【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

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第七章【変わりゆくもの、変わらないもの】

7-5.園遊会に向けて(1)

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 ミールが伝えた、リ・カルン王アルドシール1世が主催する夏の園遊会の開催までには、まだ1ヶ月ほど猶予があるという。招待客の選定は終わっているにしても招待状の送付、会場や催し物やきょうされる酒食の準備などもあるため、これは妥当なところだろう。それに、レギーナたちを含めた招待される側の準備期間も必要だ。

「それにしても、ヴェルサッチが支店を出してるなんて思わなかったわ!」

 ということで今、レギーナたちは夏の園遊会で着用するドレスを新調すべく、王都アスパード・ダナの大常設市ボゾルグ・バーザールにやって来ている。彼女たちの目的はレギーナの故郷メディオラでも五大服飾工房ブランドのひとつに数えられるヴェルサッチの、東方リ・カルン王都支店であった。

「イトロなら東方こっちにお店出してても違和感ないんだけど、ヴェルサッチが来てるなんて意外だわ」
「東方の服飾ラ・モーダを是非とも当工房のデザインに取り入れたいと思いましてね。それにイトロさんも支店を出されてございますよ。こちらでの隊商や遊牧民たちの民族衣装とそのデザインを熱心に収集、研究されてあるそうで」

 ヴェルサッチの東方支店長が恭しくレギーナの下問に応えている。あらかじめ来店を伝えさせておいたので、母国の王女にして勇者であるレギーナを歓待するために、準備万端で待っていたわけだ。
 というのも、せっかくの園遊会に既存のドレスで出るわけにもいかないと宮殿秘書ダビーレ・サラーイのジャワドに相談したところ、西方の有名な服飾工房が支店を出しているというではないか。それで調べさせたら、出店していたのはなんとレギーナの故郷メディオラに本拠を置くヴェルサッチだったのだ。
 ヴェルサッチは比較的新興のブランドだが、華美で豪奢なデザインがエトルリアを中心に貴族など上流階級の社交界で持て囃されている。つまり今回の園遊会でのドレスを任せるのに、ヴェルサッチは最良の選択肢と言えるだろう。
 ちなみにイトロは民族衣装やその意匠デザインに強みのあるブランドで、メディオラでも老舗のひとつになる。

 なお五大ブランドの残り3つはプレダ、アルバーニとドルバーナである。
 プレダは元からエトルリア社交界で王侯貴族御用達の老舗ブランドで、服飾もそうだがアクセサリー類に強みがある。アルバーニは質実剛健さがウリで、騎士服や軍服をはじめとした紳士服に強い。創業者ふたりの姓を並べて縮めたドルバーナはエトルリアの気候風土や、エトルリア国内に本拠地を持つ神教や聖典教など世界的宗教の影響を受けて荘厳なデザインの作品が多く、宗教関係者に重宝されている。

「それで、今回のご用命は」
「今度、アルドシール陛下ご主催の園遊会があるのよ。だからそれに着用するドレスを仕立ててもらうわ」
「聞き及んでございます。姫に召して頂けますれば、当方にはこの上ない宣伝となることでしょう。全霊を持って仕立てさせて頂きますのでお任せ下さいませ」
「私だけじゃなくて、蒼薔薇騎士団わたしたち全員分お願いするわ」
「畏まりました。他に何かご要望などはございますか」
「そうね、私たちも一応こちらでの社交用にドレスは持ち込んでいるのだけれど、こちらの気候に対応できてないの。さすがにこんなに暑いと思ってなかったのよね」
「なるほど、それでお召し物を新しくお仕立てになりたいと。承りましてございます」

 花季の終わりにアプローズ号がラグを出発して、リ・カルン公国の王都アスパード・ダナにたどり着くまでがおよそ1ヶ月半。それから約半月をかけて文献調査などを経て蛇王に挑み、敗れて戻り、リハビリを兼ねた鍛え直しと気の修行に取り組み始めてから、そろそろ1ヶ月が経とうかとしている。
 つまり、ちょうど今が夏の真っ盛りである。ただでさえ西方世界より南に寄っている地理的条件もあって、西方しか知らないレギーナたちにとっては灼熱の世界と言っていい。湿度がなくカラッと乾燥しているため、暑さの割に不快感がそこまでないのがせめてもの救いだろうか。

「そう言えば、こちらでは“暑季しょき”って呼ばないのね」
「左様でございます。西方のような“雨季うき”というものがありませんで、季節自体も“四季”と呼ぶのだそうでございます」

 西方世界で季節と言えば、花季かき、雨季、暑季、稔季ねんき寒季かんきの五つで、総称して“五季ごき”という。だがリ・カルンでは一年を四つの季節に分けて、バハールタべスタンパーイーズゼメスタンと呼ぶ。雨は一年を通してほとんど降ることはなく、降るとしても日暮れの少し前に瞬間的にザッと降ることがあるほか、冬から春先にかけて散発的に降雨がある程度だ。
 それだけに大地は乾燥し、数少ない河川と湧き水を中心としたオアシスが貴重な水源となっている。

「そんな土地なのに、よくこんな歴史ある大国がこの地に根付いてきたものよね」
「我ら西方人には奇異に映りますが、それだけ大河の恩恵が深かったということでございましょう」

 文明というものは、常に水場から生まれるもの。人が水なくしては生きられないだけに、その営みは常に水のあるところに興るのだ。水を求めて人が住み着き、歳月とともに増えた人口がやがて水の少ない砂漠地帯にも居を求め、そうして出来上がったのが今のこの国の姿なのだろう。

「ま、いいわ。早速採寸をお願い」
「姫ちゃあん、そこはまーちぃともうちょっと歴史に思いば馳せるとこやろ」
「そういうのはミカエラあなたに任せるわ」

 必要な知識以上のものを求めないドライ女子。それがレギーナという娘である。





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