【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

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第三章【イリュリア事変】

3-42.ここだけの話(5)

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「何とも悲しくて不気味な話よね」
「まあばってんでも、もう終わった話っちゃけどね」

 レギーナもミカエラも、話としては気にはなるがどうこうできるものでもない。もしも今なお魔女が犯行を重ねていたのならきっと勇者として討伐指令が下ったのだろうが、レギーナが勇者として活動を始めたのは今から3年前、つまりベラドンナが姿を消してからのことである。
 だからこの件は、個人的には興味深い噂として気にはなるものの、勇者としては関われるものでもなかった。


「もし、話がまだ終わっていないと言ったらどうするのかしら?」
「えっ?」

 不意に、ヴィオレが意味深なことを口にした。驚いて彼女の顔を見ると、無に染まっていた彼女の表情が見たこともないような嫣然とした、妖しくもゾッとするような笑みを浮かべている。

「まさか、まだ終わってないの?」
「ということは、まだ生き残っている求婚者がいるんだね?」

「ええ、そう。まだひとりだけ、求婚者がのうのうと生きているわ」

 笑みを崩さないままに、ヴィオレが言う。

「だ、誰なの………?」
「ベラドンナでも手が出せんかった……ちゅうことは」
「よほどの大国の王子、とかかな?」

「そう、正解よ」

 ヴィオレの笑みが深く妖しくなってゆく。

「最後のひとりは、アナトリアの皇太子よ」

 そして、愉しそうにその名を口にした。

「皇太子!?まさか!」
「いやばってん、15年前やろ?今の皇太子なら当時は………20歳のはずやし」
「でも、俺の記憶に間違いがなければその当時、皇太子はもう結婚してたはずだけど?」

 アルベルトが“輝ける虹の風”とともに蛇王封印の旅の途上で訪れた19年前、アナトリアの第一皇子にはすでに婚約者が存在していた。翌年の帰路に虹の風パーティが立ち寄った時には、近々婚姻式典を執り行って同時に立太子するという話だったのを彼は憶えていた。
 この西方世界で、大半の国は一夫一妻制である。それでも王侯などで愛妾を持つものは少なくはないが、そうした行為は制度として定められている場合、あるいは正妻との間に子ができないなどの特別な事情がある場合を除いて、基本的に非難の対象になる。

「さあ?そのあたりの事情は知らないわ。けれどとにかくアナトリアの皇太子が姫に求婚したのは間違いない事実よ。
もっとも、表向きには側近を代理に立てて自分は姿を隠していたのだけれどね」

 要するに第一皇子、その頃には立太子して皇太子だが、すでに存在する正妃以外に姫にも食指を伸ばし、側妾として手に入れようと画策したのだ。そのために情報を操作し、他の求婚者たちが相争うように仕向けたのも皇太子であるとヴィオレは言う。
 そして予想外に乱戦になり虐殺まで引き起こしたため、側近をはじめ裏事情を知るものを始末して、自らは知らぬふりを決め込んだのだという。

「ちょっと待って。あなたなんでそんな詳しいのよ?」

 レギーナが当然の疑問を口にした。聞いた話と言うわりにはあまりに詳しすぎる。まるで魔女本人から話を聞いたか、あるいは………?

「悪いけど情報源は教えられないわ。誰にも明かさないと約束したの」

 だがヴィオレは頑なに口を閉ざした。探索者スカウトとして普段から情報の扱いにも厳格な彼女がそう言うのなら、おそらく殺されても明かすことはないだろう。

「ばってん、アナトリアの皇太子かぁ…」

 そして彼女が今このタイミングで何故こんな話をしたのかは、ミカエラが嘆息するまでもなく明らかだ。
 何しろ一行は、これからそのアナトリア皇国に入るのだから。

「つまりこの先は今まで以上に充分注意して、警戒を怠ってはダメだということだよね」
「そう。何しろあのバカ皇………皇太子はまだ健在なのだから、レギーナに手を出して来ないとも限らないもの」
「うぇ、私!?」
「そらそうやろ。ただでさえ美しき女勇者ってことで名が知られとっちゃけん、姫ちゃんが一番危なかろうもん」
「あら、貴女もよミカエラ。貴女だって主祭司徒の孫娘、目を付けられる可能性はあるわ」

「いやあ、それを言ったら君たち全員じゃないかな?」

「「「絶対に、いやばい!! 」」」
        いやよ

 アルベルトの当然の指摘に、美女3人の心底嫌そうな声がピッタリとハモった。





 ー ー ー ー ー ー ー ー ー

長かった三章もこれで完結です。
次回からは四章、アナトリア編に入ります。お楽しみに!





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