152 / 366
第三章【イリュリア事変】
3-42.ここだけの話(5)
しおりを挟む「何とも悲しくて不気味な話よね」
「まあばってん、もう終わった話っちゃけどね」
レギーナもミカエラも、話としては気にはなるがどうこうできるものでもない。もしも今なお魔女が犯行を重ねていたのならきっと勇者として討伐指令が下ったのだろうが、レギーナが勇者として活動を始めたのは今から3年前、つまりベラドンナが姿を消してからのことである。
だからこの件は、個人的には興味深い噂として気にはなるものの、勇者としては関われるものでもなかった。
「もし、話がまだ終わっていないと言ったらどうするのかしら?」
「えっ?」
不意に、ヴィオレが意味深なことを口にした。驚いて彼女の顔を見ると、無に染まっていた彼女の表情が見たこともないような嫣然とした、妖しくもゾッとするような笑みを浮かべている。
「まさか、まだ終わってないの?」
「ということは、まだ生き残っている求婚者がいるんだね?」
「ええ、そう。まだひとりだけ、求婚者がのうのうと生きているわ」
笑みを崩さないままに、ヴィオレが言う。
「だ、誰なの………?」
「ベラドンナでも手が出せんかった……ちゅうことは」
「よほどの大国の王子、とかかな?」
「そう、正解よ」
ヴィオレの笑みが深く妖しくなってゆく。
「最後のひとりは、アナトリアの皇太子よ」
そして、愉しそうにその名を口にした。
「皇太子!?まさか!」
「いやばってん、15年前やろ?今の皇太子なら当時は………20歳のはずやし」
「でも、俺の記憶に間違いがなければその当時、皇太子はもう結婚してたはずだけど?」
アルベルトが“輝ける虹の風”とともに蛇王封印の旅の途上で訪れた19年前、アナトリアの第一皇子にはすでに婚約者が存在していた。翌年の帰路に虹の風が立ち寄った時には、近々婚姻式典を執り行って同時に立太子するという話だったのを彼は憶えていた。
この西方世界で、大半の国は一夫一妻制である。それでも王侯などで愛妾を持つものは少なくはないが、そうした行為は制度として定められている場合、あるいは正妻との間に子ができないなどの特別な事情がある場合を除いて、基本的に非難の対象になる。
「さあ?そのあたりの事情は知らないわ。けれどとにかくアナトリアの皇太子が姫に求婚したのは間違いない事実よ。
もっとも、表向きには側近を代理に立てて自分は姿を隠していたのだけれどね」
要するに第一皇子、その頃には立太子して皇太子だが、すでに存在する正妃以外に姫にも食指を伸ばし、側妾として手に入れようと画策したのだ。そのために情報を操作し、他の求婚者たちが相争うように仕向けたのも皇太子であるとヴィオレは言う。
そして予想外に乱戦になり虐殺まで引き起こしたため、側近をはじめ裏事情を知るものを始末して、自らは知らぬふりを決め込んだのだという。
「ちょっと待って。あなたなんでそんな詳しいのよ?」
レギーナが当然の疑問を口にした。聞いた話と言うわりにはあまりに詳しすぎる。まるで魔女本人から話を聞いたか、あるいは………?
「悪いけど情報源は教えられないわ。誰にも明かさないと約束したの」
だがヴィオレは頑なに口を閉ざした。探索者として普段から情報の扱いにも厳格な彼女がそう言うのなら、おそらく殺されても明かすことはないだろう。
「ばってん、アナトリアの皇太子かぁ…」
そして彼女が今このタイミングで何故こんな話をしたのかは、ミカエラが嘆息するまでもなく明らかだ。
何しろ一行は、これからそのアナトリア皇国に入るのだから。
「つまりこの先は今まで以上に充分注意して、警戒を怠ってはダメだということだよね」
「そう。何しろあのバカ皇………皇太子はまだ健在なのだから、レギーナに手を出して来ないとも限らないもの」
「うぇ、私!?」
「そらそうやろ。ただでさえ美しき女勇者ってことで名が知られとっちゃけん、姫ちゃんが一番危なかろうもん」
「あら、貴女もよミカエラ。貴女だって主祭司徒の孫娘、目を付けられる可能性はあるわ」
「いやあ、それを言ったら君たち全員そうじゃないかな?」
「「「絶対に、嫌!! 」」」
アルベルトの当然の指摘に、美女3人の心底嫌そうな声がピッタリとハモった。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
長かった三章もこれで完結です。
次回からは四章、アナトリア編に入ります。お楽しみに!
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
追放されたら無能スキルで無双する
ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。
見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。
僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。
咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。
僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる