わたしはあなたの隣で幸せに咲く

初枝れんげ@出版『追放嬉しい』『孤児院』

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13.旦那様とデート

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午後からの旦那様とのお出かけで混乱した私は、とりあえずアンに相談することにしました。

正直、どうしていいのか分からなかったからです。

一番恐れていたのは、私のような地味でやせぎすな女が、あの国で一番とも噂される旦那様の隣を歩くことで、彼に恥をかかせてしまうことでした。

私が嗤われることは我慢すればいいことですが、私以外の誰かの評判を落とすことは嫌だったのです。特に旦那様に対してはなぜかそう思いました。

しかし、

「お任せください、お嬢様。決して恥をかかせないよう、この限られた衣装と化粧品で何とかしてみましょう!」

「そんなことできるの? でも、ごめんなさい。私のような貧相な女では、アンがどれだけ頑張っても限界があると思うし……」

暗い表情を浮かべてしまいますが、

「ふふふ。大丈夫です。きっとロベルタ公爵様も驚かれますよ」

「え? それってどういう」

「さぁさぁ、時間がありませんよ。鏡の前に座ってくださいませ」

「う、うん……」

私は躊躇いながら鏡台の前に座ります。

鏡を見るのは好きではありません。自分の栄養の足りていない、不健康な顔色や、荒れた唇や指などを見るのが好きではなかったからです。

家族からも、ずっとそのことを言われ続けていて、自分の醜さには自覚がありました。

いえ、私が醜いのはいいのです。それは仕方のないことなのですから。

ただ、それを見た他の人々が、不快に思われたり、今回に関して言えば、旦那様の評判を貶めることになることが本当に嫌でした。

だから、

「もう、目をあけてくださいよ、お嬢様」

目を閉じてしまいました。

「ごめんなさい。でも許して頂戴。でないと、旦那様に会うまでに心が折れてしまうに違いないわ。旦那様への申し訳なさで心があふれてしまいそう」

「はぁ~。お嬢様は本当にご自身には無自覚なんですねえ。他人のことばかりで」

「え?」

「いーえ、なんでもありません。今日分かるでしょうからね。きっと公爵様もびっくりしますよ」

「……そうでしょうね」

化粧を施しておいて、この程度なのかとがっかりされる未来が見えます。

ただ、今、鏡を見ればそのことが今の時点で確定してしまう。

旦那様に直接お誘い頂いた以上、ちゃんとお会いするくらいはしなければ。そして、その場でがっかりされて、お出かけが中止になるとすれば、旦那様の評判を貶めることもない。

だから今は鏡を見るべきではないでしょう。それが最低限、私などを誘ってくださった旦那様への礼儀だと思うのです。

「髪をすいて……。ああ、艶が本当に出てきて。よかった……。で、あとは、今日のためにほつれを全部直して新品同然にしたドレスと。あと、あまり派手ではないけど、ドレスに合う上品めのブローチをつけて、と……。よし、メイド冥利につきる仕上がり。うう、お嬢様素敵です」

「ありがとう、アン。お世辞でも嬉しいわ」

「お世辞かどうかはもうすぐ分かります。さぁ、時間ですね、参りましょう、お嬢様。玄関に馬車が待っていますからね?」

「ええ」

アンは本当にいい子だ。

こんな私にも優しくしてくれる。一生懸命お化粧もしてくれた。

でも、元が元だけに、きっと旦那様はびっくりされるだろう。きっと街に行くまでには至らない。でもそれでいい。この国で最大の領土を持つ公爵である旦那様に恥をかかせなくて済むと思えば、むしろホッとする。

そう思いながら、長い階段を下りていると、

「シャノン。遅かったな」

「あ、旦那様……」

そこにはいつもの貴族服の上に、外出用の外套《がいとう》をまとう旦那様が玄関に持たれながらお待ちくださっていました。銀髪は陽光を反射してキラキラと美しく、そのアイスブルーの瞳はどんな宝石よりも澄んで美しい。こんな奇麗な男性がこの世界にいるのかとポーっとしてしまいました。

「どうした?」

「あ、申し訳ありません。つい旦那様に見とれて……。あっ」

つい本音が漏れてしまいました。なんと恥知らずなのでしょう。私は療養中だからこそ置いてもらっている身であり、本当ならば口をきくことさえはばかられる間柄。なのに、ついはしたない言葉が漏れたのです。私は自分の情けなさにぐっと拳を握りしめてしまいました。

きっと旦那様にも呆れられてしまったことでしょう。私の醜さ以前の問題です。

しかし、

「お前も……。とても似合っているな。最近はちゃんと食事もとっているから、ずいぶん血色もよくなっていると思っていたが……。なんだ、その……奇麗だ」

「……え?」

何を言われているのか分かりませんでした。

おかしいです。

胸がどきどきとします。

おかしいです。

私は待ち合わせの場で、旦那様から失望されて、お出かけは中止になるものだとばかり思っていました。

私のようなやせぎすの、地味な女を連れて行くことはきっと躊躇されるものばかりだと。

「でもこんな地味な恰好で。旦那様にはふさわしくないかと……」

「地味……なのか? 華美過ぎずとても可憐だと思うがな。庭園の泉にひそやかに咲く花に、けばけばしい装飾など必要ない。たたずんでいるだけで美しいものだ」

どういう意味なのか、理解が追いつきません。

いちおう、そんなに変ではなかったのでしょうか。私もここの庭園の泉のお花たちは奇麗でとても美しいと思っていますから。

そんなことを思って立ち止まっている私をご覧になった旦那様は、玄関にもたれかかっているのをやめて、こちらに歩いてこれました。

「ああ、すまない。エスコートも出来ない公爵とは、まったく夫失格だな。さ、手を」

「……え?」

「なんだ、すねているのか? すまなかったと言っているだろう」

「あの、旦那様?」

「なんだ?」

「幻滅、されないのですか?」

「幻滅?」

旦那様は怪訝な表情を浮かべられますが、

「何を言っているんだ? そのヴァイオレット色のドレスは派手でこそないが、控えめな君によく似合っている。ブローチもドレスに合わせているんだろう。とてもよく似合っている。それに……」

彼は少し言うのを躊躇ったかと思うと、少し顔を赤らめて、

「とても奇麗だ。まだ痩せすぎてはいるが、これからもっと美しくなるだろう」

と言ったのでした。

「それで、エスコートはさせてくれないのか? もちろん、俺のエスコートなど不要というのならば、仕方ないが」

「い、いえ。滅相もありません」

「そうか。なら早くこの手をとってくれないかな?」

「……はい」

本当にいいのかしら?

これは夢ではないかしら?

でも、手をとった瞬間、彼の体温を指先に感じた。

その時、何だか温かい気持ちが、心の中を満たしていくような気持ちになった。

今までひび割れて、カラカラだった心が、旦那様の優しさによって、潤いを取り戻していくかのよう……。

何より、手を取った時、旦那様が美しい唇に微笑みを浮かべたのだった。

まるで傷つき、疲れ果ててもう飛べなくなった、震えるだけの小鳥である私を、止まり木のように優しく受け止めてくださるような笑顔だと、つい思ってしまった。

(本当に私がこんな幸せな気持ちになっていいのかしら?)

そんな疑問を持たずにはいられませんでした。

何はともあれ、私たちは街の仕立て屋さんへと馬車で向かったのです。
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