わたしはあなたの隣で幸せに咲く

初枝れんげ@出版『追放嬉しい』『孤児院』

文字の大きさ
11 / 27

11.改めて旦那様とのお食事

しおりを挟む
私が食堂に来たのはこれで二度目です。

そして、今回もテーブルの向こうには、社交界において最も美しいと言われ、また優れた領主と言われるロベルタ公爵様がお座りになられていました。

一度目の食事で私が勝手に林檎ケーキなどを作りお出ししたせいで、旦那様にはご不快な思いをさせてしまったので、もう二度とこうして食事を一緒にさせて頂く機会などないと思っていたのですが、なぜか改めてお誘いがあったのでした。

ただ、それは恐らく、今日のこの朝食の時間に直接顔を合わせて、私との婚約を破棄するためでしょう。

旦那様はとてもお優しい方です。

公爵領の領民たちの顔を見て、そのことはすぐに分かりました。私の実家の伯爵領の領民たちの顔を見た時の様に、私が心を痛めることはありませんでしたから。

また、私の居場所をご用意くださいましたし、メイドのアンのことも面倒を見て下さることを約束下さいました。

先日は無作法にも勝手に厨房に入り、美味しくもない料理を作ってお出ししてしまったのに、お咎めもありません。シェフの皆さんもきっと私のことを仕事の邪魔に思われていたでしょう。今ならば、旦那様に恩返ししたい一心だったとはいえ、どんなにはしたないことをしてしまったのかと、反省するばかりです。

そんなお優しい旦那様だからこそ、こうしてわざわざ直接顔を合わせて頂く機会を設けてくださったのでしょう。直接、私を城から追放するお沙汰を言うためだけに。

ただ、温情でしょうか、旦那様は先ほどからこちらを時折ご覧になるのですが、何も言われようとしません。

これ以上、恩のある旦那様を苦しめる訳にはいきませんので、自分から申し出ることにしました。

「旦那様。いえ、ロベルタ公爵様。今までお世話になりました」

「なに?」

旦那様が美しい顔を怪訝な色に染められます。

まさか、私から話し出すとは思われませんでしょうから、当然でしょう。また旦那様に失礼なことをしてしまいました。

「すみません。今日お食事に呼んで下さったのは、この無作法ものの私を城から追放するためだと心得ています。この度は長い間、旦那様……失礼しました。公爵様の元に置いて頂いたこと、本当に嬉しく思います。ありがとうございました」

「……」

「ご迷惑をおかけした分を何かで恩返ししたいと思っているのですが、申し訳ありません。私には何もありません。こんな汚れたドレスを売り払っても大した額にもならないでしょう。昔持っていた宝石の類も全て……妹が持って行きましたので持参できた物もなく……。本当に最後までご迷惑をおかけしました」

「……」

公爵様は何もおっしゃらない。

それはそうだろう。私のような迷惑な女にこれ以上かける言葉もないに違いない。

「この半月は本当に幸せでした。小鳥のさえずりで朝起きて、温かいお湯を使わせて身支度もさせて頂けて。お食事もちゃんと味のするものばかりで、飢えることなく過ごすことが出来て、まるで夢の様でした」

だから、

「これ以上は私などにはもったいないです。本当に今までありがとうございました」

「……」

「この食事が終わりましたら、すぐにでもお城を出させていただくつもりで……」

そこまで言いかけた時だった。





「シャノン、君を追い出すつもりはない」

「……え?」

私は想像していなかった言葉に、思わず驚きの声を上げてしまったのでした。

「あの……旦那様……、ではなく、ロベルタ公爵様。なに、を?」

私は戸惑いながら、何とか言葉を口にします。

「公爵様。私のようなものを置いておくと良くないと思います。それに、公爵様には私のようなろくに洗練されていない令嬢より、もっとふさわしい方がいらっしゃるに違いありません」

私は素直なおもいを紡ぎます。

しかし、ロベルタ様はその言葉にその美しい顔をしかめられ、

「君は、君自身をそのように低く言うのはやめろ」

そうはっきりとおっしゃったのでした。

「もうそんな風に自分を卑下するな」

もう一度、念押しとばかりに言われます。

ただ、どうしてそのようなことをおっしゃられるのか、私には分かりません。

私のような何もない女に、なぜそんなことを言ってくださるのでしょうか?

考えられるとしたら、

「わ、わかりました。置いてもらっているのだから、旦那様に恥をかかせないような女にならないと」

この返事でいいのでしょうか?

しかし、旦那様は今度は呆れた表情をされていて……。

でも、なぜかその表情は今までとは違って、どこか優しげにも見えます。

どうしてなのでしょうか。

「それが卑下だと言うんだ。そのままでいいと、俺は言っている」

私は目を見開きました。

そして、とっさに思います。

(そんなことが許されるんだろうか?)

こんな何もない女なのに、そのままでいいと旦那様はおっしゃいます。

しかも、このお城を追放されると思っていたのに、その話はうやむやです。

「ど、どういう」

「おっと、もうこんな時間か。シャノン、今日は急ぎの公務がある。もう失礼させてもらうぞ」

「は、はい」

「お前はゆっくりと食べろ。まずは病気を治すことに専念しろ。また倒れられては迷惑だからな」

「は、はい」

えっと、今のは心配をしてくださった?

どうして?

しかし、そんな風に混乱しているうちに、旦那様はその長く美しい銀髪をなびかせながら、食堂を後にされたのでした。

後には、戸惑って食事どころではない女が一人取り残されたのです。




部屋へと戻ってきて、旦那様のおっしゃった意味や意図を色々考えたのですが、さっぱり分かりません。

その日、ルーダさんが私の容態を心配して部屋に来てくれたので、朝食時にあったことを話して、相談してみたのですが、なぜかルーダさんは、

「ほうほう、旦那様が、ほうほう」

と、なぜか嬉しそうにニコニコとするばかりなのでした。

ただ、その日からなぜか私は旦那様と毎朝朝食をご一緒することになったのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。 小説家になろう様でも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...