【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

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第五章【蛇王討伐】

5-07.魔力の“理”

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 結局、起きてきたレギーナとクレアは胃に優しそうな雑炊を選び、ミカエラとヴィオレは焼きおにぎりを選んだ。猫舌の銀麗インリーは熱々の雑炊を食べられないので、当然焼きおにぎりの方である。
 クレアはまだ本調子には程遠い様子だったが、ミカエラと同じくひと眠りしたことで、それなりに持ち直したようである。おそらく、そうして少しずつ身体を慣らしていけば、銀麗の言ったとおりに不調も治まっていくのだろう。

「心配しなくても、ちゃんと全員分の焼きおにぎりを作ってあるからね。胃の調子が戻ったら食べるといいよ」

 雑炊を口に運びつつチラチラと視線を動かすレギーナに、苦笑しつつアルベルトが言う。

「べ、別にそっちも食べたいとか言ってないわよ」

 口で言わずとも、目は口ほどに物を言う。

「ていうか、“おにぎり”?また聞かない料理名ね」
「これは東方の果てにある“極島きょくとう”で一般的な携帯食料だよ。炊いた白米リゾの“飯”を手で握って固めるから『握り飯』で、それをちょっと丁寧に『お握り』って呼ぶことが多いんだって」
「携帯食料っちゅうと、軍隊の兵糧にしとったんやろか?」
「元はそうだったって聞いてるよ」

 ちなみに兵糧としての握り飯は、炊いた白米を少量の具を包み込むように丸く握ってカラカラになるまで乾燥させたものである。その状態なら軽量で数日保つため持ち運びに便利で、食べる際は水鍋に入れて沸騰させつつ炊けば簡単に雑炊に早変わりである。

「じゃあこれも、東方向こうで習ってきたんだ?」
「そうだね。普通は炒飯だと具材が多くて固まらないから作らないんだけど、その分は焼いて固めたから」

 バーベキューソースをベースにした特製ソースをかけたのは、表面を焼き固めやすくする意味もある。現に出来上がった焼きおにぎりは表面が程よくおこげ状になっていて、手で持ち上げても崩れることがなさそうだ。
 外はカリッと香ばしく、中はもちもちで多彩な具材の豊富な味が楽しめる。そんなん美味しくないわけがない。

「ていうかこっちも美味しいんだけど。雑炊、とか言ったわよね?」
「それも極島の料理でね。有り合わせの具材を雑多に放り込んで水で炊くから『雑炊』っていうんだって」

 具材は特に決まっておらず、大抵はその時にある残り物などを入れるが、もちろん専用に用意してもいい。味のベースになるのは水と一緒に鍋に入れる出汁だしによるので、具材が多少変わったところでそう突飛な味になることもない。
 極島では一般的に病人食として供される事が多いという。

「おとうさん、これ…ステラリア入れた?」

 レギーナの横で、スプーンでちまちま掬って雑炊を食べているクレアがポツリと聞いた。

「よく分かったね。魔力マナの異常だって聞いたからステラリア錠剤を砕いて入れてみたんだよ」
「うん、ちょっと回復した感じがする。ありがとう」

「あっそうやん、クレア、西方と東方でなんか魔力マナことわりが違うらしいっちゃけど、あんたなんか知っとうてる?」

魔力マナの理…?」

 ミカエラにそう問われて、クレアはしばし目線を落として考え込む。思い当たることがあったようで、やがて彼女は顔を上げた。

「そう言えば大地の賢者おじいちゃんに聞いたことがあるよ。西方世界は『相剋そうこく』だけど、東方世界は『相生そうしょう』だ、って」
「…………なんそれ?」
「五色の加護を自然の力に置き換えるの。黒加護は地、青加護は水、赤加護は火、黄加護は風、白加護はくうなんだって。
それで、『相剋』は互いに打ちつ力で、『相生』は互いを生み出す力なんだって」


 西方世界では馴染みの薄い考え方だが、東方世界の東部、つまり華国や極島といった地域には“五行ごぎょう”という思想がある。それで説明ができるとクレアは言う。

 それで言えば西方世界は、『相剋』の並びで魔力マナが構成されている。水は火にち、地は水に剋ち、風は地に剋ち、空は風に剋ち、そして火は空に剋つ。つまり水は火を消すことができ、地は水を吸い込んでしまう。風は地を吹き飛ばし、その風は空に溶けて消える。そして火は空をとして燃えるのだ。
 要するに相剋とは、戦い勝つための攻撃的な理、ということになる。一方で『相生』とは、互いを生み出し栄えるための理である。
 火は風を生み、風は空を生み、空は水を生み、水は地を生み、そして地は火を生む。つまり火は風を起こし、風は空になり、空はやがて雲を得て雨すなわち水になり、水は地を潤し、そして地が生み出す様々なもの、つまり樹木や“黒水”などが火を燃やすのだ。


「要は攻撃的な理と、守備的っちゅうか非攻撃的、生産的な理……ねえ。まるで真逆やんか」
「人の考え方にもそういうのが出てくるんだって。西方世界だと嵐には頑丈な家を作って対抗するし、魔物は討伐して殲滅するし、川の氾濫は堤防で防ごうとするよね」
「まあ当然の考えやね」
「東方だと風で飛ばされないように、家の壁は極力なくすんだって」
「……は?そうなん?」
「うん。魔物も殲滅し尽くすと生態系が変わるから討伐は最低限で、川が氾濫してもいいように高台に家を建てるんだって」

「…………そう言えばチェン大人たいじんも言ってたなあ。“医食同源”だ、って」
「……医食同源?どういう意味?」
「食べることは回復すること、つまり食材になる獣や草木は薬も同然なんだって。それを育む大地と、大地や草木を潤す雨と、雨を降らす空と、どれも同じくらい“食”には必要なことだから、全てを大切にしろって教わったよ」

 アルベルトまでそう言うということは、実際に東方世界に行けばレギーナやミカエラたちも実感できるレベルで違いを感じられるということだろう。
 いやまあ、もう東方に入っているわけだが。





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