わたしはあなたの隣で幸せに咲く

初枝れんげ@出版『追放嬉しい』『孤児院』

文字の大きさ
18 / 27

18.婚約破棄をしていただくつもりが逆にご心配をかけてしまった……

しおりを挟む
妹のリンディから指摘を受けて、自分などがいつまでもここにいて良い訳がないと思い知った。

私のような何の取り柄もない女に、ロベルタ様は本当によくしてくださった。

居場所も与えて下さったし、美味しいお食事も下さった。

メイドのことも考えて下さったし、今日もお忙しいのに、きっとみすぼらしい私を哀れんで下さったのだろう。美しいドレスまで買って下さった。

これほど幸せだった時間は初めてで、本当に十分な幸せを与えて頂いた。

私などには過分なほどだ。

きっと、旦那様のご負担にもなっているだろう。

リンディに言われて、いつの間にか旦那様に。ロベルタ様に甘えてしまっている自分に気が付いた。

でも、ロベルタ様のお優しさは、領民にこそ向けられるべきもの。

いつまでもそのお優しさにつけこむようにするべきではない。

だから、今日の夜、ロベルタ様へ婚約破棄を願い出るために、ディナーの時間を設けて頂いたのだ。

その場で、婚約破棄をして頂ければ、私はすぐにでも城を出されるだろう。伯爵領には当然受け入れてもらえないだろうから、帰るあてのないうえに病弱な私は、すぐどこかで野垂れ死にするだろう。

だが、そのことでこの公爵領の人たちへロベルタ様の恩寵が向くだろう。私に十分にお与えくださった幸せを、領民たちに向けてもらうのだから、私にとってはむしろ嬉しいことだ。

問題は妹のリンディが私の代わりに嫁ぐという点だ。もちろん、私よりも可愛らしく器量も良い、聖女と言われる彼女の方がきっとロベルタ様には相応しいに違いない。そのことに全く異論はない。

ただ、彼女には領民たちを愛する気持ちが無いのではないか、という不安がぬぐえない。

そのことだけは、ロベルタ様に、僭越ながら申し添えたうえで、婚約を破棄してもらおう。

そうすれば、私は満足して城を出ることが出来るし、死んで後悔するようなこともないだろう。

「今日は急にどうした? 公務で忙しいのだがな?」

「申し訳ありません。すぐに済むお話なのですが、ちゃんとお伝えすべきかと思いまして」

「なんだ?」

ディナーをとる手をとめて、ロベルタ様がこちらを向く。

よし。

私は口を開こうと息を吸い……。

旦那様、今まで本当にお世話になりました。

今日限りをもって婚約破棄をしてください。

私は十分よくしてもらいました。

明日にでもお城を出ようと思います。

ドレスのことも夢のようでした。ひと時の夢を見させて頂きありがとうございました。

メイドのアンのこともありがとうございます。

私のようなやせぎすの女ではなく、妹のリンディを今後は妻としてお迎えくださいませ。

そこまで一気呵成に申し上げたつもりでした。

しかし、

「あ……れ……?」

ポロポロと。

「どう……したのかしら……。私……」

私の琥珀色の瞳から。

「伯爵領ではずっと出なくなっていたのに……」

透明な雫が、ポロポロとこぼれていたのでした。

「どうした。体調でも悪いのか?」

「ち、違います。言わないと……いけないことが……」

私は先ほど必死で考えたお伝えする内容を言おうとします。

しかし、どうしても口が動いてくれません。

それどころか、

「どうして、止まってくれないの?」

枯れたはずの涙が絶えず雫となってテーブルに落ちてしまうのでした。

「ああ、すみません、お料理が台無しに……」

全く関係のない、意味のない言葉は口をついてでます。

でも、肝心の言葉が形にならないのでした。

すると、

「料理などどうでもいい。何か心配事があるなら夫である俺に言ってくれないか?」

「!?」

いつの間にか私の座っている傍まで近づいて来てくれた旦那様が、瞳の雫を指ではらってくださったのでした。

そして、真剣な表情で私を心配してくださっていたのです。

「ああ、すみません。余計なご負担を。私は、旦那様にご迷惑をかけてばかりで……」

「何を言っている? それよりも、どうしたんだ? 言ってくれなければ分からない」

旦那様が優しく手を握ってくださいます。

ですが、言うべきことも言えない情けない私は、その優しさに甘えるばかりで、涙を止めることさえ出来ないのでした。

「話せないなら無理をするな。また明日、話を聞く時間を設ける。今日はゆっくりと休め。昼間、連れまわしたのが体調に良くなかったのかもしれん」

「そ、そんなことはありません。あれほどお優しくしてくださって、私は世界一の果報者です」

「そうか。なら、俺の望みも聞いてもらおう。しっかりと休んで元気になってくれ。……お前の顔色が悪いと落ち着かない」

「……はい」

なんとお優しいのだろう。

そして、心の弱い私は、また旦那様のそのお優しさに甘えてしまう。

「一人で戻れ……ないか。仕方ないな。よっと」

「……え?」

しかも、突然のことでまったく反応できませんでした。

旦那様は一見、スラリとしてスマートに見えますが、剣の達人でもいらっしゃいます。抱きかかえられた旦那様のたくましい筋肉が、服の上からでも伝わってきました。

「だ、旦那様……」

「体調が悪いのだろう? しっかりとつかまっていろ。そしてしっかりと休め」

「えっと……あの……」

私は混乱しているうちに、旦那様にお姫様だっこをされて、自室のベッドまで運ばれてしまいました。

「メイドのアンを呼んでおく。しっかりと休め。これは命令だからな」

「はい……」

厳しい言葉なのに、優しい口調で言われた私は頷くしかありませんでした。

本当は婚約破棄を願い出なければいけなかったのに。

お優しさにつけこむ真似をしないと誓ったばかりだったのに。

「また、ご迷惑をおかけしてしまった」

しかも、部屋まで運んでいただくなんて、はしたないにもほどがある。

「私はどこまで愚かなのだろう」

私はどこか幸せを感じる自分の醜さを恥じながら、また旦那様の優しさに甘えてしまった自分に深く苦悩するのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。 小説家になろう様でも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...