【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

文字の大きさ
294 / 366
第五章【蛇王討伐】

5-46.最後の試練(3)

しおりを挟む


 濃密で膨大な魔力マナの渦からスルトが無造作に掴み出したものを見て、レギーナの瞳が驚愕に揺れる。

「そ……それは!?」

 それは一見すると剣のつかであった。両手剣のもののようで握りが長く、シンプルに左右に伸びたガードを備えていて。

 だが、

 なぜ柄だけなのかは、すぐに知れた。
 スルトが手を突っ込んだ魔力の渦がそのまま凝集して炎と化し、柄に纏わりついたからだ。そしてその炎は、見る間に鮮やかな緋色の剣身へと変じた。

「まさか……“業剣”レーヴァテイン!?」
「ウソやろ!?」
「そんな…!」

「ほう、初見でよく分かったのう」

 スルトが肯定したことで、それは事実と確定した。


 “業剣”レーヴァテイン。
 世に十振りしかないとされる宝剣のうちのひと振りで、人類史上で未だ発見に至らない三振りのうちの一本である。“光剣”クラウソラス、“壊剣”フラガラッハとともにその所在は知られておらず、だが実物を誰も見ていないのになぜかある程度の詳細が世に伝わっている。それが何故なのか、もちろん誰にも分からない。
 このうち“業剣”だけはかなり詳細な情報が世に知られていて、西方世界最北部のフェノスカンディア宗主国に伝わる古い伝承によれば、「世界を灼き尽くす災いをもたらす灼熱の剣」であるという。
 持ち主については「黒き巨人」とも「炎の女神」とも言われているものの、それらが伝承上のどの神を指すのかは諸説あり判然としない。だがこの世界における神は実在するものであるため、もしも特定できれば業剣の存在も明らかになるとされていた。


「なんで貴女が、それを持っているのよ!?」

 まあ「炎の女神」と言われれば、スルトはそう呼ぶに相応しい外見をしているが。

「なんでと言われてものう。わらわが作った妾の剣じゃし?まだ誰にも与えとらんからのう」

 しれっとうそぶくスルトである。

 ここまでの僅かな戦闘だけで、すでにスルトは勇者であるレギーナすら歯牙にもかけないほどの圧倒的な実力を見せつけている。それは人の身である勇者と、神をも超える“超神者シュプリームオーヴァー”たる真竜の力の差を考えれば当然のことではあったが、それでもレギーナはまだ勝負になると踏んでいた。
 だって神々が現世に顕現する際は、その力を大きく制限されるのが常である。十分の一か百分の一か分からないが、本来の実力とはかけ離れた幻身としてしか、神は実体化できない。
 だとすればそれは、真竜であろうとも同様のはずである。神々が地上を離れて“どこにもない楽園イェルゲイル”に移ったことで、地上は人の世になったのだ。今さら現世には関わらぬと、関わるとしても限定的な干渉に留めると決めたのは神々の方なのだ。

 だから、まだ勝負になると踏んでいた。
 どうせならその限定的な権能を、命をかけてでも引きずり出してやろうと、そう考えていた。上手くすればそれで“慧眼えげん”が開くかも知れないとさえ、レギーナは目論んでいたのだ。
 だが目の前で宝剣レーヴァテインを出され、しかもそれを自ら作ったのだと言われてしまった。神に等しき存在に抗う根拠など、宝剣ドゥリンダナだけだったというのに。

 レギーナが構えを解いて、ドゥリンダナの切っ先を下ろした。
 そのまま彼女は柄から手を離し、ドゥリンダナを足元に放ってしまう。

 ふぁさり、と迅剣が、ひなげしシャガイェグの紅い海に沈む。

「……降伏するわ。私の敗けよ」

「えっ、姫ちゃん!?」

「…………ほう?」

 悔しそうに顔を歪めるレギーナ。その彼女の口から出た敗北宣言にまずミカエラが驚いて、次いでスルトが意外そうに勇者を見た。

「いやに潔いのう」
「当たり前でしょう?ただでさえ人の身で抗うことさえ難しい真竜あなたを相手にしているのに、宝剣まで持ち出されたら勝ち目なんてあるはずがないわ」

 互いに宝剣を持つのであれば、レギーナの唯一の拠り所であるドゥリンダナはアドバンテージにはなり得ない。それどころかスルトは五眼ごげん全て開いていると言ったのだ。それはすなわち、レギーナがまだ成し得ていない“覚醒”さえも可能だということに他ならない。
 つまりスルトが“覚醒”してしまえば、それだけで勝負が決まってしまう。スルトが言う通り、レギーナはまだまだ未熟者だったのだ。

「いや……そらぁそうかもやけど」
「でも、ひめの言うとおりだよ」

 勝ち気で負けず嫌いで、本気の真剣勝負では今まで絶対に退こうとしなかったレギーナがあまりにもあっさりと降伏したことに、ミカエラは動揺を隠せない。確かに彼女の言う通りだと理解はするものの、それまでどんなピンチでも覆し切り抜けてきた親友を見てきた彼女には、現実が俄には受け入れられない。
 一方その隣に歩み寄ってきたクレアの方は、早くも現実を受け止めつつある。

「レギーナが敗けを認めたというのなら、それは蒼薔薇騎士団わたしたちの敗けということね」

 そしてヴィオレまでも認めてしまった。
 もうこうなると、ミカエラも認めるしかない。

「……ごめん、ミカエラ」
「ううん、姫ちゃんが謝ることやない。ウチら全員が実力不足やったってことやけん」

「あー、勘違いしとるとこ悪いがの」

 悄然とする勇者とその親友が互いを慰め合う中、気まずそうに声を上げたのはもちろんスルトである。

「妾、まだ一言も『不合格』とか言っとらんのじゃがな?」

「…………なによ、私敗けを認めたんだけど?」
「じゃーから、妾は『勝ってみせろ』などとは一言も言っておらんじゃろうが」

 そう言われれば、確かにそうだ。スルトが言ったのは『想定外の一手を見せろ』であって、『自分スルトに勝て』では無かった。

「え……じゃあ、もしかして?」
「もしかせんでも合格じゃ、ごーかく」

「…………何をどうしたらそういう判断になるわけ?」

 本気で分からないといった様子で、レギーナが首を傾げる。ミカエラもクレアも右に倣え状態だ。

「充分に想定外であったわ。お主絶対にブチ切れとったし、死ぬ気で特攻かましてくると思っとったのに」

 要するに、スルトはわざとレギーナを挑発していたのだ。未熟者だの勇者の質が悪くなっただのと貶して彼女を怒らせて、敢えて冷静さを欠かせるように誘導していたのである。

「怒りに我を忘れかけた状態でも彼我の戦力差を見極め、瞬時に冷静さを取り戻して決断し実行に移せるその判断力。敗北を認めるというもあっさりと飲み込むその胆力。なかなか見事であったわ」

  褒められているのか貶されているのかよく分からないが、おそらく多分褒められている。

「自分がと認めることが人には一番難しいものよ。頂点に近い実力を持つ者ほどその判断を下せなくなるというのに、いともアッサリと認めるとか想定外もいいとこじゃろ」

 信じられない、と言うように肩を竦めるスルト。
 うん、やっぱこれ、実は貶されているのじゃなかろうか。

「それでいてお主、実は微塵も諦めとらんじゃろ」

「な……何がよ」
「妾に認めさせて蛇王を討伐することじゃよ。なんなら妾との戦いで“慧眼”を開けんかぐらい目論んどったじゃろ」

 なんとビックリ、バレていた。

「どのような状況下でも正しく判断を下せる冷静さと、貪欲に成果を求める強かさ。それに加えてお主、仲間を守り切ることも念頭に置いとったじゃろ。⸺まあ正直言えば実力的にはやや不安もあるが、そんなお主であれば少なくとも蛇王アレと戦っても死にはせんじゃろ」
「失礼ね、敗ける前提で話をしないでくれる!?」
『わースルトがナチュラルに失礼こいてますー』
「そこで唐突に口挟むでないわ馬鹿ミスラ!」

 ついツッコんでしまうのはスルトの悪い癖かも知れない。まあこのミスラに対しては、誰でもツッコみそうな気もしないでもないが。

「まあ、とにかくじゃ。胸張って務めを果たしてくるとよい」

 コホン、とわざとらしく咳払いして取り繕ったスルトが、レギーナに向かって右手を差し伸べてきた。それを見て瞬時に覚悟を決めた彼女は、しっかりとその手を握り返した。

「ありがとうスルト。必ず役目を果たしてくるわ」
「まあそう気負うでない。死にさえしなければ何度でも挑めるのじゃからの」
「だから敗ける前提で話をしないで!」

「なんじゃ、せっかく真竜ひとが気を軽くしてやろうとしとるのに」

 いやいやスルトさん、それはいわゆるフラグってやつでは?

「いやそこはちゃんと声に出せ馬鹿ミスラぁ!」





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ
ファンタジー
十二の公爵によって統制された大陸の内、どの公爵にも統治されていない『東の地』 そこにある小さな村『リブ村』 そしてそこで暮らす少年剣士『クロト』。 ある日リブ村が一級魔物『ミノタウロス』によって壊滅させられる。 なんとか助かったクロトは力を付け、仲間と出会い世界の闇に立ち向かっていく。 ミノタウロス襲撃の裏に潜む影 最弱属性魔剣士の雷鳴が今、轟く ※この作品は小説サイト『ノベルバ』、及び『小説家になろう』にも投稿しており、既に完結しています。

処理中です...