わたしはあなたの隣で幸せに咲く

初枝れんげ@出版『追放嬉しい』『孤児院』

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14.ドレスのプレゼント(前編)

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馬車に二人で乗ると、御者が馬を走らせ始めた。

伯爵家が普段使用しているのと違って、クッションが違うのか、ほとんど揺れない。

あるいは街道の整備が行き届いているからだろうか。

旦那様の手腕をこういう細かなところでも感じる。きっと領民たちにとって素晴らしい領主に違いない。来た時と同様、領民たちは楽しそうには働いている。

「伯爵領のみんなは大丈夫かしら……」

「君の領地か」

「はい。悪口のように聞こえたら申し訳ありません。ご不快かもしれませんが、伯爵家はこの旦那様ほど優れた政策を実行はできていませんでしたので。重税に民は苦しんでいました。一方で妹や両親たちは贅沢三昧で。いくらやめるように言っても……折檻が待っているばかりで……」

「シャノンのように民を思いやる心が少しでも生まれていることを祈るばかりだが」

「そうですね。私は信じています。実の妹と両親ですから」

「ひどい目にあわされていたと聞いているが、それでもか?」

「はい」

例えそうだとしても、肉親なのだ。だから彼らの事を最後まで信じたい。その気持ちを失いたくないのだ。

「すみません、せっかくお出かけに誘って頂いたのに、こんな話題を。つい、この街の人々の明るい顔を見ていると思い出してしまったのです」

「領主の妻として当然のことだろう。謝ることではない。むしろ、今までの令嬢どもときたら贅沢することしか頭にない女狐ばかりで……、いややめよう。もう到着する」

「え、はい」

城を出てしばらく走った先で馬車が止まる。

仕立て屋さんに入ると、広々とした空間にたくさんの見本となる既製品のドレスの他、色とりどりの美しい細工が施された生地が並べられていた。見たこともない夢のような空間だ。

「まぁまぁ、ようこそいらっしゃいました。公爵様。今日は突然の御用向き、光栄に存じますわ」

「突然ですまなかったなマダム。ぜひ彼女に似合うドレスを仕立ててもらいたくてな。色々な予定があったと思うが」

「いえいえ。公爵様のたっての希望とあれば、このミーナリア、万難を排することに否はありえません。それにしても」

マダムと呼ばれた仕立て屋の女主人は、私の方をじろじろと見る。

(せっかく公爵様が連れて来た女が、私のような地味でやせぎすの女だと思っているに違いないわ)

ああ、早速旦那様に恥をかかせてしまった。

私に似合うドレスなんてそもそもあるはずないのに。

申し訳ない。

仕立て屋のミーナリアさんも困惑しているのだろう。

そんな気持ちでいっぱいになり、瞳を伏せがちになってしまいそうになったところで、

「これは磨けば光る素晴らしい原石ですわ。ああ、もう、ついに見つけられたんですね! うふふふふ」

「馬鹿が、そんなんじゃない」

「もー、隠さなくたっていいじゃないですか。そもそも、わざわざこのお店に女性を連れて来たのだって初めてで」

「いい加減に口を閉じろ。お前の仕事は何だった?」

「あらあら、分かりましたとも、さぁさぁ、奥様、こちらへどうぞ」

「は、はい」

原石とか、このお店に連れて来た女性は初めてだとか聞こえた気がするが、一瞬で色々なやりとりがされて、どういう意味かまでは分からなかった。

ともかく私は言われるがままに、ミーナリアさんの元まで近づく。

「ほら、やっぱりお奇麗。奥様、お初にお目にかかります。ミーナリアと申します。公爵様がやっとお気に入りの女性を連れてきてくださって、仕立て屋冥利に尽きるというものです」

「い、いえ。お気に入りとかでは。『そんなんじゃない』と旦那様も先ほどおっしゃられてましたので」

「それこそ『そういう意味ではない』と思いますよ、うふふふ」

「え?」

私はマダムのおっしゃることがよくわからず、キョトンとしますが、彼女はますます微笑みを深めるばかりです。

「さて、おしゃべりはこれくらいにしまして、そうですね」

彼女は幾つかの生地を並べながら説明してくださります。

「美しいパステルカラーのドレスも素敵だと個人的には思うのだけど、奥様の性格では少し着心地が悪いかもしれないわね」

「性格ですか?」

「そうですよ。清楚でお美しい奥様には、少し奥ゆかしい……。ある意味聖女が着るようなドレスがいいかもしれませんね。淡い感じのライラックがいいかしら。デコルテが陶器の様にお奇麗なので出しましょう。首と肩回りは透ける布で覆いましょうね。刺繍も布と同色の糸で余り目立たさず、かつ、上品に仕上げるのでどうでしょう? スカートの裾は二重にしまして、外側は少し長めで、薄手のオーガンジーで少し透過するデザインにしたいと思います。内側は膝ほどの丈までとしますが、デザイン的に全く下品さはない仕上がりにしますのでご安心くださいませ。奥ゆかしくて美しい奥様の心根をデザインに落とし込みますからね」

「そ、そんな豪華な手の込んだデザインのドレスを私のためだけに作って頂くなんて出来ません」

「あら、どうしてですか?」

「だって、せっかく領民の方々が納められたお金ですし……」

すると、ミーナリア様は公爵様の方を向いて、

「こんなことをおっしゃっていますが? どうされますか?」

と聞く。

旦那様なら分かってくれるはずです。

そう期待しました。

しかし、

「いいから、好きなものを選べ。いや、そういうことが出来ないのだな、お前は、まったく。やれやれ」

と、そう言って、首を横に振ってから、

「ここのものを全てもらおう。そのうえでマダム。シャノンに似合う服を仕立ててくれ。ただ、派手なものはどうしても気が引けるらしい。俺はどんなものでも似合うと思うのだが……。まぁ彼女が抵抗なく着れる少し上品めのものがいいのだろう。俺も……そういうのが似合うと思う」

何をおっしゃっているのでしょうか?

全部?

ここにある服を全部買う?

「まぁまぁ、ロベルタ公爵様。やはりとうとう……」

「それ以上言うな。斬るぞ」

「あらあら。怖い怖い。ほほほ。分かりました。では最高の一品を仕立てさせて頂きましょう」

「頼む」

え? え? と、私だけが戸惑っているうちに奥に連れて行かれたのでした。

(後編に続きます)
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