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12.お出かけのお誘い
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「シャノン、君のそのドレスだが、ずいぶん長く着ているのではないか?」
「……申し訳ありません。お見苦しいものを」
「だから、君は謝る必要はないと言っただろう。気を付けろ。君は俺の婚約者なのだぞ?」
「……そうでしたね、お優しい旦那様は私に卑下する必要はないとおっしゃってくださったのでした、失礼しました。い、今はまだ、こ、婚約者ですものね」
「ああ、気を付けろよ」
朝食時、ツンとした調子で旦那様に言われました。
ただ、はっきりと婚約者と言われて、はしたないことに頬を赤くなるのを感じます。
(勘違いしてはだめなのに‥‥…)
私はうつむいて内省します。
確かに、先日『君を追い出すつもりはない』とはおっしゃられました。しかし、一晩考えた結果、ずっと私などを置いて下さるという意味ではないということに気づきました。お優しい旦那様のことですから、しばらく体調不良が治るまでは置いてやる。そういう意味だと思います。
(本当に旦那様はお優しい方です)
私などを気にかけてくださる。
早く体の調子をよくして、ご迷惑をおかけしないよう、出て行かないといけませんね。
ただ、
(あの日以来、なぜか毎日朝食を頂くことになっているのは、正直、何が起こっているのか、よく分からないのですが……)
追い出す予定の婚約者と毎朝一緒にいることは、ご多忙の旦那様にとってご負担ではないのでしょうか?
旦那様はお優しいので、気を遣わせているのだと思って心配をします。なので、
「旦那様、お忙しい中、追い出す予定の私などとお食事をわざわざとって頂かなくても……」
そう正直に申し上げることにしました。旦那様の優しさにつけこむつもりはありませんので。
しかし。
「はぁ……」
旦那様は深々と嘆息して、その美しいアイスブルーの瞳を呆れたとばかりに私の方に向けると、
「俺が嫌ならばそうする。黙って一緒に食事をしろ」
「あの、どうしてでしょうか? そもそも婚約者にしても、私のような地味で何のとりえもない貴族令嬢ではなく、もっと相応しい方がいらっしゃると思うのですが。ならばやはり私を追い出して、早めに別の……」
「だからっ、そういう卑下をやめろと言ったはずだぞ」
「す、すみません」
何度も粗相を繰り返してしまい、謝罪する。
ご気分を害してしまったと思った。けれど、
「謝らなくてもいい。……強く言うつもりではなかった。それに、お前はそのままでいいと、前にも言ったつもりだが?」
「え……?」
旦那様は口調こそ厳しめですが、どこか優し気です。それに、顔はそっぽを向いていました。
(もしかして、照れていらっしゃるの?)
いえ、そんなはずはありませんね。
なぜか顔が赤いようにも見えますが、きっと陽光の具合だと察します。
「で、話を戻すが、シャノン、君には豪華なドレスをたくさん衣装ダンスへ用意しておいたはずだ。なぜそれを着ない? 以前、やって来た貴族令嬢どもはそれはそれは目を丸くして喜んでいたようだったが?」
「他の令嬢がたにはよくお似合いになると思います。しかし、私のような者に、あのような美しくて宝石のちりばめられた豪華なものを身にまとうなどおこがましいと思いますので……。このドレスと、あと何着か持参したもので私には十分です」
「ふむ」
コツコツ、と旦那様が考えるように机を指でたたきました。どうされたのでしょうか?
すると、
「シャノン、今日は時間はあるか?」
「え?」
「時間はあるかと聞いているんだが?」
「は、はい。もちろんです。体調もよくなってきましたので、あの美しいお庭を散歩させてもらおうかと思っていますが」
「なら、今日は俺に付き合え。街に出よう」
「え……?」
はしたない声が出てしまいました。
ですが、旦那様の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったのだから、仕方ありません。はしたないことに変わりはないのですが……。
しかし、私はそれよりも気になって尋ねます。
「あの、それはどういう」
「俺のひいきにしている店がある。無論、仕立て屋を呼んでもいいが、時間がかかる。直接行って仕立ててもらうことにしよう」
「えっと、何をでしょうか……」
私は旦那様の迫力にタジタジとなりながら、恐る恐る聞きます。
「無論、君のドレスだ。嫁いで来てくれた君にプレゼントを渡すのは至極当然のことだろう?」
「そ、そんな。私はこのドレスで十分ですので」
「大丈夫だ。君も気に入るような、あまりけばけばしくない、上品なドレスを仕立てさせる。だが、とびきり良い素材を使うから、肌触りなども良いはずだぞ」
「そ、そういうことを言っているのではなくてですね」
「たまには休めとルーダもうるさいのでな。ちょうどよい休暇だ」
「そんなたまの休暇を私などに使われるのは申し訳が」
「おっと、公務の時間だ。では午後にな」
私の言葉を遮るようにして、いきなり旦那様は立ち上がった。
もう、これで話はしまいだ、とでも言うように。
というか、陽光が逸れて、旦那様の美貌を見ると、やはりまだ顔が赤いように思われた。
もとから美しい旦那様の容貌に、色気が付け加わったように思えて、はしたない私は思わずポーっとしてしまう。
そんなことをしているうちに、旦那様は速足で退室してしまった。
「ど、どうしよう……」
いきなり旦那様と街に出ることになってしまった私は、どうしていいものか分からず、途方にくれたのでした。
「……申し訳ありません。お見苦しいものを」
「だから、君は謝る必要はないと言っただろう。気を付けろ。君は俺の婚約者なのだぞ?」
「……そうでしたね、お優しい旦那様は私に卑下する必要はないとおっしゃってくださったのでした、失礼しました。い、今はまだ、こ、婚約者ですものね」
「ああ、気を付けろよ」
朝食時、ツンとした調子で旦那様に言われました。
ただ、はっきりと婚約者と言われて、はしたないことに頬を赤くなるのを感じます。
(勘違いしてはだめなのに‥‥…)
私はうつむいて内省します。
確かに、先日『君を追い出すつもりはない』とはおっしゃられました。しかし、一晩考えた結果、ずっと私などを置いて下さるという意味ではないということに気づきました。お優しい旦那様のことですから、しばらく体調不良が治るまでは置いてやる。そういう意味だと思います。
(本当に旦那様はお優しい方です)
私などを気にかけてくださる。
早く体の調子をよくして、ご迷惑をおかけしないよう、出て行かないといけませんね。
ただ、
(あの日以来、なぜか毎日朝食を頂くことになっているのは、正直、何が起こっているのか、よく分からないのですが……)
追い出す予定の婚約者と毎朝一緒にいることは、ご多忙の旦那様にとってご負担ではないのでしょうか?
旦那様はお優しいので、気を遣わせているのだと思って心配をします。なので、
「旦那様、お忙しい中、追い出す予定の私などとお食事をわざわざとって頂かなくても……」
そう正直に申し上げることにしました。旦那様の優しさにつけこむつもりはありませんので。
しかし。
「はぁ……」
旦那様は深々と嘆息して、その美しいアイスブルーの瞳を呆れたとばかりに私の方に向けると、
「俺が嫌ならばそうする。黙って一緒に食事をしろ」
「あの、どうしてでしょうか? そもそも婚約者にしても、私のような地味で何のとりえもない貴族令嬢ではなく、もっと相応しい方がいらっしゃると思うのですが。ならばやはり私を追い出して、早めに別の……」
「だからっ、そういう卑下をやめろと言ったはずだぞ」
「す、すみません」
何度も粗相を繰り返してしまい、謝罪する。
ご気分を害してしまったと思った。けれど、
「謝らなくてもいい。……強く言うつもりではなかった。それに、お前はそのままでいいと、前にも言ったつもりだが?」
「え……?」
旦那様は口調こそ厳しめですが、どこか優し気です。それに、顔はそっぽを向いていました。
(もしかして、照れていらっしゃるの?)
いえ、そんなはずはありませんね。
なぜか顔が赤いようにも見えますが、きっと陽光の具合だと察します。
「で、話を戻すが、シャノン、君には豪華なドレスをたくさん衣装ダンスへ用意しておいたはずだ。なぜそれを着ない? 以前、やって来た貴族令嬢どもはそれはそれは目を丸くして喜んでいたようだったが?」
「他の令嬢がたにはよくお似合いになると思います。しかし、私のような者に、あのような美しくて宝石のちりばめられた豪華なものを身にまとうなどおこがましいと思いますので……。このドレスと、あと何着か持参したもので私には十分です」
「ふむ」
コツコツ、と旦那様が考えるように机を指でたたきました。どうされたのでしょうか?
すると、
「シャノン、今日は時間はあるか?」
「え?」
「時間はあるかと聞いているんだが?」
「は、はい。もちろんです。体調もよくなってきましたので、あの美しいお庭を散歩させてもらおうかと思っていますが」
「なら、今日は俺に付き合え。街に出よう」
「え……?」
はしたない声が出てしまいました。
ですが、旦那様の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったのだから、仕方ありません。はしたないことに変わりはないのですが……。
しかし、私はそれよりも気になって尋ねます。
「あの、それはどういう」
「俺のひいきにしている店がある。無論、仕立て屋を呼んでもいいが、時間がかかる。直接行って仕立ててもらうことにしよう」
「えっと、何をでしょうか……」
私は旦那様の迫力にタジタジとなりながら、恐る恐る聞きます。
「無論、君のドレスだ。嫁いで来てくれた君にプレゼントを渡すのは至極当然のことだろう?」
「そ、そんな。私はこのドレスで十分ですので」
「大丈夫だ。君も気に入るような、あまりけばけばしくない、上品なドレスを仕立てさせる。だが、とびきり良い素材を使うから、肌触りなども良いはずだぞ」
「そ、そういうことを言っているのではなくてですね」
「たまには休めとルーダもうるさいのでな。ちょうどよい休暇だ」
「そんなたまの休暇を私などに使われるのは申し訳が」
「おっと、公務の時間だ。では午後にな」
私の言葉を遮るようにして、いきなり旦那様は立ち上がった。
もう、これで話はしまいだ、とでも言うように。
というか、陽光が逸れて、旦那様の美貌を見ると、やはりまだ顔が赤いように思われた。
もとから美しい旦那様の容貌に、色気が付け加わったように思えて、はしたない私は思わずポーっとしてしまう。
そんなことをしているうちに、旦那様は速足で退室してしまった。
「ど、どうしよう……」
いきなり旦那様と街に出ることになってしまった私は、どうしていいものか分からず、途方にくれたのでした。
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