【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

文字の大きさ
176 / 366
第四章【騒乱のアナトリア】

4-24.悪夢は現実に(2)

しおりを挟む


「嘘でしょ………悪夢だわ………」

 どうにもならなくなってサロンを飛び出し、ほうほうの体で与えられた客室まで逃げ帰り、精も根も尽き果ててティードレス姿のままソファに倒れ伏すレギーナである。
 勇者ともあろう者が、論破することさえ出来ずになす術なく尻尾を巻いて逃げ出すことしかできなかった。屈辱以外の何物でもない。

「なんかえらいすごく疲れとんね姫ちゃん」
「もう嫌………有り得ないグランミロン

 主に精神的に死にかけているレギーナを心配してミカエラが寄ってくるが、それに応える気力さえもなさそうである。
 ちなみにグランミロンとはこの世界の数の単位で、100万を指す。元々は「ものすごく多い」という意味で用いられる言葉で、そこから転じて「ありえない(ほど多い)」という意味で使われる。

「姫ちゃんがそんだけやられるやら、珍しかねえ」
「毒の痕跡があるね」
「でも受けたダメージはではないでしょう?」

「皇太子がいたわ……」

「は!?」

「そして求婚されたわ」

「なんですって!?」
「え、それもちろん突っぱねて来たとよね!?」
「拒否したけど、全然話が噛み合わないのよ!」

 現代ロマーノ語おなじ言葉を話してるのに、言語の通じない未知の生物と話してるようだった、と言われ、ミカエラとヴィオレは互いに顔を見合わせる。確かに昨夜の晩餐では気持ち悪かったが、会話が成り立たないというほどではなかったはずだが。

 ミカエラは随伴したべステの顔を見た。

「その、皇太子殿下はお気に召された女性に対しては毎回似たようなご対応をなさいます…」
「毒は!?毒もな!?」
「紅茶に麻痺毒、お菓子に神経毒が仕込んであったわ。まあ[魔力抵抗レジスト]で弾いたけど」
「毒は……その、まさかそこまでなさるとは……」

 べステはものすごく言いづらそうに、またやんわりと控えめな表現を探して用いているが、要するに毎回ああやって断れない雰囲気を作って逃げられなくしている、ということなのだろう。今回は相手が勇者なだけに権力で黙らせることができず、だから毒まで用いて物理的抵抗力さえ奪おうとした、といったところか。

「これは喧嘩を売られた、って解釈でいいかしらね」
「そらあ、五割増しで買わなならんね」
「ミカ、それは払いすぎ…」

どうでもいいばってんところで、王族が勇者と婚姻することが、知っとるとやろか」

 不意にミカエラが意味深なことを言う。

「知っているとは思えないわね」
「知ってたらやらないよ…」

 ヴィオレも、クレアもため息を隠さない。

「あ、あの、それはどういう………?」
「うん、まあ、侍女アンタたちは知らんままの方がいいばい?知っとったら止めんやったことを咎められるやろうし」
「そうね。まあ貴女や貴女たちのご主人様には類が及ばないようにしてあげるから、心配しなくても大丈夫よ」
「えっ!?な、何か処罰でもされるのですか!?」

 意味が分からずに狼狽えるべステやその他の侍女たち。
 それを見て、ニタリと昏い笑みを浮かべるミカエラとヴィオレ。何だかすごく悪役っぽいのでやめましょうね、あなた達一応勇者パーティなんだから。
 なお当の勇者本人はいまだに絶賛撃沈中であり、クレアはいつの間にかひとり素知らぬ顔で茶を飲んでいる。悪巧みの部分だけ素知らぬ顔でいい子ぶる彼女が一番腹黒いのではなかろうか、と混乱する頭でぼんやりとべステが考えたのも無理からぬ事であった………かも知れない。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...