どころではない女が一人取り残されたのです。
部屋へと戻ってきて、旦那様のおっしゃった意味や意図を色々考えたのですが、さっぱり分かりません。
その日、ルーダさんが私の容態を心配して部屋に来てくれたので、朝食時にあったことを話して、相談してみたのですが、なぜかルーダさんは、
「ほうほう、旦那様が、ほうほう」
と、なぜか嬉しそうにニコニコとするばかりなのでした。
ただ、その日からなぜか私は旦那様と毎朝朝食をご一緒することになったのです。
そして、今回もテーブルの向こうには、社交界において最も美しいと言われ、また優れた領主と言われるロベルタ公爵様がお座りになられていました。
一度目の食事で私が勝手に林檎ケーキなどを作りお出ししたせいで、旦那様にはご不快な思いをさせてしまったので、もう二度とこうして食事を一緒にさせて頂く機会などないと思っていたのですが、なぜか改めてお誘いがあったのでした。
ただ、それは恐らく、今日のこの朝食の時間に直接顔を合わせて、私との婚約を破棄するためでしょう。
旦那様はとてもお優しい方です。
公爵領の領民たちの顔を見て、そのことはすぐに分かりました。私の実家の伯爵領の領民たちの顔を見た時の様に、私が心を痛めることはありませんでしたから。
また、私の居場所をご用意くださいましたし、メイドのアンのことも面倒を見て下さることを約束下さいました。
先日は無作法にも勝手に厨房に入り、美味しくもない料理を作ってお出ししてしまったのに、お咎めもありません。シェフの皆さんもきっと私のことを仕事の邪魔に思われていたでしょう。今ならば、旦那様に恩返ししたい一心だったとはいえ、どんなにはしたないことをしてしまったのかと、反省するばかりです。
そんなお優しい旦那様だからこそ、こうしてわざわざ直接顔を合わせて頂く機会を設けてくださったのでしょう。直接、私を城から追放するお沙汰を言うためだけに。
ただ、温情でしょうか、旦那様は先ほどからこちらを時折ご覧になるのですが、何も言われようとしません。
これ以上、恩のある旦那様を苦しめる訳にはいきませんので、自分から申し出ることにしました。
「旦那様。いえ、ロベルタ公爵様。今までお世話になりました」
「なに?」
旦那様が美しい顔を怪訝な色に染められます。
まさか、私から話し出すとは思われませんでしょうから、当然でしょう。また旦那様に失礼なことをしてしまいました。
「すみません。今日お食事に呼んで下さったのは、この無作法ものの私を城から追放するためだと心得ています。この度は長い間、旦那様……失礼しました。公爵様の元に置いて頂いたこと、本当に嬉しく思います。ありがとうございました」
「……」
「ご迷惑をおかけした分を何かで恩返ししたいと思っているのですが、申し訳ありません。私には何もありません。こんな汚れたドレスを売り払っても大した額にもならないでしょう。昔持っていた宝石の類も全て……妹が持って行きましたので持参できた物もなく……。本当に最後までご迷惑をおかけしました」
「……」
公爵様は何もおっしゃらない。
それはそうだろう。私のような迷惑な女にこれ以上かける言葉もないに違いない。
「この半月は本当に幸せでした。小鳥のさえずりで朝起きて、温かいお湯を使わせて身支度もさせて頂けて。お食事もちゃんと味のするものばかりで、飢えることなく過ごすことが出来て、まるで夢の様でした」
だから、
「これ以上は私などにはもったいないです。本当に今までありがとうございました」
「……」
「この食事が終わりましたら、すぐにでもお城を出させていただくつもりで……」
そこまで言いかけた時だった。
「シャノン、君を追い出すつもりはない」
「……え?」
私は想像していなかった言葉に、思わず驚きの声を上げてしまったのでした。
「あの……旦那様……、ではなく、ロベルタ公爵様。なに、を?」
私は戸惑いながら、何とか言葉を口にします。
「公爵様。私のようなものを置いておくと良くないと思います。それに、公爵様には私のようなろくに洗練されていない令嬢より、もっとふさわしい方がいらっしゃるに違いありません」
私は素直なおもいを紡ぎます。
しかし、ロベルタ様はその言葉にその美しい顔をしかめられ、
「君は、君自身をそのように低く言うのはやめろ」
そうはっきりとおっしゃったのでした。
「もうそんな風に自分を卑下するな」
もう一度、念押しとばかりに言われます。
ただ、どうしてそのようなことをおっしゃられるのか、私には分かりません。
私のような何もない女に、なぜそんなことを言ってくださるのでしょうか?
考えられるとしたら、
「わ、わかりました。置いてもらっているのだから、旦那様に恥をかかせないような女にならないと」
この返事でいいのでしょうか?
しかし、旦那様は今度は呆れた表情をされていて……。
でも、なぜかその表情は今までとは違って、どこか優しげにも見えます。
どうしてなのでしょうか。
「それが卑下だと言うんだ。そのままでいいと、俺は言っている」
私は目を見開きました。
そして、とっさに思います。
(そんなことが許されるんだろうか?)
こんな何もない女なのに、そのままでいいと旦那様はおっしゃいます。
しかも、このお城を追放されると思っていたのに、その話はうやむやです。
「ど、どういう」
「おっと、もうこんな時間か。シャノン、今日は急ぎの公務がある。もう失礼させてもらうぞ」
「は、はい」
「お前はゆっくりと食べろ。まずは病気を治すことに専念しろ。また倒れられては迷惑だからな」
「は、はい」
えっと、今のは心配をしてくださった?
どうして?
しかし、そんな風に混乱しているうちに、旦那様はその長く美しい銀髪をなびかせながら、食堂を後にされたのでした。
後には、戸惑って食事どころではない女が一人取り残されたのです。
部屋へと戻ってきて、旦那様のおっしゃった意味や意図を色々考えたのですが、さっぱり分かりません。
その日、ルーダさんが私の容態を心配して部屋に来てくれたので、朝食時にあったことを話して、相談してみたのですが、なぜかルーダさんは、
「ほうほう、旦那様が、ほうほう」
と、なぜか嬉しそうにニコニコとするばかりなのでした。
ただ、その日からなぜか私は旦那様と毎朝朝食をご一緒することになったのです。
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