【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

文字の大きさ
324 / 366
第六章【人の奇縁がつなぐもの】

【幕間5】それぞれのリスタート(1)探索者たちの探り合い

しおりを挟む


 レギーナに主寝室を追い出された面々は、自分の部屋や仕事に戻る者、扉の前で心配げに立ち尽くす者、個別に声をかけ合い話の輪を作る者と、様々な様相を見せつつ思い思いに動いてゆく。
 もちろんハーフェズを始めとした護衛騎士たちは引き続き主寝室の扉の外で警護を再開するし、侍女たち、特にアルターフは扉の前から離れようとしない。彼ら彼女らは職務としてそこにいるのだから当然のことである。

 そんな中、ナーンはひとりの美女の姿を目で追っていた。

(……どっかで見たことあるねんけどなあ)

 彼の視線の先にあるのは、蒼銀の前髪だけを伸ばし後ろ髪を刈り上げるほどに短くまとめた、長身でスタイル抜群の妖艶な美女。
 そう、ヴィオレである。

(あれだけの別嬪さんや、一度見たら忘れへんねやけどなあ)

 自分で言うのもなんだが、ナーンは女遊びが派手な方である。西方世界にいた頃も、東方世界に来てからも、なんなら“輝ける五色の風”で活動していた頃でさえ、行く先々で多くの美女たちと繋がりを持っていた。
 もっともそれは様々な意味で実益を兼ね、明確に目的のある行動であって、純粋な恋愛的な意味でのはほとんどなかったのだが。
 だがそれでも、ナーンは彼女たちのことを忘れた事などない。一度でも関わりを持った者たちとの繋がりを手放すような、そんな薄情な男になったつもりはなかった。その自分が思い出せない、ということは。

(少なくとも、オレが触らんとこて思ォたお人やろなあ)

 あれだけの美女で、しかも探索者スカウトである。利があるなら絶対に接触したはずである。それが顔を見ても思い出せないとなると、だったとしか思えない。

(……ま、調べりゃ分かるねんけどな)

 長年培った自分の情報網には絶対の自信を持っているナーンである。相手が王侯貴族だろうが裏社会の人間だろうが、その気になりさえすれば彼に調べられない事はほぼ無いと言っていい。

「せやけど、調べなアカンことは他にあるよってな」

 レギーナをサポートせねばならなくなった以上、彼がやるべきは味方の秘密を探ることではなく、調である。
 中でも“邪神教”の動向を調査することは、ナーンでなければおそらく難しいだろう。視線に気づいていつつも振り返りもせず歩み去る件の美女にも調べられるだろうが、彼女と自分とでは最初に持つ手札が違いすぎる。ゆえに情報収集のスピードも桁が違ってくるはずだ。

(どっから始めるのがええやろか。ゴザール派ァどついてみるのが手っ取り早いやろけど。ひぃさんしばらく動かれへんよって、つまむんはまだの方がええか。⸺ほな、南西フワルバーラーンからやな)

 脳内だけで結論を出したナーンは、主寝室の扉を見つめて立ち尽くすアルベルトにいつもの調子で声をかけた。

「アル坊アル坊、オレの部屋やねんけど」
「⸺ああ、ナーンさんの部屋は下の階だよ。二階は俺ひとりだったからちょっと寂しくってね」
「なんやもう寂しがりやなあアル坊は。ほなしゃあないからオレが一緒寝たるわ」
「当然、部屋は別だけどね?」
「そんなん当たり前やないか!なんが悲しゅうてオッサンふたりで同衾せなあかんねん!」
「いや今自分で言ったよね!?」
かっる冗談ジョークやがな!しっかしアル坊のその口調慣れへんなあ!歳取ったからゆうて気取りすぎやでほんま!」
「そりゃ俺だって、いつまでもガキじゃいられなかったしね」

 気安く肩を叩き、かつてと同じように言葉を交わすふたり。これで10年以上会っていなかったなどと言われても、事情を知らぬ者が聞いてもおそらく信じないだろう。
 まるで昨日も一昨日もこんな調子で酒を酌み交わしていそうな、そんな空気感を漂わせながら彼らはヴィオレを追い越して、さらに先を歩くジャワドを追いかけてゆく。ナーンの部屋決めと、家具の手配と搬入を頼むために。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


(流石に勇者パーティの元メンバーともなると、隙がないわね……)

 ナーンが視線を送っていたのと同様に、ヴィオレのほうでも彼の動向を注視していた。とはいえ目線を送れば確定でバレるのが分かり切っているから、ヴィオレにできたのはあらぬ方向を眺めつつ、それとなく気配を探ることだけだ。

(それにしても、なんなのかしら。私に注目しているようだけれど)

 ナーンが視線を送ってくるのは、こちらにバレるのを見越してのことだとヴィオレにも理解できている。その視線を受けたことで、少なくとも密かに調べられる事はないと安堵できるのだから皮肉なものだ。

(……どこかで会ったことがあるかしら?)

 一瞬考えて、無いわねと心中で否定する。会っていたら、おそらくどちらかがはずである。

 そしてそんなヴィオレは割り当てられている自室へ向かう足を止めない。視線を問いただす必要もないし、仮に必要があるとしても、これほど多くの耳目がある中では会話も何もあったものではない。

(……まあ、そのうち彼に教えを請うこともあるでしょうけれどね)

 ナーンは名実ともに世界最高峰の探索者スカウトである。なんと言っても認定勇者のパーティに在籍経験のある存命の探索者は世界でただひとり、彼だけなのだから。
 先々代勇者ロイの率いた“竜を捜す者たち”には探索者がいないため、レギーナを含めた当代の暫定勇者のパーティ三組に所属する探索者計3名がナーンに続く実力者とされている。だがヴィオレをはじめその3名はいずれもまだ“達人マスター”であり、“到達者ハイエスト”であるナーンよりも明らかに格下なのだ。

 行方をくらましてすでに10年あまり。もはや消息が知れることも、会うこともないと思っていた最高位探索者が目の前に現れた時の驚きと言ったらなかった。そんな彼を半ば強引に自分の配下に引き入れたのはレギーナのいつものワガママでしかないが、今回ばかりは彼女のその気まぐれに感謝する他はない。
 だって彼女以外には、おそらく引き留める事さえ難しかったはずだから。

 その彼が、アルベルトと肩を組んで自分を追い越してゆく。

(きっと彼は、王宮の外で動くのでしょうね)

 土地勘のないヴィオレが王宮の外を調べるのは容易ではない。[翻言ほんごん]を覚えて以降は王宮だけでなく王都の市街にまで手を伸ばしつつはあるものの、それでも王都の外となると全くの未知数である。その点で、すでに10年もこの地で生きてきた彼に敵うとは微塵も思わないし、彼もそれは分かっているはずだ。

「ミナー」
「あっ、はい」
「部屋で湯浴みがしたいわ。手伝ってくれる?」
「畏まりました」

 の棲み分けならわざわざ話し合う必要もないし、休養と息抜きも必要だ。だからひとまずはリラックスタイムと洒落込もう。
 そう決めて彼女は最年少の侍女を呼び、駆け寄ってくる少女を横目に見ながら、階段のすぐ隣にある自分の部屋の扉を開けた。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...