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17.妹リンディのたくらみ(後編)
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「久しぶりねえ、シャノンお・ね・え・さ・ま?」
「リンディ……。どうしてここに?」
伯爵領にいるはずの妹がどうしてここにいるのでしょうか?
実家で両親と一緒になっていじめられた思い出が去来して、思わず青ざめてしまいます。
気づけば、握った手は震えていました。
しかし、リンディはそんな私の様子がおかしいのか、更に笑みを深めて言います。
「あれがロベルタ公爵様? お噂とは違って随分と優しそうな良い方そうじゃない」
「……はい。旦那様はとてもお優しい方です。私などにとても親切にしてくださいます」
「あなたのことなんて聞いてないのよ!」
いきなりの叱責の言葉に、身がすくみました。実家での暮らしをまた思い出して、血の気が引きます。
こうした理不尽な言葉の暴力は日常茶飯事でしたから。
でも、我慢します。
わざわざ、私に会いに来てくれたのですから……。
しかし、彼女の目が妖し気に微笑みます。それは何かをたくらんでいるときにする妹のクセでした。
「そ・ん・な、お優しい公爵様を『旦那様』呼ばわりなんて、もう夫人気取りなのかしら? まだ正式な結婚はしていないんでしょう、お姉様?」
「……そうですね。確かに僭越な物言いでした」
ロベルタ様が余りにもよくしてくださるので、つい旦那様と言ってしまっていましたが、それは出過ぎた物言いだったでしょう。
私ごときが軽々しく口にして良い言葉ではありません。
「でしょう! まだ結婚していないし、この1か月十分良い思いをしたのではないかしら!? お姉様には分不相応なほどに!」
「……?」
何が言いたいの?
「もう、本当に察しの悪い女ね。ハッキリ言って、あんたにはこのロベルタ公爵様の妻なんて身分、分不相応だって言ってんのよ。だ・か・ら、私がロベルタ様の妻になることにするわ。元々、私に来たお見合い話だったわけだしね。文句ないでしょ?」
「……え? でも、私は……」
私は……、と言いかけて言葉を紡ぐことが出来なくなった。
体も弱く、ろくな栄養もとっていないせいでやせぎすで醜い私が、あの美丈夫《びじょうふ》なロベルタ様とつり合いがとれるわけがない。
公爵様には温かな言葉をたくさんかけてくださったし、最近は公務でお忙しいにも関わらず、朝食もご一緒をしてもらった。義務感だったに違いない。きっとご迷惑だっただろう。
それに今日は素敵なドレスまで仕立ててくださった。
メイドのアンのことも面倒をみてくださる。
私ごとき女には十分すぎるねぎらいを頂いた。私は果報者だ。
そんなつまらない女である私に対して、目の前の妹リンディは、私から見ても可愛らしい。
ふわふわとした金髪の美しい髪の毛に、同色の瞳、天真爛漫でいながらも美しい容姿は天使みたいだ。私なんかよりもよほど殿方は気に入るに違いない。
「ふふん、どうやら自分の立場が分かったみたいねえ」
リンディが優しそうな微笑みを浮かべます。そして耳元に口を寄せてきて、
「だからね、お姉様。自分から婚約を破棄すると、ロベルタ公爵様に伝えなさいな。あなたみたいな女、きっと公爵様も辟易としているに違いないわ。そして、その代わり、妹のリンディを嫁がせると言いなさい。ふふふ、楽しみだわ。あの美しい銀髪に、アクアマリンみたいな美しいアイスブルーの瞳、そして何よりこの公爵領の財力は私にこそ相応しいのよ!」
「リンディ。公爵家は今、代替わりしたところでロベルタ様が必死に基盤を整えているところよ。贅沢なんてしてはロベルタ様の邪魔に……」
しかし、私の言葉にリンディは嘲笑を浮かべて、
「あはははは! だからあんたは駄目なのよ! 男が好きなのは私みたいな贅の限りを尽くした、絢爛豪華を絵にかいたような美しい女よ! あんたみたいな地味で奴隷である領民のことを気にするようじゃ、貴族令嬢失格ね!!」
「そ、そんな……。領民が豊かに暮らすことこそ私たち貴族が一番に考えるべきことじゃ」
「ああ、うるさい! あんたの御託なんて聞いてないのよ!」
また鋭い叱責が飛ぶ。私の声はどうしても届かない。領民たちがいるからこそ、私たちが存在して良いのに。その当たり前の理屈がどうしても伝えられない。それが目の前の彼女に対して申し訳ないとすら思う。
「いずれにしても、あんたが分不相応だってのは確かなのは認めるんでしょう? なら、今日にでも婚約破棄を愛しのだ・ん・な・さ・まに願い出なさい。分かったわね?」
「……はい」
私が身分不相応な立場にいることは本当なので頷く。
これ以上、ロベルタ様にご負担をおかけすべきではないだろう。
それにきっと、リンディが言う通り、男性は目の前にいるような、美しい女性が好きだろうから……。
「分かりました。今日のディナーの時に、ロベルタ様にそう申し上げます」
「ええ、それでいいのよ。私の言うことを聞いていればね。ああ、明日には公爵夫人か、楽しみだわ、うふふ。あはは。あはははははははは!」
彼女は機嫌良さそうに笑いながら、自分の馬車へと戻っていきました。
近くの宿で一泊して、結末を聞いてから、自領へと戻るようです。
ただ、私は一つだけ決意をしていました。
私が婚約破棄されて、追放されるのは元々覚悟していたことです。なんの恐怖もありません。むしろ、これほど良くしてもらった事への感謝しかないのです。
ただ、この公爵領の領民たちの笑顔が消えるようなことにだけはならないようにしないといけない。
リンディに色々なことを言われてショック状態の私でしたが、ぼんやりとした頭の悪い私でも、そのことだけはしっかりと考えることが出来たのでした。
「リンディ……。どうしてここに?」
伯爵領にいるはずの妹がどうしてここにいるのでしょうか?
実家で両親と一緒になっていじめられた思い出が去来して、思わず青ざめてしまいます。
気づけば、握った手は震えていました。
しかし、リンディはそんな私の様子がおかしいのか、更に笑みを深めて言います。
「あれがロベルタ公爵様? お噂とは違って随分と優しそうな良い方そうじゃない」
「……はい。旦那様はとてもお優しい方です。私などにとても親切にしてくださいます」
「あなたのことなんて聞いてないのよ!」
いきなりの叱責の言葉に、身がすくみました。実家での暮らしをまた思い出して、血の気が引きます。
こうした理不尽な言葉の暴力は日常茶飯事でしたから。
でも、我慢します。
わざわざ、私に会いに来てくれたのですから……。
しかし、彼女の目が妖し気に微笑みます。それは何かをたくらんでいるときにする妹のクセでした。
「そ・ん・な、お優しい公爵様を『旦那様』呼ばわりなんて、もう夫人気取りなのかしら? まだ正式な結婚はしていないんでしょう、お姉様?」
「……そうですね。確かに僭越な物言いでした」
ロベルタ様が余りにもよくしてくださるので、つい旦那様と言ってしまっていましたが、それは出過ぎた物言いだったでしょう。
私ごときが軽々しく口にして良い言葉ではありません。
「でしょう! まだ結婚していないし、この1か月十分良い思いをしたのではないかしら!? お姉様には分不相応なほどに!」
「……?」
何が言いたいの?
「もう、本当に察しの悪い女ね。ハッキリ言って、あんたにはこのロベルタ公爵様の妻なんて身分、分不相応だって言ってんのよ。だ・か・ら、私がロベルタ様の妻になることにするわ。元々、私に来たお見合い話だったわけだしね。文句ないでしょ?」
「……え? でも、私は……」
私は……、と言いかけて言葉を紡ぐことが出来なくなった。
体も弱く、ろくな栄養もとっていないせいでやせぎすで醜い私が、あの美丈夫《びじょうふ》なロベルタ様とつり合いがとれるわけがない。
公爵様には温かな言葉をたくさんかけてくださったし、最近は公務でお忙しいにも関わらず、朝食もご一緒をしてもらった。義務感だったに違いない。きっとご迷惑だっただろう。
それに今日は素敵なドレスまで仕立ててくださった。
メイドのアンのことも面倒をみてくださる。
私ごとき女には十分すぎるねぎらいを頂いた。私は果報者だ。
そんなつまらない女である私に対して、目の前の妹リンディは、私から見ても可愛らしい。
ふわふわとした金髪の美しい髪の毛に、同色の瞳、天真爛漫でいながらも美しい容姿は天使みたいだ。私なんかよりもよほど殿方は気に入るに違いない。
「ふふん、どうやら自分の立場が分かったみたいねえ」
リンディが優しそうな微笑みを浮かべます。そして耳元に口を寄せてきて、
「だからね、お姉様。自分から婚約を破棄すると、ロベルタ公爵様に伝えなさいな。あなたみたいな女、きっと公爵様も辟易としているに違いないわ。そして、その代わり、妹のリンディを嫁がせると言いなさい。ふふふ、楽しみだわ。あの美しい銀髪に、アクアマリンみたいな美しいアイスブルーの瞳、そして何よりこの公爵領の財力は私にこそ相応しいのよ!」
「リンディ。公爵家は今、代替わりしたところでロベルタ様が必死に基盤を整えているところよ。贅沢なんてしてはロベルタ様の邪魔に……」
しかし、私の言葉にリンディは嘲笑を浮かべて、
「あはははは! だからあんたは駄目なのよ! 男が好きなのは私みたいな贅の限りを尽くした、絢爛豪華を絵にかいたような美しい女よ! あんたみたいな地味で奴隷である領民のことを気にするようじゃ、貴族令嬢失格ね!!」
「そ、そんな……。領民が豊かに暮らすことこそ私たち貴族が一番に考えるべきことじゃ」
「ああ、うるさい! あんたの御託なんて聞いてないのよ!」
また鋭い叱責が飛ぶ。私の声はどうしても届かない。領民たちがいるからこそ、私たちが存在して良いのに。その当たり前の理屈がどうしても伝えられない。それが目の前の彼女に対して申し訳ないとすら思う。
「いずれにしても、あんたが分不相応だってのは確かなのは認めるんでしょう? なら、今日にでも婚約破棄を愛しのだ・ん・な・さ・まに願い出なさい。分かったわね?」
「……はい」
私が身分不相応な立場にいることは本当なので頷く。
これ以上、ロベルタ様にご負担をおかけすべきではないだろう。
それにきっと、リンディが言う通り、男性は目の前にいるような、美しい女性が好きだろうから……。
「分かりました。今日のディナーの時に、ロベルタ様にそう申し上げます」
「ええ、それでいいのよ。私の言うことを聞いていればね。ああ、明日には公爵夫人か、楽しみだわ、うふふ。あはは。あはははははははは!」
彼女は機嫌良さそうに笑いながら、自分の馬車へと戻っていきました。
近くの宿で一泊して、結末を聞いてから、自領へと戻るようです。
ただ、私は一つだけ決意をしていました。
私が婚約破棄されて、追放されるのは元々覚悟していたことです。なんの恐怖もありません。むしろ、これほど良くしてもらった事への感謝しかないのです。
ただ、この公爵領の領民たちの笑顔が消えるようなことにだけはならないようにしないといけない。
リンディに色々なことを言われてショック状態の私でしたが、ぼんやりとした頭の悪い私でも、そのことだけはしっかりと考えることが出来たのでした。
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