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第四章【騒乱のアナトリア】
4-12.作戦会議(2)
しおりを挟む「私が騎士を続けていられるのは、大変不本意ながら、第七副団長がいるおかげです」
全身で不本意さを滲ませながら、スレヤはそう言った。
「何だかすごい嫌そうね?」
「当たり前です。副団長はアナトリア男性にしては珍しく女性に偏見がないから仕方なく頼ってはいますが、そうでなければ……」
「おいおい酷いなスレヤたん。普段通り仲良くしようぜぇ?」
「お断りします」
「ねえ、あなた達の関係ってどうなってるの?」
「そりゃもちろん、絶賛口説き中ですとも!」
「甚だ不快ですが、口説かれ中です。まあ受けるつもりは微塵もありませんが」
「そんな事言わずにさぁ~スレヤたん~」
「気持ち悪いから半径1ニフ以内に近寄らないで!」
「「「「「うわぁ…」」」」」
アルベルトまで含めて蒼薔薇騎士団全員が綺麗にハモった。確かにこれは気持ち悪い。
だが確かにアルタンの態度は、女性だからとレギーナたちを馬鹿にした様子はない。随行者にスレヤを指名したのも、自分が連れて行きたかったというよりは女性ばかりの蒼薔薇騎士団に配慮したのだと、ここまでの道中で察しもついている。
ただそれならそれで、スレヤにももう少し紳士的な態度が取れないものだろうか。口説いているとは言っているが、これでは完全に逆効果にしかならないように見えるのだが。
「わたしがっ、まだ婚約者も配偶者もいないものだからっ、それで『俺のモノになれ』とっ、コイツは!」
両腕と片足で迫りくるアルタンを必死で遠ざけながらスレヤはなんとかそう言った。アルタンの方は足蹴にされようともものともせずににじり寄る。
「とりあえず」
レギーナが立ち上がり、ソファの脇に立てかけてあったドゥリンダナを抜いた。
「私たちの前でそれ以上セクハラまがいのことをするつもりなら、今すぐその首と胴がお別れすることになるけど?」
「す………スミマセン………」
瞬時にしてアルタンはスレヤからもレギーナからも距離を取る。諸手を上げて完全降伏の姿勢だ。
それでようやくスレヤもホッと息を抜き、何とか話し合いの態勢が整った。
そうしてレギーナたちはふたりから皇城の大まかな構造と主だった政府関係者、それに皇族の情報などを聞き出し、それを元に作戦を練った。アルタンの言によれば第四皇子が比較的頼りになりそうだが、たった今彼の信用は地に落ちたばかりだけに、どこまで真に受けていいものやら。
「第四皇子殿下はお母上の第四妃のお立場が弱く、皇城内ではほとんど実権は持てておられないはずです」
「それじゃあ、頼るにはちょっと弱いわね」
「ですが女性には大変お優しい方だとも伺っております」
「恋愛的な意味でで優しかっても困るったいなあ」
「それは……お目もじしたことがないので私には分かりかねますが………」
「でも、第四皇子殿下はい~い男ですよぉ」
「アルタンには聞いてないわ」
「そんなぁ~勇者さまぁ~」
「いやあアルタンさん、完全に貴方の自業自得だからね?」
そもそも蒼薔薇騎士団はいろんな意味で敵には容赦がないが、中でももっとも敵視するのは女性に対する敵である。アルベルトが同行を許されているのも道先案内のできる先輩冒険者というだけでなく、レギーナたち女性に偏見も欲目もなく接することができているからなのだ。
だからたった今そこまで落ちたアルタンに、今この場では発言権など無いに等しかった。
結局、アルタンとスレヤからは公開されている以上の情報はほとんど引き出すことができず、作戦会議はお開きとなった。
ということでアルベルトが少し早いながらも昼食の準備を始め、一行はそのまま昼食休憩に入った。皇都へは、昼に入ってから乗り込むことになる。
あとはもう出るところに出て、なるようになるしかない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おのれ、勇者め………」
所は変わって皇都アンキューラのアナトリア皇城の一角。
陽も暮れた中、小さな魔術灯の灯りひとつだけの薄暗い室内で、何やら吐いてはいけない呪詛を吐く者がいる。
「全く、何が勇者だ。女の分際で、このカラス様がわざわざ出迎えてやったというのに感謝もせずに、あまつさえ恥などかかせおってからに………!」
呪詛を吐いているのは外務宰相ブニャミン・カラスだった。彼は近道の裏街道を抜けて、蒼薔薇騎士団より一足先に皇都に、そして皇城に戻ってきていた。
「だがそうは言っても、相手は曲がりなりにも勇者だぞ。あの剣技、そしてあれほど大きな脚竜を意のままに操るあの女に、どうやって分からせるつもりだ?」
薄暗い部屋の中にはもうひとりの姿が。言うまでもなく、財務宰相ジェム・タライである。
彼らは皇都に戻ってきたはいいものの、勇者パーティを皇都まで連行するよう言いつけられていた命令を果たせなかったということで、皇帝直々にお叱りを食らって謹慎を言い渡されていた。
彼らの発言を聞いても分かる通り、彼らはアナトリアで典型的な男尊女卑思想の持ち主であり、男である自分たちに恥をかかせた女を許すつもりなど微塵もなかった。
「ふふん。案ずるでないわ」
カラスは大きく鼻を鳴らして、カイゼル髭をピンと震わせる。
「女の相手など、女に任せればそれで充分よ」
「ほう。何か手でもあるのかね?」
「最近買った奴隷がおってな。あれなら、おそらく勇者の力にも引けは取るまいて」
「奴隷ごときがか?」
「奴隷と言っても、東方でも珍しい獣人族よ。なかなか使えそうでな、地下牢に監禁してあるのだよ」
「ほほう」
タライの目が怪しく光る。
「首尾よく倒せればよし、仮に倒されたとしても勇者とて無事では済むまいて。その弱ったところを我らが………」
カラスの瞳に下卑た色が浮かんだ。
「「クックック。楽しみだのう」」
そうしてふたりは、誰にも気付かれないまま、薄暗い室内で悪辣な計画を練り始める。蒼薔薇騎士団がアンキューラに到着する、その前の晩のことであった。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
【お知らせ】
10月からはまた、毎週日曜更新に戻ります。次回更新は2日、時間は変わらず20時です。よろしくお願いします。
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